【一方その頃】 王妃、知らせを受ける
アリスがテオドールの背中の魔法陣を消してから、約1週間後。
ガイゼン王国の王宮にて。
王妃が、ティーサロンでくつろいでいると、宰相がやってきた。
一礼すると、声を潜める。
「……今朝、報告がございまして、例の魔法研究者が護衛騎士と共に行方不明だそうです」
宰相によると、約1週間前の夜に、王宮付きの魔法士から
「研究者に同行した上級騎士の”契約の魔法陣”が消された可能性がある」
という報告があったらしい。
すぐさま調査に向かわせたところ、魔の森の近くの村の村長夫妻が、
「2人が帰ってこない」と、狼狽えていた。
「荷物や馬もそのままで、森の入口にも戻って来た形跡がなかったそうです」
王妃が「そう」とつぶやいた。
「それで、魔法研究者と騎士はどうなったのかしら」
「恐らくは、森で魔獣に襲われて亡くなったかと」
王妃が「分かりました」とうなずいた。
「これからどうするつもり?」
「念のため、国境の検問を強化する予定です。騎士はラングストン家出身でして、現在一族はルミナート共和国におります。頼るとすれば、おそらくそこかと」
「研究者の方は……確か孤児でしたね」
「はい、故ビクター所長以外に身寄りがいないことは確認しております」
王妃は微笑んだ。
「わかりました。引き続き頼むわね」
「かしこまりました」
宰相が立ち去った後、王妃は窓の外を見ながら、冷ややかに紅茶を口にした
メイドを下がらせると、ベルを鳴らす。
「……お呼びでしょうか」
黒い服の男がどこからともなく現れて、王妃の前にひざまずく。
王妃は男を見下ろしながら、声を潜めた。
「例の魔法研究者と上位騎士が行方不明になったそうよ」
「それはそれは」
「死んでいるという見立てのようだけど、あなたはどう思うかしら?」
男は少し考えた後、口を開いた。
「……死んだ、は少々早計かと」
「なぜ?」
「同行の上位騎士は、去年の武術大会の覇者です。そう簡単に死ぬような男ではないかと」
男の言葉に、王妃が眉をひそめた。
「そうかしら? 王宮魔法士によると、例の魔法陣の反応がなくなったそうよ」
「同行していた魔法研究者が消した可能性もあります」
「近くの村人が、魔の森でいなくなったと証言したそうよ」
「そんなもの、どうにでもなります」
男は冷静に答えると、ニヤリと笑った。
「王妃様のご懸念は、件の魔法研究者から、我が国の国防情報が洩れること――そうですね?」
「ええ、その通りよ」
「であれば、国境検問の延長と、ルミナート共和国にいるラングストン家を見張ることを具申いたします」
「わかりました。そうしましょう」
王妃がうなずくと、男が口角を上げた。
「それと、その村に私の部下を派遣してもよろしいでしょうか?」
「かまわないけど、どうするつもりなの?」
「森を探索させようと思います。万が一ということもありますので」
「いいでしょう。任せます」
男は、一礼をすると音も立てずに部屋を去った。
ニヤリと笑うと、廊下を足早に歩いて外に出る。
そして、この日の夕方。
国境の厳重警戒が発表され、黒装束を身に纏った男たちが、王都からヴァルモア領に向けて出発した。
本日はここまでです。
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