03.アリス、謎の古城に滞在することになる
「満月の前後3日ほど、山からドラゴンが降りてくるので、森を歩くのは自殺行為です」
ビクトリアの言葉に、アリスは目を大きく見開いた。
ドラゴンといえば、1000年以上生きると言われている最強の魔法生物だ。
数が非常に少なく、半分伝説上の生き物と思われている。
アリスも、巨大な爪や牙は見たことがあるが、実物は見たことがない。
驚くアリスの横で、テオドールが険しい顔をした。
「……ドラゴンですか」
「ええ、彼らは周期的に同じ行動を繰り返しますので」
ビクトリアによると、ドラゴンは普段は山の中にいるが、
満月の前後3日は魔の森に降りてきて、獲物を狩るらしい。
(……なるほど、そういうことか)
アリスは合点がいった。
実を言うと、彼女はずっと不思議に思っていた。
確かに、魔の森の魔獣は強力で、何度も危ない場面があった。
しかし、手練れ揃いだったという冒険者バッツたちが全滅寸前まで追い込まれるほどだろうか、と。
(でも……ドラゴンがいるならうなずける)
アリスが納得していると、ビクトリアが口を開いた。
「そういった事情もありますので、満月が過ぎるまでこの古城に滞在してはいかがですか。幸いなことに、ここはドラゴンに襲われませんので」
「そうなのですか?」
「ええ、上空までくることはあるのですが、攻撃したり中に入ってくることはありません」
アリスは「へえ」と思った。
ドラゴンまで防ぐなんて、ここを守っている魔法は相当なものだ、と思う。
テオドールがアリスを見た。
「俺としては滞在させて頂いた方が良いと思いますが、アリスさんはどう思いますか?」
「わたしもそう思う」
アリスがコクリとした。
危険は避けた方がいい。
それに、ここを守っている魔法的なものにも物凄く興味がある。
その後、ビクトリアが部屋を準備してくれることになった。
その対価として、テオドールが何かできることはないか、と申し出る。
ビクトリアは思案した。
「そうですね……。狩を手伝っていただけると嬉しいです。満月まで食べ物を貯めておかなければならないので。それと――」
ビクトリアがアリスの目を見た。
「アリスさんは魔法士でいらっしゃいますか」
「いえ、魔法研究者です」
アリスが素直に答えると、ビクトリアが思わずといった風に目を見開いた。
振り向いてのオーウェンと顔を見合わせる。
「魔法研究者……ということは、魔法陣を作ったり直したりできるということですか?」
「はい、そういうの大好きです」
「もしかして、魔剣の修復も?」
「もちろんです。道具も持ってきていますので、ここでできます」
ビクトリアが「まあ」という風に息を呑んだ。
「もしよかったら、何本か魔剣の修復をして頂けませんか」
「いいですよ。魔法のインクもたくさんありますので」
「まあ! それは本当にありがたいです! 我々の中に魔法の素養がある者がいなくて困っていたのです」
魔剣の修復を引き受けながら、アリスは首をかしげた。
魔法を使える者がいないということは、一体この城を守っている魔法はどうやって維持しているのだろうか。
(それに、魔剣があるのも不思議な話だよね)
純ミスリルで作られる魔剣は、非常に高額だ。
1本で王都の豪邸が10軒くらい買えるくらいらしい。
しかも、魔剣を使いこなすにも、相当な才能と努力が必要だと聞いている。
王宮付きの騎士団の中でも、魔剣持ちはテオドールのような上級騎士くらい。
相当レアだ。
(そんな人がこの古城にいるってことだよね。しかも、”何本か”ってことは複数……)
この場所は一体何なのだろう、と改めて思う。
*
その後、アリスとテオドールは、これから泊まる部屋に案内された。
泊るのは石造りの建物の2階の端。
大きめの部屋で、真ん中をカーテンが掛けられており、2つに区切ってある。
両方の壁際にベッドがくっついて置かれており、テーブルや何かを入れる木箱など、生活に必要そうな家具が揃っている。
(明るくて、いい感じの部屋だ)
案内してくれた気さくな感じの中年女性によると、この部屋は若い女性が2人で住んでいたらしい。
「2人とも結婚してね。空き部屋になったってわけさ。はい、これ鍵ね」
「ありがとうございます」
そして、女性が去った後、テオドールがアリスの方を向いた。
「とりあえず、話しましょうか」
「うん、そうだね」
2人は荷物を降ろすと。
カーテンの仕切りの手前にある丸テーブルに向かい合って座った。
テオドールが口を開いた。
「アリスさんは、この場所についてどう思いますか?」
2人は謎の古城に滞在することになった!




