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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました ※第1部完  作者: 優木凛々
第1章 魔法研究者アリス、辺境に追いやられる

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13.魔の森4日目(1/2)

 

 魔の森に入ってから、4日目。


 鬱蒼とした森の中で、テオドールが剣を振るっていた。

 相手は、数匹の真っ黒い熊だ。


 テオドールが、先頭の熊を横なぎに切りつけると、思い切り蹴飛ばした。

 後ろにいた熊たちが一瞬動きを止める。



「アリスさん!」



 テオドールが飛びのきざまに声を張り上げると、後方にいたアリスが手に持っている魔法陣に魔力を込めた。



起動(カンターレ)氷矢:魔法陣(グラキエス・サギッタ)



 アリスの頭上におびただしい数の氷の矢が浮かび上がる。



「行け!」



 アリスの声を合図に、氷の矢が次々と熊に襲い掛かった。



 ギャアア!



 熊たちは叫び声を上げた。

 テオドールが素早く近づいて剣を振るう。


 そして、全ての熊が動かなくなったことを確認すると、彼は息を吐いた。

 軽く剣を振ってしまいながら、アリスに歩み寄って来る。



「今回は上手くいきましたね」

「うん、バッチリだったね!」



 ハイタッチをしながら、アリスは思わず遠い目をした。



(やっとだね……)



 思い出すのは、ここに至るまでの苦労の数々だ。




 *




 森に入ってから、アリスたちは何度も戦闘を重ねた。


 身体強化により人間とは思えないほど強いテオドールと、

 運動神経は終わっているが、やたら威力の強い魔法が使えるアリス。


 前衛と後衛という基本的なバランスもとれていたため、2人が負けることはなかった。


 しかし、負けないからといって、上手くいっているという訳でもなく。

 最初の頃は、まあ色々とあった。


 事の発端は、アリスが、魔獣の種類によって魔法の効きが違うことに気が付いたことだ。



「さっきはすぐに凍ったのに、今のは凍りが悪かった気がする」

「魔獣の属性が違うのだと思います」



 そう言われて、アリスは思い出した。

 確か、本にも「魔獣には属性がある」って書いてあった気がする。


 当時は興味がなくて「ふうん」くらいにしか思わなかった。

 でも、こうやって実際に魔法を使ってみると、結構差がある。



(つまり、魔獣の属性に合わせた魔法攻撃をすれば、効果が倍増するってことだよね)



 火の属性は水に弱い、土の属性は火に弱い、などそれぞれの属性に特徴がある。

 これを上手く活用できたら、きっと戦いが楽になる。



(水と氷の魔法ばかり使ってきたけど、他のものも試してみよう)



 研究者魂をくすぐられたアリスは、そこから要らん試行錯誤を始めた。

 火に弱そうな木型の魔獣が現れたため、ここぞとばかりに新しく用意した魔法を使う。



起動(カンターレ)火槍:魔法陣(イグニス・ハスタ)】!



 その瞬間、ボウッと音がして、アリスの頭上にものすごい火柱が上がった。

 とてつもなく巨大な炎の槍が上空に浮かぶ。


 燃え上がる音に、テオドールが何事かという風に後ろを振り向いた。

 上空の巨大な火槍を見て目を見張る。



「ちょ! 森で火は……!」



 そう叫ぶが、時は遅し。



「行け!」



 アリスから巨大な火槍が木型の魔獣に放たれた。

 魔獣は断末魔を上げる間もなく黒焦げになる。



「やった!」



 アリスは小躍りした。

 ちょっと加減は間違ったが、驚異的な威力だ。


 しかし、火の勢いは止まらない。

 魔獣のみならず周囲の木々までが燃え上り始めた。



「ま、まずい!」



 アリスは慌ててポケットから魔法陣を取り出した。

 思い切り魔力を込めると高らかに詠唱する。



【起動・水球:魔法陣(アクア・スフェアラ)】!



 巨大な水の球が火の上空に浮かんだ。



 パンッ



 大きな音を立てて弾け、火を消し止めようとしていたテオドールを含め、周囲が水浸しになる。


 ずぶ濡れになったテオドールが、無言で剣をしまった。

 ちゃぽちゃぽと音を立てながら歩いてくると、アリスに向かってにっこりと微笑む。



「アリスさん、森で火は止めましょうか」

「は、はい……ごめんなさい……」



 静かな迫力に、アリスが人形のようにコクコクとうなずく。



 とまあ、こんな感じのことが、何度もあった。


 土魔法を使ったところ、巨木が倒れてきてテオドールが危うく下敷きになりそうになったり。

 雷魔法を使って再び火事になりそうになったり。

 本当に様々なことが起こる。


 そして、最終的には、テオドールの強い希望もあり、

 属性に合わせた魔法はとりあえずやめて、慣れている水と氷の魔法だけ使うことになった。



「他の属性については、練習してから使うことにしましょうか」

「……ハイ」



 テオドールの迫力のある笑顔に、アリスが小さくなってうなずく。

 


 その後、一応は平和になったのだが、今度はアリスの魔力管理が問題になった。

 魔力の加減が分からず、すぐに魔力切れを起こしてしまうのだ。


 今までここまで魔法を連発する機会がなかったため、彼女は自分の魔力の限界を知らなかった。


 魔力切れの頭痛に苦しむアリスを、テオドールが心配そうに休ませた。



「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。魔力って本当に切れるんだね」

「……なに当たり前のこと言ってるんですか」



 テオドールが苦笑する。

 彼によると、戦場にいる魔法士は、魔力管理を徹底しているらしい。



「魔法士って1発が重いんですけど、魔力が切れたところを狙われやすいんです」

「そうなんだね。わたしも気を付けないとね」



 そう言いながら、自分って魔法陣には詳しかったけど、

 魔法のことを全然知らなかったのだな、と反省する。



 他にも、アリスが転んでピンチになることが何度もあった。

 その度に、テオドールがアリスを抱えて逃げることになり、遠回りする羽目になる。





 ――そして、こんな感じで迎えた、4日目の夕方。

 暗くなってきた森の中で、アリスが焚火の前に座って魔法陣を描いていた。





(2に続く)






夜もう1話投稿します

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