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天才魔法オタクが追放されて辺境領主になったら、こうなりました ※第1部完  作者: 優木凛々
プロローグ

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アリス、叙勲式でやらかす


本日から連載スタートです!

どうぞよろしくお願いします。


 

 ガイゼン王国の王宮――その豪華絢爛(ごうかけんらん)な謁見の間に、着飾った人々が集まっていた。


 今日は、叙勲式。

 王国に貢献した者に、国王から勲章と褒美が与えられる。


 そんな厳粛な雰囲気のなか――




(長い……、眠い……)



 謁見の間の後方にて。

 右耳にピアスをした小柄な娘が、目を半開きにしながら、ふらふらと立っていた。


 彼女の名前は、アリス。

 今日叙勲される予定の、古代魔法が専門の研究者だ。


 崩れ落ちそうな彼女を見かねたのか、壁際に立っていた金髪の青年騎士――テオドールが動いた。

 アリスの隣にさりげなく立つと、そっと囁く。



「……アリスさん、寝ないでください」



 その声に、アリスがハッと目を開けた。

 目を瞬かせながら、背筋を伸ばす。


 その様子を見て、テオドールが苦笑いした。



「よくこの状況で寝れますね」

「魔法書読んでたら、朝だった」

「……式典の前の日くらい早く寝てくださいよ」



 小声でそんな会話をしていると、前方から大きな声が聞こえてきた。



「アリス・ブリック魔法研究員!」



(やっと呼ばれた)



 アリスは、やや大きめの声で「はい」と返事をした。

 横にいるテオドールにささやく。



「行ってくる。まだいる?」

「いえ、これからすぐ外回りです。前の丸い絨毯の上で、一礼してひざまずいてください」

「うん、ありがとう」



 彼女は軽く手を振ると、前方に向かって歩き始めた。


 前方は舞台のようになっており、立派な椅子に国王と王妃が並んで座っている。

 2人とも、金ぴかの部屋に負けないほど豪華な衣装を着ている。



(あの服、重くないのかな)



 そんなことを思いながら、アリスは舞台の前においてある円形の敷物の上に立った。

 テオドールに言われた通り一礼すると、その場にひざまずく。


 国王の横に立っていたヒゲの宰相が、偉そうに手の巻物を読み上げた。



「アリス・ブリック魔法研究員は、故ビクター所長と共に長年に渡って研究を行い、『広範囲結界魔法』の開発に成功した! この功績を称え、功労勲章を授与する!」



 謁見の間が拍手に包まれた。



「広範囲結界魔法って、御伽噺(おとぎばなし)に出てくる魔法とばかり思っていたよ」

「実現できるとは、実に素晴らしい!」



 といった声が聞こえてくる。


 国王が、チラリとアリスを見下ろした。

 淡々と口を開く。



「アリス魔法研究員よ、よくやってくれた。これで我が国の国防は一層強化される。その功績を称え、褒美を取らそう」



 足元を見詰めながら、アリスは思った。

 勲章に興味はないが、褒美には興味がある。



(なんだろう? 欲しい古代魔法書とかだったら嬉しいけど、買えるくらいのお金とかでもいいな)



 そんなことを考える。




 ――しかし、話は思いもよらない方向に進む。


 宰相が声を張り上げて、こう言ったのだ。



「アリス・ブリック魔法研究員に、ヴァルモア領を与える! 領主として従事せよ!」



 会場にいた人々が、驚きと戸惑いの表情を浮かべた。


「ヴァルモア領って、あの”魔の森”の……?」

「これじゃあまるで……」


 といった声が漏れる。しかし、それらはすぐに、


「さ、さすがは陛下!」

「研究者にとって領地など、最高の花道ですな!」


 といった賞賛の声に塗り代わっていく。


 そんな中、




(……え? 領地……?)



 アリスは、ポカンと宰相の顔を見上げた。

 意外過ぎる褒美に、絶句する。


 そんな彼女に、宰相が歯を見せて笑った。



「ヴァルモア領は、かつて英傑が守ったとされる素晴らしい領地である! 領主に任命されることを光栄に思うといい!」



(いやいや、思う訳ないじゃん!)



 アリスは眉間にしわを寄せた。


 記憶によると、ヴァルモア領は、辺境にある未開の地だ。

 領地のほとんどが「魔の森」と呼ばれる森に覆われており、強力な魔物が出るという。

 そんな土地もらっても、全然光栄じゃない。



(それに、わたし、研究したいし)



 アリスは、これからも古代魔法陣の研究に邁進するつもりだ。

 領主になるなんて、ありえない。



 一体どういうつもりだろうと、アリスは国王を見上げた。

 そんな彼女の顔を、国王が冷たく見下ろす。



「――どうした? 何か言いたいことがあるなら、聞こうではないか」



 暗に「文句など言わせないぞ」という圧力だ。


 しかし残念なことに、アリスはそんな圧力にも気が付かないほど、超世間知らずの魔法オタクだった。

 故に、彼女は素直にこう思った。


 せっかく陛下がこう言ってくれているのだ。

 ここは正直に、別の物にして欲しいと言おう、と。



「はい」



 アリスはコクリとうなずいた。

 慌てた宰相が「ちょ、待っ……!」と止める間もなく口を開く。



「わたし、領地とかいらないんで、お金とかにしてもらえませんか。どうせ研究に使っちゃうんで、研究費の積み増しとかでもいいですけど」


「……っ!!!!」



 『国王の褒美はいらないからお金にして欲しい』

 という前代未聞の主張に、会場中が凍りついたように固まった。

 宰相が真っ青になり、その手から巻物が転がり落ちる。



(……あれ? なにこの感じ?)



 アリスは周囲をキョロキョロと伺った。

 なんか静かな気がする。


 そんな彼女を、国王が信じられないといった冷めたい目で睨みつけた。

 隣に座っている王妃も、開いた扇の影から、馬鹿にしたような視線を向ける。




 ――この時、彼らは思いもしなかった。


 目の前の、社交辞令も分からぬボンヤリとした小娘が、

 まさか将来自分たちの地位を脅かす、とんでもない存在になる――などということを。






第1章は丁寧めに進めていきます!



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