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ただいま、君がいるから



  カチャリ、と玄関のドアを開ける。



 「ただいまー」


 思わず声に出すと、部屋の奥から、パタパタとスリッパの音が聞こえてきた。



 「おかえりなさい!」


 君が、俺の顔を見るなり、満面の笑みで迎えてくれる。


その笑顔を見るたびに、今日一日の疲れが、ふわりと溶けていくような気がした。



 俺はネクタイを緩めながら、リビングへと向かう。


テーブルの上には、俺が一番好きな、アジの開きが綺麗に並んでいた。


隣には、ほかほかと湯気を立てる味噌汁。



 「今日ね、商店街のお魚屋さんが、すごく新鮮なアジが入ったって言うから、つい買っちゃったんだ!」


 そう言って、君は嬉しそうに笑う。



 俺は、何も言わずに、ただその光景を眺めていた。

 結婚して、まだ半年。



 この何でもない「ただいま」と「おかえり」のやりとりが、俺にとっては、何よりも愛おしい時間だった。



 (ああ、本当に、俺の家だ……)



 そう思うと、心がじんわりと温かくなる。



 独身の頃は、仕事から帰ってきても、ただ暗い部屋が俺を待っているだけだった。



 誰もいない。



 温かいご飯もない。



 ただ、静寂だけがそこにあった。



 だが、今は違う。



 ドアを開ければ、君がいる。



 部屋には、温かい明かりと、美味しそうな匂いが満ちている。



 「ご飯、食べよう?」


 君が、俺の袖をくいっと引っ張る。



 「……うん」


 俺は、ゆっくりと椅子に座った。


一口、味噌汁をすする。



 「どう? 美味しい?」


 君が、不安そうに俺の顔を覗き込む。



 「ああ。世界で一番美味しいよ」


 俺がそう言うと、君は嬉しそうに笑った。


その笑顔は、さっきよりも、もっと輝いて見えた。



 たった一言の「ただいま」。



 たった一言の「おかえり」。



 その言葉の中に、俺たちの愛は、確かに存在している。



 俺は、君といるこの毎日を、心から愛おしいと思った。



 これからも、ずっと、この時間が続けばいい。



 そう願わずにはいられなかった。




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