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手のひらの熱量


 八月。



 アスファルトが陽炎で揺れる午後二時。



 私は、木陰ひとつないバス停で、スマートフォンを握りしめていた。


返信を待っていたのか、ただ手持ち無沙汰だったのか、今となっては思い出せない。



 ただ覚えているのは、指先が火傷しそうなほどの熱さだ。



 突然、画面が暗転した。



 中央に表示される、温度計のアイコンと警告文。



『本体の温度が上昇しています』



 カメラも、SNSも、地図さえも、「これ以上は無理だ」と私の入力を拒絶した。


まるで、私の焦燥感や、行き場のない熱情がそのまま乗り移って、知恵熱を出してしまったかのように。



 私は、熱を持った黒い板を太ももの上で冷ましながら、ただバスを待つしかなかった。



 十二月。



 吐く息が白い。



 コートのポケットから取り出したスマートフォンは、まるで氷の塊のように冷え切っていた。



 指先がかじかむ寒さの中、画面をタップする。



 夏にはあんなに悲鳴を上げていた端末が、今は嘘のように静かだ。



 どんなに重いアプリを開いても、動画を再生しても、そのボディは冷たいまま。


警告文など出る気配もない。



 冴え冴えとした光が、私の顔を照らす。



 サクサクと動く画面。



 それはとても便利で、快適で、そして少しだけ寂しかった。



 あの夏の、汗ばむような熱暴走は、もう起きない。



 私のスマートフォンは、そして私の季節は、すっかり平熱に戻ってしまったのだと、冷たい金属の感触が教えていた。



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