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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました ※第1部完  作者: 優木凛々
第2章 謎の古城

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【一方その頃】 文官カミーユ

 

 アリスが魔法研究所を追い出されてから、約2週間後。


 王宮の片隅にある執務室にて。

 1人の傲慢そうな眼鏡の文官が机に向かって仕事をしていた。


 彼の名前は、カミーユ・ファーガソン。

 アリスを3日後に無理矢理追い出した文官であり、

 アリスの手柄を横取りしたジャネットの出身であるファーガソン公爵家の分家の人間だ。


 そんな彼が、神経質そうに眉間にしわを寄せながら仕事をしていると、



 コンコンコン



 ドアをノックする音が響いた。



「……どうぞ」



 やや苛立ちを含んだ声で言うと、部下である少年文官が入ってきた。

 一礼ののち、口を開く。



「第3騎士団団長、ロッソ・ターナー様がいらっしゃいました」



 カミーユは眉をひそめた。


 ロッソ・ターナーといえば、知らぬ者はいない高名な騎士だ。

 強大な魔剣を操り、様々な困難からこの国を守ってきた。

 現在は、国防の要である東の砦にいるはずだが……。



(東の砦にいるはずの彼が、何の用だ……?)



 疑問に思いながら、カミーユは席を立った。


 急いで、ロッソが待っているという応接室へ向かうと、

 そこには、大柄で片目に眼帯をした男性が、ゆったりとソファに腰掛けていた。


 鋭い目でカミーユを見る。


 その迫力に、カミーユは慌てて背筋を伸ばした。

 笑顔を作ると、ぺこぺこと頭を下げる。



「お待たせしました。ロッソ騎士団長様、カミーユ・ファーガソンでございます」



 ロッソは、ゆっくりとした動作で胸ポケットから一通の手紙を取り出すと、机の上に置いた。



「こちらに、こんなものが届いたのだが」

「……失礼します」



 カミーユは、手紙を手に取ると開いた。

 中には、やや子どもっぽい字で、こう記されていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ロッソ騎士団長


 こんにちは、お元気ですか。

 突然ですが、私は魔法研究所を出ていかなくてはならなくなりました。

 これから魔剣の整備ができません。ごめんなさい。

 文官のカミーユさんが、後の仕事を引き継いでくださるので、困ったらそちらにお問い合わせください。

 どうぞお元気で。


 アリス・ブリックより 

 ―ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 カミーユは蔑みの目で手紙を見た。



(ふん、相変わらず幼稚な文章だ)



 実を言うと、このパターンの問い合わせは、これで4回目だ。

 内容は、魔法陣のメンテナンスなど、アリスが依頼されていた仕事だ。


 仕事自体は全てを魔法研究所に回しているものの、こうした対応に余計な時間を取られてしまっている。



(くそ……こんなことなら、引き継ぎをさせておけばよかった)



 眉間にしわを寄せていると、ロッソが口を開いた。



「それで、もちろんできるのだろうな?」



 はっと我に返り、カミーユは慌てて頭を下げた。



「も、もちろん、私の方で責任を持って対応させて頂きます。ただ、今すぐには難しいので、少しお時間を頂ければと……」

「わかった」



 ロッソは立ち上がった。



「今日のところは構わん。だが、次に戻ってきたときには、必ず頼むぞ」

「はい、それはもちろん」



 カミーユが、にこにこと笑いながら、何度も頭を下げる。



 ――そして、ロッソが去ったあと。


 カミーユは面倒くさそうにため息をついた。

 すぐに使いの少年文官を呼びつける。



「ロッソ騎士団長の魔剣の整備を、魔法研究所に依頼しろ」

「はい、わかりました」



 少年文官が出ていく。



 ――通常であれば、これで話は終わりのはずだ。

 しかし、今回はそうはいかなかった。


 しばらくして戻ってきた少年文官が、カミーユにこう報告したのだ。



「ロッソ様の魔剣の整備は、魔法研究所ではできないそうです」



 カミーユは、イライラと少年文官を睨みつけた。



「これまでのものが出来て、なんで今回はできないんだ」

「しかし、実際にそう言われまして……」



 少年文官が消え入るような声で言う。

 カミーユは軽く舌打ちした。



(ふん、どうせ使いの者が来たからと、気安く断ったんだろう)



 面倒だと思いながら、彼は自ら魔法研究所に足を運んだ。

 質素な応接室に通される。



 ――そして、イライラしながら待つこと、10分。


 ノックの音がして、後ろの扉から誰かが入ってきた。



「ふん、ずいぶんとゆっくりの御登場ですね」



 振り向き様にそう嫌味を言いかけて、彼は思わず息を呑んだ。


 そこにいたのは、疲れ果てた様子の副所長だった。

 ヨレヨレの服を着ている。



「ど、どうされたんですか?」



 思わずカミーユが尋ねると、副所長は弱弱しく微笑んだ。



「……ジャネット所長は現在忙しく、私がその代替をしているものですから、少し忙しくしておりまして」

「そ、そうですか」

「ええ。それに、そちらから回ってくるアリス元研究員の仕事が、なかなか重くてですね……」



 副所長はため息をついた。


 彼の話によれば、アリスが担当していた仕事は、難易度が高いものが多いという。

 しかも、現在『広範囲結界魔法』の実装に人を取られてしまっており、引き継げる者がいない。


 結果、副所長が引き受ける羽目になり、寝る時間がとれないらしい。



「まあ、国王陛下のご命令とあれば致し方ありませんが、引き継ぎができなかったのは痛かったですね。

 引き継ぎさえあれば、今よりずっと楽だったでしょうに……」



 副所長が疲れ果てたように言う。


 カミーユは目を泳がせた。

 本来期日などなかったところを、準備期間3日で追い出すことを決めたのは、彼だったからだ。


 気まずさを隠すように、彼は話題を変えた。



「ところで、先ほどの魔剣の件ですが」

「ああ、ロッソ騎士団長様の魔剣ですね」



 副所長が申し訳なさそうに頭を下げた。



「申し訳ありませんが、あの魔剣を整備することは、我々では不可能です」

「不可能……? それはなぜですか?」



 副所長の話によると、ロッソの魔剣は特殊らしい。



「三百年以上前に作られたもの――つまり、古代兵器の一種なのです。当然、使われているのは古代魔法でして……」



 この研究所で古代魔法陣を扱えたのは、故・ビクター所長と、アリスだけだったという。



「ということは……ロッソ騎士団長の魔剣は修理できない、と?」



 副所長は静かにうなずいた。



「はい、その通りです。引継ぎがあれば話は別でしたが、現状我々では解析すら難しいかと」



 カミーユは大きな衝撃を受けた。

 冷や汗が額を流れ落ちる。



 ちなみに、アリス不在の穴を埋める取り組みは行っており、研究員2人ほど古代魔法を勉強させ始めたという。



「ただ、まだ始めたばかりですから、成果が出るには1年以上はかかるかと」



 また、他の古代魔法研究者に来てもらえないかと探してはいるが、

 アリスと同じことの出来る研究者が見つからないという。


 カミーユが小さな声で尋ねた。



「……この状況を、ジャネット様はご存じですか?」



 副所長は小さくうなずいた。



「ヴァルモア領行きが決まる前から、アリス研究員については何度も報告しておりました。しかし……」



 声をひそめる。



「これは内密ですが、アリス研究員が“孤児”だからという理由で、聞く耳を持ってもらえなかったのです」



 カミーユは目を逸らした。

 彼自身も、アリスを“下品な孤児”と侮っていた。

 だが――実際はどうだったのか。


 恐る恐る尋ねると、副所長は苦笑した。



「アリス研究員は、本物の天才です。

 彼女がいたからこそ、古代魔法の研究が進み、『広範囲結界魔法』が完成しました。

 最年少で研究所に入れたのは、彼女の才能がずば抜けていたからこそです」



 カミーユは言葉を失った。

 背中を滝のような汗が流れる。



(もしかして……これはマズイのではないか……?)



 その後、2人は話し合った。

 それぞれ、ロッソの魔剣をメンテナンスできそうな人間を探してみることになる。



「ただ、あまり期待しない方が良いと思います。アリス研究員の代わりなどいませんから」

「……わかりました」

「いっそヴァルモア領にいる彼女に頼めないのですか?」

「いえ、それは……」



 カミーユは目を逸らした。

 それが出来ないことは、彼もよく知っている。



 その後、話し合いが終わり、カミーユは部屋を出た。

 顔面蒼白になりながら廊下を歩く。



(くそっ! 何がなんでも代わりの研究者を探さなければ!)



 このままでは、ロッソ騎士団長の魔剣など、全てカミーユの責任となってしまう。

 そんなことになれば、自分が積み上げて来た輝かしいキャリアが崩壊しかねない。



「くそっ! くそっ!」



 彼は必死な形相で、走るように王宮へと戻っていった。






着々と迫るざまぁの影……

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