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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました ※第1部完  作者: 優木凛々
第2章 謎の古城

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04.謎の古城で夜が明ける

 

 テオドールがアリスの方を向いた。



「とりあえず、話しましょうか」

「うん、そうだね」



 2人は荷物を降ろすと。

 カーテンの仕切りの手前にある丸テーブルに向かい合って座った。


 テオドールが尋ねた。



「アリスさんは、この場所についてどう思いますか?」

「とりあえず、安全ではあると思う。結界もあるみたいだし」

「結界?」

「うん、ほら、橋の上の魔力の揺らぎ。あれ、たぶん結界の類だと思う」



 テオドールが首をかしげた。

 どうやら彼は何も感じなかったらしい。



「どんな結界なんですか?」

「詳しいことは分からないけど、ドラゴンを防げるくらいだから、かなりすごい結界だと思う」



 言いながら、アリスは高揚を覚えた。

 改めて考えると、本当に凄い。

 この結界を支える魔法陣を、ぜひこの目で見てみたい。



(よし……!)



 居てもたってもいられなくなって、彼女がガタンと席を立った。

 テオドールが不思議そうな顔で彼女を見上げる。



「どうしたんですか?」

「ビクトリアさんに、結界の魔法陣を見せて欲しいってお願いしてくる!」

「え!」



 今にも走り出しそうな勢いのアリスを、テオドールが慌てて止めた。



「ちょっと待ってください! さすがに来て早々は止めましょう!」

「なんで?」

「その結界、この城の守りの要なんですよね? 来たばかりの部外者が見せてくれと言うのはさすがに」

「……確かに」



 アリスは、思案した。

 自分がビクトリアでも、いきなり見せろと言われたら「なんだこいつ」と思いそうだ。


 はやる気持ちを押さえながら、彼女は椅子に座った。



「……わかった。あと何日かしたら聞きに行くことにする」



 アリスの、落ち込んだ猫のような姿を見て、テオドールが思わずといった風に吹き出す。



 その後、2人はこの場所について話し合った。

 テオドールの感覚としても、ここは安全らしい。



「この部屋に来る途中に気配を探りましたが、敵意は一切感じられませんでした」



 人々の雰囲気はのんびりとしていて穏やかなものだったらしい。


 ビクトリアたちの素性についてはよく分からないが、

 とりあえず王宮絡みではなさそうだという意見で一致する。




 *




 その後、アリスたちはカーテンに仕切られた部屋のどちらを自分の部屋にするかを決めた。



「私は右がいいかな」

「では、俺は左に」



 アリスは、右側に入ると、リュックサックを降ろした。

 ベッドにバタンと仰向けに倒れ込む。



「はあ……柔らかい寝床、最高……」



 王宮で使っていたベッドに比べれば、硬いことこの上ないが、1週間近く地面で寝ていたアリスにとっては天国のような寝心地だ。


 そして、起きなきゃと思いつつ、ついウトウトしていると、



 コンコンコン



 ノックの音が聞こえてきた。

「はい」と、テオドールが扉を開ける音がする。


 アリスがのろのろと起き上がって覗くと、そこにはオーウェンの姿があった。

 水差しを持っている。



「これを持ってきた」

「ありがとうございます」



 テオドールがお礼を言って受け取ると、オーウェンが口を開いた。



「これから裏庭で鍛錬をするんだが、君もどうだ」

「鍛錬ですか。そうですね……」



 そう言いながら、テオドールはアリスの方を振り返った。

「行ってもいいですか」と少年のような表情で言う。



 アリスは感心した。

 さっきまで森で戦っていたのに、また鍛錬するとか、彼の体力は一体どうなっているのだろうか。


 断る理由もなく、彼女はうなずいた。



「うん、いってらっしゃい」

「ありがとうございます」



 テオドールが嬉しそうな顔で出て行く。


 遠ざかる足音を聞きながら、アリスは再びベッドに寝そべった。

 同じ人間とは思えないと思いながら、目をつぶる。





 ――そして、ふと気が付くと、部屋の中が暗くなっていた。


 一瞬どこか分からなくなるものの、部屋を見回して、自分が遺跡の中にいることを思い出す。


 アリスは起き上がると、窓に近づいた。

 外を見ると、中庭は薄闇に包まれていた。

 畑には誰もおらず、ただ風が吹いている。



(わたし、どのくらい寝たんだろう……)



 ボンヤリとながめていると、扉を開ける音がした。

 振り返ると、ランプを持ったテオドールが立っていた。



「ただいま帰りました」



 どうやら鍛錬が終わって戻って来たらしい。

 彼は共通部分にあるテーブルの上にランプを置くと、椅子に座った。


 その向かいに座りながら、アリスはランプを見つめた。


 質の悪そうなガラスでできており、中でロウソクがやけに明るく燃えている。

 少しクセがある薬草のような匂いが漂ってくる。


 ここで作ったのかなと思いながら、アリスが尋ねた。



「鍛錬、どうだった?」

「かなり面白かったです。オーウェンさんは、相当な手練れですね」

「そうなの?」

「はい、あそこまで強い人は滅多にいないと思います」



 テオドールの話だと、会った時から強そうなオーラがビシビシでていたらしい。

 鍛錬には、他にも、弓矢を扱う青年や、双剣を扱う女性などがいたらしい。



「そちらも相当な腕前でした。騎士団でもあそこまでの腕前の者は滅多にいません」



 ちなみに、その弓矢の青年は結構喋るタイプだったようで、色々と話を聞けたらしい。



「やたらと王都について聞きたがっていました。たぶん彼は王都に住んでいた人間だと思います」

「ここの人、みんなそうなのかな」

「わかりませんが、何となく上品な感じはしますよね。特にあのビクトリアという女性」



 2人がそんな話をしていると、



 コンコンコン



 ドアをノックする音が聞こえてきた。

 ここに案内してくれた中年の女性が顔をのぞかせる。



「夕飯だよ」

「はい、ありがとうございます」



 ランプを持って歩く女性を、アリスがテオドールと共に付いて行く。

 城内はほぼ暗闇で、たまに遠くの方にランプの光らしきものが見える。



(大昔のお城ってこういう感じだったのかな)



 案内されたのは、食堂のような雰囲気の部屋だった。

 ビクトリアとオーウェンが、先に椅子に座って待っている。


 ビクトリアは立ち上がると、ニコニコしながら口を開いた。



「どうぞお座りください」



 大きなテーブルの上には料理が並べられていた。

 陶器製の皿の上には、パンや肉、野菜などの料理が載っており、結構豪華だ。


 4人は向かい合って座ると、食事を始めた。


 アリスはサラダを口に入れて、目を丸くした。



「……っ!」



 驚くほど瑞々しい上に味が濃い野菜ばかりで、トマトなんて甘い果物のようだ。

 パンも少し酸っぱいが味わい深く、肉も柔らかくて、いい感じでハーブが効いている。



(どれもおいしいなあ)



 アリスは、幸せな気持ちで食べ始めた。

 今まで食べた中で、一番おいしい料理かもしれない、と思う。


 ビクトリアたちとは、天気の話や森の話など、無難な話をした。

 今日の鍛錬の話なども出る。


 お腹がいっぱいになると、アリスは眠くなり始めた。

 コクリ、コクリ、と居眠りを始める。


 その後、彼女は誰かに運ばれているような感覚がした。

 誰かに靴を脱がされて、「ありがとう」と言った記憶はあるが、それ以降は何も覚えていない。



 そして、気か付くと部屋はすでに明るくなっており、古城に朝が訪れていた。






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