09.アリス、意外と自分ができる子であることを知る
本日3話目です。
テオドールが険しい顔で言った。
「アリスさん、ここから離れましょう。たぶん、最後に仲間を呼んだと思うので」
「え!」
アリスが大きく目を見開いた。
聞こえてくる獰猛そうな唸り声に、足がすくむ。
動かなきゃと思っているのに、足が全く言う事をきかない。
(ど、どうしよう!)
焦るアリスに、テオドールが近づいた。
「失礼します」とアリスを掬い上げるように持ち上げると、元来た道を走り始める。
「……っ!」
揺られながら、アリスは目を白黒させた。
「ごめん、ありがとう」と言おうとするものの、しゃべったら舌を噛みそうだ。
テオドールが叫んだ。
「先ほどの巨木まで戻ります!」
テオドールに運ばれながら、アリスは思った。
ここは自分が思っていたよりずっと危険な場所だ。
見立てが甘すぎた。
そして、少し開けた巨木の麓までくると、テオドールはアリスを木の下にそっと下ろした。
「動かないでください」
そう言うと、彼女の前に立って剣を構える。
どうやら逃げるよりも、この場所で迎え撃つ方が良いと判断したらしい。
彼は軽く息を吐いた。
体がうっすら青白く光り始める。
どうやら身体強化を使っているらしい。
揺られた影響でフラフラしながら、アリスは必死に頭を働かせた。
恐らくテオドールはとても強い。
何とかなるのかもしれないが、無傷ではいかないかもしれない。
(わ、わたしも何かしないと!)
何かできることはないかと必死に考えて、彼女はひらめいた。
(そうだ、アレをいじれば使えるかも!)
彼女は背中のリュックサックを降ろすと、魔法紙とハサミを取り出した。
紙を丁寧に切り始める。
アリスが動く気配を感じて、テオドールがチラリと振り返った。
真剣な顔でハサミでチョキチョキしているアリスを見て、大きく目を見張る。
「アリスさん、一体何を……」
そう言いかけた、そのとき。
黒い狼が次々と、茂みから飛び出してきた。
まっすぐテオドールに襲い掛かる。
テオドールは剣を横なぎにすると、狼たちを切り裂いた。
人間離れした動きで飛び掛かって来る狼を切り伏せていく。
その後ろで、アリスは羽ペンを取り出した。
魔法インクをたっぷりつけると、
「ここがこうで、こうしたら多分尖るから……」
ブツブツ言いながら素早く魔法陣を描いていく。
そして、顔を上げると、前で戦っているテオドールに向かって叫んだ。
「テオドール! 下がって!」
テオドールが狼を蹴飛ばすと、素早く飛びのいた。
アリスは思い切り魔力を手に込めると、大声で叫ぶ。
【起動・氷槍:魔法陣】!
その瞬間、アリスの頭上におびただしい数の氷の槍があらわれた。
「行け!」
アリスの声を合図に、目にも止まらぬ速さで狼たちめがけて突き刺さる。
ギャアア!!!
狼たちが断末魔の声を上げた。
5匹ほどが氷の槍に刺され、そのまま凍りつく。
「……は?」
テオドールがピシリと固まった。
信じられないという目でアリスを見る。
氷漬けになった仲間の姿を見て、残りの狼たちの目に恐怖の色が浮かんだ。
我に返ったテオドールが一歩前に出ると、尻尾を巻いて逃げていく。
「やったー! できたー!」
アリスは思わず万歳をした。
ぶっつけ本番だったから心配だったが、意外といけた!
(夏場に氷菓子が食べたくて練習した魔法だけど、こんな感じにも使えるんだね)
大喜びで万歳するアリスを見て、テオドールが思わずといった風に苦笑した。
本日はここまです。
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