14.魔の森4日目(2/2)
本日2話目です。
そして、森に入って4日目の夕方。
暗くなってきた森の中で、アリスが焚火の前に座って魔法陣を描いていた。
描き上がると、地面において、魔力を流す。
【起動・結界:魔法陣】
焚火を中心とした半径2メートルほどが、ドーム状の結界に覆われる。
アリスが開発していた『広範囲結界魔法』の簡易版で、魔獣や攻撃を防ぐ効果がある。
とても便利なのだが、張る時に魔力の消費量がかなり激しいのが難点で、
(……痛っ)
アリスは、頭痛に見舞われた。
がんばって調整していたつもりだが、最後の最後に魔力が少し足りなくなってしまった。
(難しいなあ、魔力管理)
テオドールが食料を取りに行っている間、水筒の水を飲んで横になる。
しばらく、うとうとしていると、テオドールが戻ってきた。
背負っていた袋を地面に置くと、持っていた木の枝に差してある大きな魚を4匹、火の傍の土に差す。
(おいしそう!)
銀色に光る魚を見て、アリスは目を輝かせた。
この森はとても危険だが、採れる食べ物は魔力が豊富に含まれていて、とても美味しい。
魚がジュウジュウ焼けるのを、わくわく見守りながら、アリスが尋ねた。
「これって、さっき通った川の魚?」
「はい。あと、これも見つけました。食べられるといいのですが」
テオドールが、袋からオレンジ色や赤色の果物を取り出した。
アリスは果物を手に取った。
軽く魔力を流し、毒などが入っていないかを確認する。
「……大丈夫みたい」
「良かった。蝶がとまっていたので、きっと甘いですよ」
魚が焼けると、テオドールが背嚢から岩塩の塊を取り出した。
ナイフで軽く割ると、指で砕きながら魚にふりかける。
「どうぞ」
「ありがとう!」
アリスは目をキラキラさせながら魚に口をつけた。
「美味しい! 新鮮って感じがする」
「臭みが全くありませんね」
テオドールも美味しそうに食べながら言う。
そして、瑞々しい果物を美味しく食べながら、アリスは上を見上げた。
森の隙間から、夜空に星が輝いているのが見える。
アリスは、つぶやいた。
「魔法って、本当に便利だよね」
火も熾せるし、水も出せるし、毒が入っていないか調べることもできる。
自分の身も守れるし、危険な魔獣がうじゃうじゃいる森の中でも安全に星空が楽しめる。
(魔法ってこんなに便利だったんだね)
感慨深そうに火を見つめるアリスを見て、テオドールが思わずといった風に吹きだした。
「アリスさん、それ毎日言ってますよ」
「うん、毎日思ってる」
アリスが真面目に言うと、彼がおかしそうに笑う。
「でも、確かにそうですね。俺も魔法がここまで便利なものだとは思ってなかったです」
彼の話によると、森の行軍では、疲労が一番の敵らしい。
まともに休めない環境にジワジワと疲労がたまっていき、それがミスにつながって死ぬことも多いという。
「今回ここまで無傷で来られているのは、間違いなくアリスさんの魔法のお陰ですよ」
「それを言うなら、テオドールの人間離れした動きのお陰だよ」
「……それ、褒めています?」
「うん」
真剣にうなずくアリスに、テオドールが苦笑する。
その後、彼は地図を取り出した。
広げてアリスに見せると、森の南にある大きな山を指差す。
「今日この山が見えたんで、もうすぐ森の真ん中だと思います」
「ここまで4日ってことは、あと1週間くらいで森を抜けられるってこと?」
「ええ、たぶん。ただ、魔獣が明らかに強くなってきているので、油断しないようにいきましょう」
その後、簡単な打合せを済ませた後、2人は焚火の横に寝転がった。
朝まで寝ることにする。
「おやすみなさい、アリスさん」
「おやすみ、テオドール」
横になりながら、テオドールがさりげなく尋ねた。
「そういえば、アリスさんって、森を抜けた後はどうするつもりですか?」
「うーん、まだちゃんと考えてないけど、研究を続けようと思ってる。テオドールは?」
「俺もまだですが、したいことは決まっています」
テオドールがそっとアリスを見ながら静かに言う。
彼の低い声を聞きながら、アリスは小さく欠伸をした。
今に眠気で意識を失いそうになりながら、あと1週間がんばろう、と思う。
(早く森を出て、古代魔法陣に埋もれたい……)
――ちなみにこの翌日、思わぬところで古城を発見してしまい、
あと1週間どころでは済まなくなるのだが、この時の彼女はそんなこと知る由もなかった。
本日はここまでです。
お読みいただきありがとうございました!
また明日!




