15話 飛行機、船
-----(機内)-----
「実家に帰るから!」
昨夜、夫と大喧嘩した。朝、ミルクを飲ませている私の横を不機嫌丸出しでドタドタと足音を立てて通る夫。私の怒りも天元突破よ。
「しばらく実家に帰る!」
「そうかよ! 好きにしろ」
夫が家を出て直ぐにネットで飛行機のチケットを取った。実家は飛行機じゃないと帰れない距離だから。
母へラインを送って、それから荷物をまとめる。キャリーも大きなトートバッグも子供の物でいっぱいになる。自分の荷物は最低限でいい。
初めての出産、子育ては自分が思ってた以上に大変で振り回された。夫を気遣う余裕なんかなかった。それは自分でもわかってる。でも、私だって気遣ってくれる人が居ない、それが悲しくて腹立たしい。
『実家に帰る』って勢いで口から出たけど、少し離れていろんな事を考えるのも必要かもしれない。それに実家なら母にヘルプしてもらえる。
そんな事を考えているうちにタクシーは空港に着き、私は搭乗手続きをした。
飛行機が思ったより混雑していたのは世間が春休みに入ってたせいか。たまたま空いていた最前列中央の端っこの席が確保出来て良かった。子連れは荷物が多いから人の間のシートは辛い。
出発にはまだ時間があるのか、空いていた席がどんどんと埋まっていく。
寝てしまった。あれ?機内が静かね。いつの間にか離陸をして飛び立ってたみたい。あとどのくらいで到着かしら、スマホで時間を見た。
まだ8:29。まだ……離陸前?
向こうの座席の小さな窓から景色、植物が見えた。うん、離陸前。なのに、何でこんなに静かなの?
隣で私の肩に寄りかかって寝ていた男性の頭を向こうへと押しやる。シートベルトを外して腰を浮かした時に目に入った人はみんな寝ている。
どうしたの。
完全に立ち上がって後ろを振り返った。
飛行機の中央の通路のカーテンがなびいて、その先に木が見えた。
機内に木が生えるわけがない。一瞬頭に浮かんだのは『墜落』。どこかの山に墜落した?
通路まで出ると客室乗務員さんが倒れている。まさか、乗客も寝ているのではなく死んで……いる?
直ぐに息子を思い出して自分の席に戻った。その時に隣の男性が目覚めた。次々と他の人も、通路の乗務員さんも起き上がった。
あっという間に機内は騒がしくなった。私は自分の席に座り息子をバシネットから抱き上げた。ちゃんと生きてる。
その後に乗務員さんから語られたのは、飛行機はまだ離陸もしていない。乗り込みの最中だった事。だけどまるでどこかに墜落をしたかのように、飛行機の機体は半分しかなかったそうだ。
何人もが確認に行った。私は怖いから席に居た。
飛行機は半分に綺麗に斬られて後部の客席部分は無くなっていたそうだ。
それから前方の、コックピットも無かったらしい。コックピットがない、つまりパイロット達も居ない。居ても操縦室が無いんだからしょうがないけど。
席の案内をしていた乗務員さんが3人、それと保安関係の人がひとり。残りは乗客だ。
そして1番の問題は、この飛行機は墜落したのではなく、突然何処かの山だがの森の中に、あるのだそうだ。コックピットの無い状態で。あ、下半身も無い。
スマホは圏外、どこにも救助の要請は出来ない。
保安なんとかの人が、男性の乗務員とふたりで外へと救助を求めに行った。
…………、戻らない。
残ったふたりの乗務員さんがみんなに落ち着くように言いながら飲み物を配っていた。
機内の灯りも消えていたし座席の背についているテレビも観れない。電気がきていないようだ。
けど不思議な事に温かい飲み物を配っている。私は子供のミルクのためにお湯をもらえるか聞いてみたら直ぐに持ってきてくれた。
うちの子、今の所大人しくしてくれて助かる。もしも泣き出したら、外へあやしに行かなくちゃ。
-----(船内)-----
船着き場から、本土へ向かう小型船に乗った。
乗っているのは顔見知りの者が数名。私がベビーカーを押している間に、上の子を既に乗せてくれていた。段差のところも手を貸してくれる。
1歳の子をベビーカーに乗せて3歳の子の手を引いての移動は大変だ。向こうに迎えが来ているはず。
私は島住まいだが本土に週2日ほど実家の仕事の手伝いに行っている。子供を曾祖母ちゃんに預けて畑を手伝う。実家の両親も孫に会えるので楽しそうだ。
いつもと同じようにベビーカーを押して船内に入り、椅子に座る。息子はもう窓にへばりついて楽しそうに外を見ている。
いつもと同じように。
そう、いつもと同じように、船は波をかきわけて進んでいた。ただ、いつもと違うのは気がつくと陸地にいたんだわ。もちろん船から降りていないので、船ごと陸地に居た。
それ以上の言い方が見つからない。
島に突っ込んだ?にしては海が見当たらない。しかもこの船の操舵室も無くなってる。船員ともども。
えー、私達、どうしたら、いいの?




