01.アリス、遺跡の内部に侵入する
第2部スタート!
「……え、子ども……?」
アリスが目を見開いて固まった。
突然現れたその子は、4,5歳といった雰囲気の女の子で、可愛いワンピースを着ている。
ウサギのぬいぐるみを抱えており、どう見ても普通の女の子だ。
(なんで魔の森の真ん中に、女の子が……?)
アリスとテオドールが呆然と固まっていると、女の子がとことこ歩いてきた。
2人を見上げると、首をかしげる。
「どうしたの?」
その言葉に、剣を構えたテオドールがハッと我に返った。
剣をさっと仕舞うと、しゃがみ込む。
「急に出て来たから驚いちゃったんだ。ごめんね」
「うん、いいよ。あたし、ミルフィ」
自己紹介してくる女の子に、テオドールが笑顔になった。
「いい名前だね。俺はテオドールで、うしろのお姉さんはアリスだよ」
「おにいちゃんたちも、いいなまえだね!」
女の子が、楽しそうに笑う。
その可愛らしい笑顔に、アリスは思わず頬が緩んだ。
(なんか癒されるなあ)
王都にいたころは、子どもを見ても「なんかいるな」くらいにしか思わなかった。
でも、危険な森でサバイバル生活をしている中で見ると、めちゃくちゃ癒される。
テオドールも同じなのか、「そっか」と言いながらニコニコ笑っている。
しかし――――。
グルグルグル……
森から響いてきた唸り声で、ほんわかした空気が一瞬で霧散した。
狼の遠吠えのような声も聞こえてくる。
アリスは、魔法陣が入っているポケットに手を入れた。
テオドールが警戒した顔で立ち上がる。
そんな2人に、女の子が声を掛けた。
「こっちきて」
「え? こっち?」
「かくれるの」
女の子は、遺跡の入口を目指して橋を渡り始めた。
アリスは、思わずテオドールと顔を見合わせた。
一瞬迷うものの、とりあえず付いて行こうと目で会話すると、女の子に付いて行く。
そして、橋を渡ろうとした――その瞬間。
「……っ!」
アリスは思わず立ち止まった。
魔力的な境界のようなものを感じる。
(これって……もしかして結界……?)
思わず立ち止まっていると、前を行くテオドールが振り返った。
「アリスさん、とりあえず、行きましょう」
アリスは、我に返った。
急いで橋を渡り切り、崩れて狭くなっている城門を体を横にしてくぐる。
そして、遺跡の中に足を踏み入れ――。
「…………え?」
彼女は呆気に取られて立ち尽くした。
目の前に広がっていたのは、整備された青々とした畑だった。
トマトやキャベツ、玉ねぎらしきもの植わっており、野菜棚にも何かぶら下がっている。
畑の向こうには古い石造りの建物があり、その奥には尖塔がそびえている。
古い城の中庭が畑になっている――そんな感じだ。
(なにここ……? どういうこと……?)
アリスが絶句していると、先に再起動したテオドールが、ミルフィに尋ねた。
「ええっと、ここはどこかな?」
「ここはね――――あっ!」
答えかけて、ミルフィが突然走り出した。
その方向を見ると、畑の向こうから若い女性がやってきた。
ミルフィを見て、駆け寄ってきて抱き締める。
「もう、どこに行っていたの! 心配したのよ!」
「えへへ、ごめんなさい」
ミルフィが楽しそうに笑う。
そして、彼女は後方に立っているアリスたちを指差すと、得意げに胸を張った。
「おきゃくさん、つれてきた」
「え、お客さん?」
女性が2人を見て、大きく目を見開いた。
口をパクパクさせる。
テオドールが慌てたようにお辞儀をした。
「すみません、許可もなく入ってしまいまして。たまたま通りかかったところ、お嬢さんにお会いしまして、付いてきてしまいました」
一緒に頭を下げながら、アリスは思った。
魔の森を”たまたま通りかかった”は、なんか変な気がする。
しかし、女性も混乱しているようで、
「あ、いえ、その、こんな何もないところへ、ようこそ」
という、これまた不思議な返事を返す。
そして、そこから「ちょ、ちょっと待っていてください!」と、女性が走って行ったり。
ミルフィが、「ともだち!」と、男の子を連れてきて紹介してくれたり。
色々とすったもんだした後、アリスたちは門の近くにある石造りの建物の2階に通された。
「こ、こちらで座ってお待ちください」
まだ少し動揺している女性が、そう言ってカクカクと立ち去る。
アリスは部屋を見回した。
漆喰の壁に大きな窓、そのそばには、木で作られたしっかりとした机と椅子が置かれている。
かなり古いが、普通に部屋だ。
窓の外では、人々がのんびりと畑仕事をしており、とても魔の森の真ん中とは思えない。
アリスは、横にいるテオドールを見上げた。
「これ、どういうことだと思う?」
「いやあ……俺にもさっぱり」
そう言いながら、テオドールが窓に歩み寄った。
下を確認すると、アリスを振り返る。
「いざとなったら、ここから逃げましょう」
「うん、わかった」
さすがテオドール、と感心しながら、アリスがうなずいた。
脱出経路の確認なんて、自分では絶対に思いつかない。
――と、そのとき。
コツコツコツ、と廊下から複数の足音が聞こえてきた。
続けて、木の扉をノックする音が聞こえて来る。
「……どうぞ」
テオドールが慎重に答えると、扉が開いて、2人の人物が入ってきた。
1人は、白金色の長い髪が美しい穏やかそうな美しい女性だ。
服装は動きやすそうで質素なものだが、どことなく品がある。
もう1人は、黒髪の眼光鋭い大柄な男性だ。
先に入ってきたが、すぐに女性の少し後ろに控えるように立つ。
女性が美しく微笑みながら口を開いた。
「はじめまして。こちらで取りまとめをさせて頂いている、ビクトリアです。こちらはオーウェンです」
女性の少し後ろで、黒髪の男性が警戒するように軽く頭を下げた。
続きは明日夜投稿します!
第2章終了まで1日1,2話ペースで更新していきます。




