67話 保育園救助
-----(大島視点)-----
とりあえずまた来る事を伝えて、一度あちらへ戻る事になった。今回は俺のボックスにギリギリの人数で来てしまったので、誰かを連れて行く事は出来ない。
それに保育士を連れていくと残されたこちら側の保育士が不足してしまう。
「俺は残ります」
レスキュー中の救命職だった者がひとり保育園に残った。子供達の健康をチェックするそうだ。
1食分の食材を3食に分けていたせいか、子供も大人も栄養が不足しているようにも見えた。
なので、救助より先に食材を運んで来るそうだ。
ああ、また俺の往復かぁ。仕方ない。わかってるさ。完全防御なんて便利なスキルは自分ひとりだもんな。
明日は朝イチで食材運びになるそうだが、そうだ、清みんを巻き込もう。清みんは何気に子供に大人気なんだ。
保育園は危険地帯とは言え割と安全地帯寄りではある。それに機体があったあそこに比べるとだいぶ『仏間避難所』に近い。とは言え2時間くらいは歩くか。
その日帰宅してレスキューの隊長から語られた保育園の話に皆が騒然となった。
「そんな! こんな危険な森に?」
「早く助けないと!」
「何が必要ですか」
俺は清みんの横に座り話し合いを見ていた。俺たちが戻った時には子供らは夕食も終わり布団に入っていた。集まれる大人達で仏間前の庭の避難スペースで話をしていた。
保育園を救助すると言う事に異を唱える者はひとりもいなかった。問題は移動方法だ。
そのあたりになるとレスキューチームから意見が出た。
「18人の園児の内訳はどうなんですか?」
「0歳から4歳児と伺いました」
「0歳児2名、1歳児1名、3歳児3名、4歳児12名ですね」
「機内にバシネットは余ってませんかね。0歳児はバシネットの方が運びやすいでしょう」
「大きめの籠はどうです? 昔の行商のような。ほら、仏間から出てきたでしょう」
隣で清みんがビクリとした。突然仏間が話にのぼったからだ。しかし直ぐに答えたのは清みんの兄貴の橘さんだった。
「背負い籠はありますが、かなり古いので強度的にどうかなぁ」
「機内のバシネットを見てきますね」
鮎川さんが森の直ぐそこに見える機体へと走っていった。鮎川さんは仏間にいたメンバーで清みんや橘さんと親しくしている女性だ。
「0歳、1歳の3名はバシネットで運びたいですね」
「すると残りは3歳4歳の15名か。おや?2歳児は居ないのですか?」
「現在は居ないそうです。たまたまあの日あの時間には登園していなかったそうです」
「大島さんを挟んだ両脇から横長の背負子を作成しますか。1メートルほどの椅子だと3〜4人は腰掛けられますか?」
「園児のサイズにもよりますが4歳児だと4人はきついかもしれません」
「けれど背負子に3人、前にひとりずつ抱えますから一度に5人。15人なら3往復で行けますね」
1〜1歳児で1往復、3〜4歳児で3往復、大人で1往復。全部で5往復、その前に食材を運んで往復。
おうっふ。
「ドンマイ……」
清みんからの応援が小声ではあったが横から聞こえた。ありがとね。でも初回は連れて行くからね。
その後機体から戻った鮎川さんの手にはバシネットがぶらさげられていた。
結局バシネットを背負ったレスキューふたり、うちひとりは前にも1歳児を抱えるそうだ。
翌日には食材を背負ったレスキューチームと清みんを(無理やり)連れて保育園へ向かった。
救助作戦の内容を伝えた。仏間避難所では背負子ベンチの作成が進んでいるはずだ。子供が落ちないようにしっかり袋状態にするらしい。
園児の救助メンバーや順番を園長達に決めてもらう。そちらはレスキューチームに任せて俺は清みんのいる園庭へ向かった。
保育園では外の危険を考えて子供達が外へ出ないように気を配っていた。
最初の頃は母親を恋しがって門まで行ってしまう子もいた。夜も1人が泣きだすと皆に伝染して大変だったそうだ。
そのうち諦めたのか、子供達は静かになった。それが良い事でないのはわかっていたが、園長達にはどうにも出来なかった。
自分達も家族と会えずに苦しかった。ただ、助けを待つしか方法がなかった。
しかし、今はレスキューが来た。完全な救助でない事は理解しているが、それでも誰かに頼りたかったのだ。
そして今、救助計画を説明されている。他にもレスキューチームの人手があるので久しぶりに子供達を園庭で遊ばせる事にした。
「園の外には出られないとイメージをしていただけますか?」
園長が隊長から説明をされていたが、どこまで理解していただろうか。空間スキルの機能としてバリアがあると思うんだよ。
まぁ、チームからふたり、園庭の垣根近くで子供が出ないように見張ってはいる。
俺も気をつけて見ている。
清みんがうまく子供を遊ばせている。思いっきり走らせている。
実はこれには理由がある。
ここから仏間避難所までの移動で、どうしても危険地帯を通らないとならない。
一応俺のボックスで守られているとは言え、子供が騒いだら魔物が上から降り注いでくるだろう。
それで子供が暴れたりしてボックスからこぼれ出したりしないように、事前に遊ばせて疲れさせる作戦であった。
思いっきり遊ばせる。疲れてぐっすり眠ったタイミングで危険地帯を抜ける。
もちろん園児が全員うまく寝てくれるわけではない。だが出来るだけで良い。清みんは園児全員を運び終わるまでここに居る事になった。(ショックを受けていたが、自分の中でなんとか納得したようだ)
清みん自体はインドア派なのに、子供の遊びには詳しい。不思議に思い聞いて見たら引きこもる前の職場が幼児関係のグッズ販売で、入社当初は企画にいたので色々と調べたらしい。
が、その後に営業に異動になり色々あって退職したそうだ。
「物は凄くいいんだよ。自信持って薦められる品。でも、さ。売り方がね、押し売りっぽくて……割当てとか目標とかあって、俺、馴染めなくて」
ああ、わかる。俺も営業だったからなぁ。営業ってさ、「これはどうなの?」ってやつも売らないとなんないんだよな。誰が考えたんだよ!って怒りたい商品もあったよなぁ。
その日、清みんを残して俺らは帰宅だ。救助は明日の朝からスタートだ。戻ると背負子ベンチも出来上がっていた。
次の日、また食材を持ちベンチを背負ったレスキューに挟まれて俺らは森の中へと出発した。
園が近づくと昨日より木の上魔物が多い気がする。園庭から漏れた声や音で寄ってきたのだろう。
「なるべく早くに救助を完了させたいですね」
隊長の気持ちと同じではあるが、往復4時間を5回かぁ。ちょっと気が遠くなった。
園の中に入ると子供まみれの清みんが居た。合体ロボか。
まずは0歳児1歳児からの脱出だ。運んできたバシネットに入れてしっかりベルトで固定する。清みんが毛布だのぬいぐるみだのをバシネットの隙間につっこんでいた。
隊長は1歳児も抱える。1歳児は面白い形に包まれていた。
「これね、窮屈そうに見えるけど安定するから赤ちゃんにとっては安心なんだ。海外じゃよくあるよ」
途中休憩や解けた場合を考えて、今日の移動には保育士の女性がひとり同行する。はみ出ないように俺の右前を歩く。隊長が左だからな。
そんな感じで午前いち往復、午後いち往復で、3日で移動を終えた。
もちろん最後の日は園長による保育園の大移動だ。
門扉をガシっと掴んだ園長がズズズっと園を引いて行く。危険地帯の魔物がワッと寄ってきたが、構わずに突き進んだ。
安全地帯との境目あたりで魔物は徐々に戻っていった。
「いやぁ、一瞬真っ暗になってどうしようかと思った」
「木を気にしなくていいから運びやすかったわぁ」
園長先生、肝が座ってるな。清みんは俺の背中に張り付いてブルブルだったな。いや、俺もガクブルだったからどっちの震えかは不明だ。
俺の横の隊長に引っ張られなかったら、俺は立ち止まって進めないとこだった。
保育園は機体のすぐ横に置かれた。仏間の庭の避難所スペースから園庭が見える位置だ。
…………この辺りの森が破壊されているが気にしない。




