64話 現実は甘い?苦い?
-----(清見視点)-----
昨日は大騒ぎだった。何しろ、木々を薙ぎ倒して森から飛行機の胴体が現れたのだ!
いや、聞いてはいたよ? 先に到着した人達からママさんらが話を聞いているのを俺は陰から聞いていた。盗み聞きではない。情報収集だ。
だが、聞くのと見るのとでは大違いだ。巨大な飛行機(の胴体、しかも翼付き。折れてる)が、目の前に現れたのだ。
あっという間に皆が飛行機に群がった。
皆で決めた機体の置き場は仏間の裏の森だったのだが、急遽変更になった。
「もうここで良いですかね。櫻井さん親子も疲れておりますし」
「後で変えられるしいいんじゃないか?」
「お疲れ様です〜」
「コタ君、大丈夫? 泣かなかった?」
「中に入ってみたいですね」
なんか収拾がつかなくなった。最近一番の盛り上がりだな。
一旦飛行機は置いてもらい、桜井親子はキチママ達に拉致されていった。
レスキュー達(自衛官や消防をまとめてそう呼んでいる。人が増えて名前が覚えられないんだよ)は、さっさと去り、残された男ふたりの元に昨日一昨日来た若者が寄って行った。
ええと、高校生が3人と小学生2人とサラリーマンだっけか?
その中心に居るサラリーマンが、謎の『完全防御』というスキルをゲットした男だな。羨ましい。俺の使えない回復(微)に比べるとレア中のレアだな。レジェンドとかミソロジィクラスだろう。
今時の高校生にも子供にも好かれてるし、サラリーマンって話だったからちゃんと勤めていたんだろう。
俺と比べものにならない、いや、比べてはいけない人種だ。
俺はそっとその場を去り、仏間の裏へまわった。飛行機……そのうちちょっとだけ覗かせてもらおう。
-----(大島視点)-----
無事に『仏間拠点』まで全員を運ぶ事が出来てホッとした。こっちには自衛官だの消防だのが結構居るので俺はお役御免だな。頼りになる大人が複数いてくれるのはありがたい。
何しろ俺の許容範囲は狭いからな。あ、物理的にもだ。
ここは女性や親子も多いので、杏や倉田達も安心して暮らせるだろう。
「今日はね畳で寝られるよ?」
「仏間は救助者に優先してくれるんだってぇ」
「数日だけだけどね。普段は高齢者や女子優先ですって」
「あ、俺、トイレ見たい」
ドド達が少し明るくなったような気がする。良い場所に合流できて良かった。
紬に手を引っ張られた。
「お兄さんも行こう?」
そうだな。この3日間は忙しかったので、ここを訪れてもゆっくり見る事は出来なかった。
それに、本当にこの辺りは獣や虫が少ない。見かけても襲ってこない。なので、建物の外でも皆は割と自由にしている。
紬と杏に手を引かれて仏間周りを見て歩く。後ろからドドクサもついてくる。
「あそこねぇ、お風呂だよ。交代で使うから予約制なんだって。お兄さんの分もね予約しておいた」
「お、おう。ありがとな」
見ると壁に紙が貼ってあった。予約表だろうか?
紬達が予約をしたと言う時間を確認しようとその建物に近づいた。
中からキャーキャーと幼い子供の声が聞こえた。
「あ、こら。マナちゃん、ちゃんと拭いて。リコちゃんこれで拭き拭きして。郁未くん、10数えるよー。裕理くんも一緒」
母親と入っているのかと思ったが聞こえてきたのは男の声だった。そうか、父親も居ると聞いたな。
「出るぅ」
扉が開き、中から素っ裸の2〜3歳児が出てきた。その扉の先、バスタブから立ち上がりかけた男性が見えた。
幼児を抱いていたので上半身は隠されていたが、下半身はマッパ。
「きゃあ!」
倉田が声をあげて後ろを向いた。ドア全開だから、まぁ、見えるわな。
男は固まっていた。ご愁傷様である。さっき庭で見かけたやつだ。随分と子沢山だな、しかも若い。もしかすると俺より下か?
昨日紹介された中に居ただろうか?
俺も往復で疲れていたので、碌に話を聞いていなかったんだよ。とりあえず挨拶しとくか。
「どうも。すみません、お邪魔します。ええと、初めまして?」
「ど、どど、どうも……っす。あの、えと、前に会いました、その、森で……」
ん?森で?
記憶をフル回転。
「あ、花笠かぶった兄ちゃんか!」
「…………そ、です。」
「あ、俺は大島と言います。これからお世話になります。営業マンつかまぁ普通のサラリーマンです、いや、でしたか。ここでは会社はもうないからなぁ。27歳の……疲れたおっさんっす」
「あ、俺も27歳」
驚いた。同い年か。
「あぁと、俺……の、場合は、今も前も無職です。ひきこもりニートで」
「じゃあ、仏間に引きこもって空間スキルをゲットしたのか!羨ましい!」
「いやいや、仏間にこもってたわけじゃないです。篭ってたのは自室だけどたまたまあの時仏間掃除をしてて……」
面白いな。なんか俺と似た匂いを感じる。名前なんだっけ?初日に紹介あったか?…………そうだ!きよむとか何とか。
「ええと、きよむさん?」
「清見です。清見みかんのきよみ」
「すみません。柑橘系に詳しくなくて」
「大島さん、清見みかんは、清水寺の『きよ』に見るの『み』だよ」
「おう、クサ。あんがとな」
「はい、その清見です」
「きぃちゃん! 服着る!」
「きぃちゃんきぃちゃん、ボタンしてっ!」
「あ、ごめんごめん。郁未くんももう10終わったから出てね。拭くよ、こっち来て。あ、すみません、もしかして次のお風呂でしたか? 直ぐに出ますので」
「お風呂の時間の確認に来ただけー」
いつもシャイな紬も珍しくはっきりと清見……くんと話している。ほんの1日かそこらでもう仲良しなのか。
ちょっとだけジェラシーが湧くぞ?
が、まぁ、何となく清見……同い年だと敬称はいらんか?清見と話してみたい気がする。この異世界転移の状況、この世界の事、それと1番大事な案件。ファンタジー小説は誰押しか。
何となくだが、気が合いそうな気がした。
向こうも感じるものがあったのか、おずおずとだが手を差し出してきた。
何故か俺らは硬い握手を交わした。
「お兄さん、もうすぐお風呂の順番だよ?」
杏に言われて壁の紙を見ると、清見の後、少しの空欄がありその後に俺の名が書き込まれていた。
「では後ほど……」
そう言って清見は急いで服を着せた子供らを連れてキッチンの方へと去って行った。
清見、若いのに子沢山だな。
やはり風呂はいいなぁ。働いていた時、飲んで帰った夜などは風呂が面倒臭いと思ったもんだ。翌日が休みなら入らずに寝る事も少なくなかった。
だが、こんな世界になって、風呂がどんなに大事だったか思い知った。バスタブに沈み込みボンヤリと出来る時間。至高だ。日本人万歳。この避難所グッジョブ。
風呂から上がるとドアの前には清見が居た。その手には缶ビールを持っていた。
「あの……キチママさんが持っていけって。その大島さんは、その、飲める人ですか?」
「同い年だから呼び捨てでいいぞ。酒は好きだ」
見ると清見にもう一方の手はリンゴジュースのパックを持っていた。
俺の視線に気がついたのか清見は苦笑いになった。
「俺、飲めないんです。軽いアレルギー。つっても本当にごくごく軽いやつです」
どぞ、と手に持ってたビールを渡された。指さされた方向を見ると平らな石が並び椅子のようになった場所がある。
「あそこ、湯上がりに休めるように座れそうな石を運んできたんです。子供達とかはあそこで座って牛乳飲んだりしてます」
そうか。やはりこの避難所は充実しているな。物がある、という意味だけでなく、人が暮らしやすい工夫があちこちで見れる。
「牛乳やビールも毎朝復活ですか? キッチンで?」
機内のギャレーで食料が復活したのと同じようにきっとここでも復活は起こっていると思う。空間スキルはこの異世界転移でまさにチートスキルだ。
「ええ。キチママさんとこの冷蔵庫に入っていた分です。そんなに数が無いので、今日来た方優先だそうです」
「空間スキルで復活するのは食料だけなのか。って事は清見の仏間では復活は起きないのか?」
「うちの仏間は押入れにあった防災用の水と食料が復活しますよ。トイレママのとこはトイレットペーパーが。風呂ママさんとこはシャンプーリンスが復活するって言ってました」
「すげぇなぁ。聞けば聞くほど『空間』スキルはチートだな」
「いやぁ、大島さ……大島くん……大島の」
「ぷっ、言いづらいなら何でもいいよ」
「ええと、じゃあ、大島氏。大島氏の『完全防御』の方がチートですよ。完全ですよ、完全! それってどんな攻撃も通さないって事でしょう。無敵だなぁ。この異世界転移の主人公は大島氏だ」
「あ、やっぱり。清みんもそっち系嗜む人かぁ。ファンタジー小説とか読むでしょう。押し作家とかいます?最近読んでハマったのあります?」
俺たちはひとしきりファンタジー小説を語りあった。行動も共にする事にした。
もちろん、無謀な事はしない。小説はあくまで小説だ。俺たちがいるこの現実では安全に無難に過ごすのが大優先だ。




