16話 引きこもりニート、異世界へ転移する
ここにもうひとり、人生に疲れた人間が居た。
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俺は引きこもりニートを名乗っているが、仕事はしている。自宅警備員だろって? まさに、そのとおりだっ!
俺は現在自宅の留守を守っている。それだけでない。俺は自宅警備員でも上級クラスだ。
何故なら、トイレ掃除もするし食事も作る(チンするだけ)。そして兄貴のとこの子の子守りもするのだ。
あ、これもう『引きこもり』を名乗っちゃダメなやつか? 働き者ニート?
だけど家(敷地)からは出ないし外で働いてもいないからな、引きこもりを名乗ってもいい気もする。
今も、兄貴の子を背負って仏間の掃除中だ。軽く掃除機をかけて、仏壇のホコリもささっと拭き上げる。
最後に饅頭を供えて手を合わせた。目を瞑りむにゃむにゃむにゃ……………。
両親が事故で死んだ。
その頃ちょうど職場の上司にパワハラされてたから、もう何もかもどうでもよくなって仕事やめた。
どうせ辞めるんだからクソ上司にボロクソ言いたい事言ってから辞表を叩きつけたった。
両親の保険金で兄貴んとこと揉めた。兄貴んとこ、と言うよりも兄嫁と、だな。
兄貴の嫁さんがあんなやつとは思わんかったな。いや、ほとんど会ってなかったから知らなかっただけか。
パワハラ上司を上回るような暴言を吐かれた。しかも兄貴の見てないとこで。どうやって知ったのか俺のLIN◯でも電話でも呪いの言葉かってくらい攻撃されて、俺のナイーブな心はバッキバキに折れた。
「保険金いらん」とひと言兄貴へLIN◯した。
両親ももういないし職場に友人も居なかったし、そう言えば俺ってずっと友達も居なかったな。
兄嫁さんが言ったみたいに、誰にも好かれない生きていてもしょうがないクズなんかな、俺。
生きるの面倒臭いな。死ぬまでジッとしていよう。自分で死ぬ勇気もない。俺のなけなしの勇気はクソ上司にぶつけたあれで使い切ったんだ。
俺が仏間に転がって数日……。兄貴が突然やってきた。
「離婚した。俺もここに住むぞ。とりあえず飯作ったから食え」
兄貴に首根っこを掴まれて持ち上げられて、台所に隣接した居間のテーブルへ引き摺って行かれた。
良い匂いがした。
美味しい匂いを感じるって事は、俺はまだ生きたがっているのかな。
「まずはこれ食え」
兄貴が豆腐の入ったお粥みたいのとヨーグルトを俺の目の前へと置いた。
俺の向かい側、兄貴の横には口の周りがベタベタの乳児が居た。そして俺と同じ物を食べていた。
俺はよく回らない頭で、あ、兄貴のとこの子かなと思い出した。両親が生きていた頃、兄貴のところに子供が産まれたと喜んでいたな。
あの頃俺は上司のパワハラでそれどころじゃなかったから、お祝いを言ったかどうかも覚えていない。
急に兄嫁の事を思い出してキョロキョロした。
「あいつは居ないぞ? 離婚したと言ったろ?」
「え、あ、……離婚」
俺のせいか? いや、保険金は要らないって伝えたよな?
「お前は関係ないぞ? 浮気していた。あいつは裕理を放置して遊び歩いていた」
「え」
「こっちこそ悪かったな。アレが色々言ったみたいで、スマホを見て驚いた。まぁその時にはもう弁護士を入れてたからな」
兄貴はこの家に戻ってきた、息子の裕理を連れて。
裕理を預けられる保育園が見つかるまで俺が面倒を見る事にした。
俺は未婚の引きこもりニートではあるが、前職が乳幼児関係の品を扱った関係で多少の知識はあった。
それに兄貴は現在は育休中で、月一で出勤はあるものの、子供の面倒はしっかり見ていた。嫁が見なかった分育児はほぼ兄貴だったそうだ。
俺が裕理の面倒を見るのは兄貴が出社の月一のみだ。あ、普段も兄貴と一緒にみている。
その、月一の時に、アレが起きた。
俺は裕理をおぶって仏間に簡単に掃除機をかけたあと、仏壇もさっと綺麗にしてから兄貴が買ってきた饅頭を供えた。
そして手を合わせてむにゃむにゃ言っている時に起こった。
閉じた目の前、瞼の裏には白昼夢なのか何かの一覧がズラリと現れた。驚いて目を開けるが多分そこにある。目を開けても閉じても同じ場所に。
え?30秒???
何かわからんけど、回しておく?
右側のスクロールをトゥルルルー。
30秒ってすぐじゃん。どうする?なんでもいいか?ただで貰えるなら。
タダだよな?
俺の寿命と引き換えとか……てか、誰?悪魔さん?
え、どうする?や、あと10秒きったんじゃないか?
ちょっと前に死んでもいいやと思ったんだから、とにかく貰えるもんは貰っとけぇぇぇぇ。
トゥルルルー
「えい!」
プツ
暗転……うわ、背中の裕理を潰してはならん。前に倒れろ、俺よ。




