打つべし打つべし
私はスマホのフリック入力で文字を打ち込みまくる。
「そんな雑に文字を打つんじゃない」
ダンジョンの奥の方から翼を広げて飛んでくる師匠のナロ様。
この前やらかしてから“根性”モードになっている気がするので、少し怖い。
私はクレアの後も短編中心に書き続け、5月までの間に20作品くらいは書いたと思う。そのうちの4割くらいは気晴らしに書いた短めな作品も多い。
台詞中心のお話の運びを改善するべく、人物の動きや場面の説明なども入れる。
少しはマシになったのか⋯⋯。
「ナロ様、私残酷な現実を知ってしまいました」
底辺なろう作家の二角はネームバリューもなければ、お話の面白さの定評も全くない。
そこで身1つで戦うにはまずタイトルが大事だ。
前回懺悔回で出てきた
短編作品「浮気男にざまぁする直前にその妹に転生しました」
は悔しいがタイトル受けをそこそこする。
私のある作品の中でも投稿から1時間にPV160とか叩き出すので、多分見てくれる人もそこそこいる。
そこそこいるのに評価がもらえない⋯⋯いや、もらえたな。
でもPV数と評価人数を考えるとあまり良くない。
これは見てもらえていないのではなく、単純に面白くないと言われているようだ。
それでも最後の部分の加筆のおかげで第2層では1番ポイントをもらえる作品になった。今は280ポイントくらいもらっている。
それでも日間の異世界(恋愛)の短編ランキングに同じ100位でこぼれ落ち、ランキングに載らなかった。
他も打てばあたると次々に書いていく。
負のループなんのその⋯⋯いや、挫けまくっている。
「打つべし打つべし⋯⋯もうやめようかな」
ちらりと覗く二角の弱音。
そこへナロ様が目の前にやって来た。
「二角よ、20作品全部を説明はしなくてもいい。自分の書いた作品について聞かせてみろ」
ジャンルは異世界(恋愛)の短編
まずは
「伝説級の男役令嬢は子犬系王子に溺愛される」
こちらはギャップを持たせた格好良い令嬢と可愛い王子の恋愛模様。
学園の舞台で活躍するヒロインは女子からキャーキャー言われる。
そこへ王子がやって来てプロポーズするのだ。そこに女子がカップル推しをするというもの。
名前にパンチはないので、中身勝負となった。
PVの上昇も緩やかでランキング圏外。
終始カップル推しの女の子がキャーキャー言っている作品でじわじわとポイントをあげている。
ちなみに書くのがとても楽しかった。令嬢たちの興奮具合を書くのに瞬く間に書いてしまった記憶がある。
「婚約破棄からの特大ざまぁをお見舞いしてやりますわ」
(現:そんなに殺意が湧くことなんてあります?私から王子への婚約破棄〜ざまぁを添えて〜)
これはもうタイトルで狙った作品。
皆が大好きな婚約破棄とざまぁをかけた作品でPVはうっはうっは⋯⋯。
その代わりにポイントがつかないということは中身に難ありということでしょう。
救いようがない駄目王子と婚約破棄をするためにヒロインがいろいろと動き回ってお話が進んでいく傍らにいたのは将来の伴侶になる人で⋯⋯。
こちらは頭をひねった作品。
どれくらい王子をくそなやつにしようかとざまぁはそのされても仕方のない人物と報復のバランスが難しいんだなととにかくうーんと言いながら悩んだ話。
「口下手な俺は身を引こうと才色兼備の婚約者に、円満な婚約破棄をしようと提案した」
円満な婚約破棄と言うワードはどうかと考えて作ったお話。
こちらはお話を3場面に分けた。
書きぶりに悩み、話の運びも大丈夫かなと思いながら書いた作品。
私的には口下手な俺が可愛く書けたと思うが、テンポはどうかなと首を傾げる。
こちらはPVは思ったより緩やかだった。
「王子、婚約破棄には合意出来ません」
(現:奇跡の婚約破棄)
タイトルにパンチを持たせたかったのと、情緒が上手く書けないので、台詞以外のところに力を入れた作品。
少し悲しめな雰囲気がするせいか思ったより伸びませんでした。
PV数もそんなに伸びはしませんでした。
「女神よ、ポップコーン片手に鑑賞している場合じゃない」
完全に自己満で書いた作品。
書いても書いても評価がもらえない寂しさから、心が疲れてしまったので好き勝手書いた作品。
書いている間は楽しくてあっという間に書いてしまった。
もちろんジャンルはその他なのでPV数はかなり少なめ。
「誘拐されたのは王子ではなく影武者の2歳の男の子ですが、とんでもないことになりました」
ジャンル:その他の作品
文字数2600ほどと短いお話。
気晴らしに作ったけど、二角の作品の中ではじわじわとポイントを上げている作品。
2歳の男の子のお話なのでほのぼのとして読みやすいのかな?
“大変なことになった”とか“とんでもないことになった”と言うキーワードは結構アクセスしてもらえるので、ジャンルの割にはPV数の多い。
執筆時点の累計PVは970。
→日間[その他]で7位になりました!
「どんでん返しはお話の後半で〜婚約破棄の噂の行方〜」
記述トリックを使った作品。
書く力がまだひよっこなので、少しだらだらと長い上にテンポもいまいちな感じはある。
と言いながらも二角の作品の中ではポイントも悪くないです。
どんでん返しや婚約破棄と言ったキーワードがあるためかPV数もポイントも悪くないかな?
「アリシア公爵令嬢殺人事件〜そしてセシル公爵令嬢は微笑んだ〜」
ミステリーに挑んだ作品。
ミステリーって難しい⋯⋯想像を裏切ることの難しさを痛感しました。
予想を裏切るのに、あれはどうだあ、これはどうだと頭をひねった作品。
ジャンル:推理では良いポイントだと思う。
6/6に[日間]推理で4位になったので、地味に嬉しい作品。
ミステリーもない知恵を絞って広げていきたいなぁと意欲にかられます。
「食べ物にチョロすぎる男爵家の末娘はチョコに誘われて公爵令息と白い朝チュンを迎える」
(現:【押絵あり】食べ物にチョロすぎるモブ男爵令嬢に、なぜか公爵令息が餌付けしてくるんですけど!?)
6/6時点の最新作品。
チョロすぎると入れたかったのと、白い朝チュンと言う造語を作った。(意味合いは白い結婚みたいな感じで何もなかったよって意味合いです)
単純にラブコメに挑戦した作品でした。
テンポはちょっとイマイチかなぁ。
自分の中では割と綺麗にまとまったと思っています。
パワーワードのおかげで良いPV数は稼げましたが、なかなか評価が付かない作品になっちゃいました。
→なぜかランキングにも載らなかったのに400pt超えました。
「今読んできた」
「うそ⋯⋯」
さすがはナロ様。ひよこと戯れていたと思っていたら読んでくれていたのか。
「二角が、どんなことを考えてこうしようああしようと考えたのは伝わった」
「ありがとうございます!」
「ただ⋯⋯二角も気づいておろう?」
その言葉に私の心の中が見透かされているように感じた。
文字にするとはなんと難しいことか。
「はい、私のお話では全然表現しきれていません。書き方もテンポも悪いと思います」
「そうじゃな。どこの部分じゃ?」
「⋯⋯まだ台詞に頼っている部分とか台詞の間にある文章がたまにお弁当の柴漬けみたいに添え物になっています」
私も薄っすら分かっていた。ただ書いているだけでは書きぶりはあまり変わらない。
なりたい文章と今の自分があまりにもかけ離れていて心を丸焦げに焦がしていく。
「⋯⋯正直、クレアに囚われています」
ずっと思っていた。
あんなに皆に評価してもらえる作品が出来上がると思っていなかった。
そしてこの文章レベルの二角にとっては奇跡だった。
それは稚拙な文章を超えて中身に共感してもらえたのだ。
私は嬉しいも苦しいもいろんな感情がい入り混じり涙で目を滲ませる。
それを見たナロ様はやっと私の方を見てくれた。
「嬉しい気持ちも分かる。そんな一発屋みたいな取り方をする人も多くない。それに引っ張られていることも分かる。評価ばかり気にしてしまうのも」
書いても書いても手からこぼれ落ちる言葉。
綺麗な流れにはならず、テンポが悪い。
「二角のレベルはまだまだランクに入るには難しいと思う。それでも短編作品を作ることには意味があると思ったから、何も言わなかったのじゃ」
「それってどういうことですか?」
「お話の発想は悪くないものもある。この先書く力がついてくるとどんどん書きたくなると思う。発想というのは生モノじゃ。書きぶりが悪くてもそれは改善できる。しかしお話の要素を作り出すのは難しい。今後のネタ帳だと思って貯めておくと良い」
あっ⋯⋯ナロ様はあえて将来の財産になると思って“貯めておく”と言ってくれている。
「それに⋯⋯」
そう言いかけたナロ様は私の周りを歩くヘルメットのひよこたちを見ている。
「内容がどうであれ、これだけのひよこを作った。それは自信を持っていいことじゃ」
「ナロ様⋯⋯」
私は青春、根性と言った末に出来上がった清らかな師弟関係にキラキラと星を飛ばす。
「特訓じゃ」
うそ、前言撤回。
上から叩きつけられた。
「具体的には⋯⋯何をどうすればいいのですか?」
「次に書くお話は書き上げた後、ブラッシュアップに力を使うのじゃ」
うっ⋯⋯嫌な訳では無い。
実は、上で語った「王子、婚約破棄には合意出来ません」は2週間まるまる100回以上添削して出来上がった作品。
添削しすぎて路頭に迷った感じは否めない。
「ある程度、納得のいく形まで直してから投稿するのじゃ。駄目だったら早く長期連載の話を進めろ。いつまでたっても投稿できないぞ!」
「ひえっ」
ナロ様そんなこと言って大丈夫ですか?
本当に二角はこれから短編を執筆するんですよ?
(本当です)
というとこで次回の短編はちゃんと文章を作りましょうとハードルが上がったのでした。
なんか自分の首を絞めているような⋯⋯。
次回は新作の投稿後に更新します(ドキドキ)




