19話 方向は大事
仏間の押入れに防災の水と食糧があって良かった。当座は何とかしのげそうだな。
それに、兄貴が居てくれて本当に良かった。俺ひとりなら裕理を抱えて途方にくれてジ・エンドになるとこだった。
兄貴は布団や古着だけを残して使いそうもない物をまた押入れに突っ込んでいた。
布をビリビリと裂いているので何をしているのか聞くと裕理のオムツがわりにするそうだ。見ると裕理はオムツを外して可愛い尻を出しっぱなしにしていた。
そうだった。あまりの異変に裕理のオムツ交換をすっかり忘れていた。さぞかし気持ち悪かった事だろう。ごめんな、裕理。
「そういえばさ、兄貴何で戻ってきたんだ? 出勤したと思ってた」
「忘れもんした。電車に乗る前に気がついて慌てて引き返したんだよ。そしたらさ、旧国道に出たとこ辺りで騒ぎが起こっててさ。なんか空から変なもんが降ってくるし、こりゃやべぇって思ってたら事故車が道路塞いでるしで、車から降りて走ってたら後ろから俺を追い越して逃げる人が………、その、ぐにょっと? あー、なんて言ったらいいんだ? なんかわからんけど、ぎゃああっとなってる間に俺もぐにょ?」
よくわからん。
「…………え、兄貴、よく生きてたな(グニョって何だよ、どうなったんだよ)」
「死んだ、と思ったけど直ぐに気がついてさ。でも景色が全然違ってたからさぁ。これはもう、俺は三途の川を渡ったなと思ったわけ」
「そ、そう……」
「けどさ、落ち着いて周りを見たら川は無かったし、これはワンチャンある? 死んでない……幽体離脱?かもしれないと思ってさ、とにかく家に戻ろうと思った。ただ、見た事ない森だしどっちへ行けばいいのか悩んだ。で、俺、車を降りて旧国道を自宅方面へ向かいかけた時にグニュってなっただろ? って事は、あっちへ進めば自宅方面じゃないかと思ってそっちに進んだ」
思って進んだって、そういえば兄貴って割とアバウトな性格だったな。
アバウトな割に物事がトントン進むのがいつも羨ましかった。俺は神経質で、考える割には失敗に終わる事が多かった。親父からは考えすぎるのが悪いって言われてたっけ。仕方ないじゃん。考えちゃうんだから。
「それでズンズンと進んでいったんだけどさ、旧国道からうちって一直線じゃないだろ? どこら辺で曲がればいいんだろうって思ったけど、そもそも近所に森なんてなかったから、とりあえず森から出るまで進もうと思ったら」
「思ったら?」
「変な建物と清見が居た。あ、変な建物がうちの仏間で驚いたな、あははは」
あはは、じゃねぇが、流石は兄貴だ。安心感が増した。




