15.謎の建造物(1/2)
それは、森に入って5日目の午後のことだった。
テオドールを先頭に森の中を歩いていると、目の前に巨木が現れた。
魔の森はとにかく巨木が多いが、この木は特に大きかった。
アリスは口を開けて上を見上げた。
「すごいね、天まで届いてそう」
割と登りやすそうだったことから、テオドールが木を登り始めた。
上から森を見渡して、今どのへんにいるか目処をつけたいらしい。
するすると登る彼を見上げながら、アリスは感心した。
半分人間やめてるよねえ、と思う。
しばらくして、彼はするすると下に降りて来た。
アリスに手を差し出す。
「ゆっくり休めそうな場所がありました。行きましょう」
「え?」
(行くって言っても、わたし、木とか登れないんだけど)
戸惑っていると、彼はアリスの前にしゃがみ込んだ。
背中を向ける。
「掴まってください」
「え、大丈夫?」
「はい、問題ありません」
アリスがおそるおそる背中に乗った。
「大丈夫ですか」
「うん、大きくて固い背中だね」
「……そういうこと言うの、やめてもらっていいですか」
アリスが素直に感想を言うと、テオドールが顔を背けながらボソッと言う。
そして、落ちないようにロープで腰のあたりを縛ると、ゆっくりと木を登り始めた。
(こ、怖い!)
未知の感覚にアリスは、必死にテオドールの首にしがみついた。
「……アリスさん、首が締まってます」
「ご、ごめん!」
そう言われて、慌てて力を弛め、ギュッと目をつぶる。
そして、
「着きましたよ」降ろされた場所は、天然の展望台のような場所だった。
高い場所にあるお陰で、明るい太陽の光がさしている。
アリスは、まるで廊下のように広くて平らな枝の上に立つと、伸びをした。
久し振りにちゃんと太陽浴びた気がする。
「太陽って気持ちがいいね」
「この森は太陽が地面まで届きませんからね」
気持ちよさそうなアリスを見て、テオドールが口角を上げる。
そして、木を見上げた。
「もう少し上まで登って見てきます」
「うん、気を付けてね」
アリスはその場に座った。
木に寄りかかりながら、ボンヤリと遠くをながめる。
視線の先は抜けるような青空で、遠くに山が連なっているのが見える。
(これくらい上にいくと、景色って結構変わるもんなんだね)
のんびりと水筒の水を飲む。
そして、陽ざしの下でまどろんでいると、上からするするとテオドールが戻ってきた。
どことなく様子が変で、眉間にしわが寄っている。
「どうしたの?」
アリスが尋ねると、テオドールがゆっくり口を開いた。
「……森の中に建物がありました」
「え、建物?」
「森に紛れてよく見えないのですが、恐らく、城だと思います」
アリスは考え込んだ。
もしかして、王妃が言っていた城ってこのことじゃないだろうか。
同じことを思ったのか、テオドールがうなずいた。
「冒険者バッツが見つけた城かもしれません。あと、王家が指定した城の可能性も高い気がします」
「……こんな奥にあるとは思わなかったね」
アリスがゲンナリしながら言うと、テオドールが苦笑する。
その後、2人は話し合った。
「わたし、ちょっと行ってみたいな」
「俺もです。夕方前には着きそうですし、今日はあそこに泊まりましょうか」
「久々の屋内だね」
「そうですね、あれを屋内と言って良いか微妙な気がしますけど」
テオドールは、アリスを背負うと下に降りた。
城の方向を目指して歩き始める。
アリスの足取りは軽くなった。
目に見える目標ができると、やはり進み甲斐がある。
しかし、そんな気持ちとは裏腹に、城までの道は困難を極めた。
森の中央に近づくに連れ、魔獣がどんどん強くなってきたのだ。
そのため、テオドールはいつも加減している身体強化を強めることになり、
滅多に魔力切れを起こさない彼が、危うく魔力切れを起こしそうになった。
アリスは急いで結界を張ると、彼を休ませた。
「大丈夫?」
「ええ、大丈夫です」
テオドールが、魔力回復を早めるために、水を飲んで横になる。
「こうなると、ますますあの城に行く必要がありますね」
「そうだね。結界を張るにせよ、壁があった方がいい」
その後、アリスたちは仮眠を取ると、再び城に向かった。
こまめに休みを取りながら、慎重に前へと進む。
進むに連れて、アリスは不思議なものを見掛けるようになった。
崩れたように詰み上がっている四角い石や、井戸跡のような穴など。
緑の苔に覆われたり、そこから木が生えているなど、森と一体化しているが、どう見ても人工物だ。
(城があるってことは、このへんに人が住んでいたのかな)
アリスは、井戸跡と思われる穴をのぞいてみた。
中は暗くて何も見えない。
小石を落としてみると、かなり時間が経ってから、ぽちゃん、という音がした。
「枯れてないみたいだね」
そう言いながら、何気なく井戸の奥に目をやって、アリスは目を見開いた。
「え、あれ、もしかして魔法陣……?」
(2につづく)
夜もう1話投稿します。




