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41.対峙

「バカ言わないで、忍び込んできたネズミはあんた達の方なのよ」


 ニーヴィアは懐から巻貝のようなものを取り出した。

 高価な魔力伝声管だ。離れた同系統の品物で、言葉のやり取りができる。


「南塔の警備、聞こえる? 侵入者よ! こちらでの通行を許可するわ。至急北塔まで来なさい!」


 巻貝からノイズが漏れ出し、野太い男の話し声が響く。


『こちら南塔! こちらにも侵入者です。屋上への階段に居座って警備を片端から倒しており、屋上へ上がれません! 応援不可能! あれは流浪の大剣豪ラドスラ──』


「この役立たず!」


 ニーヴィアが巻貝を床に叩きつけた。

 赤い唇を歪め、悔しそうに拳を握る。


「他にも仲間がいるのね……レイモンド、南塔は使えない。宝珠をしっかり持っていて。こっちへ!」


 ニーヴィアはレイモンドの手を引き、部屋の外へと走り去る。


「あ、待てっ!」


 ミルシュカは剣を抜きながら、エリアスと共にニーヴィアを追った。


 南塔の屋上へ出れば、ニーヴィアはレイモンドを橋の手前まで行かせ、自分は屋上の中央に堂々と立っていた。


「ここなら派手にやっても問題ないわ。来なさいよ、前辺境伯ミルシュカちゃん」


「ニーヴィア! これが最後の機会だぞ、私の呪いを解いて投降しろ」


 ニーヴィアは口元に手を添えて高笑いする。


「あははははっ! わたしなら解けると信じてここまで来ちゃったのぉ? お馬鹿さんね、動くけど原理がわからないものなんて、ごまんとあるの。あなたの呪いも、そう。わたしだって、解けやしない。絶対解呪でも頼ることね! あんたにやりきれるとは思えないけど!」


 ミルシュカは小さく嘆息した。


(やはり、そうそう解けはしないか……)


 だが、もはやそれだけが理由で戦うわけではない。

 飛行型使い魔と『宝珠』、これだけは、どうしてもここで止めなければならない。


「お前でも解けないなら呪いは後回しだ。お前らの悪事を暴いた功績があれば、国王へ謁見し、私がミルシュカだと証明しての復権も叶う。何より、相対したことのある身として、お前達が作り出そうとする飛行型使い魔、放ってはおけん!」


 ニーヴィアが歯を剥き出し、唾棄せんばかりに叫ぶ。


「ああ、飛行使い魔第一陣を爆破したの、あんただったのね! 爆炎のスペルサッティン、つくづく小憎たらしい。これだからスペルサッティンは嫌いなのよ、この砦がなければ、居たくもなかった、こんな場所」


「……この砦?」


「ふんっ。あんた達、現代に生きるスペルサッティンの能無しどもはこの砦のことを何も理解していない! これだけの龍脈を、利用価値も知らずに放置して……古代の先人達は嘆いていることでしょうよ」


 ミルシュカは怒りに口をゆがめた。 


「お前たちのような者に悪用されるくらいなら、埋もれた遺跡のままの方がよかったことだろう。我が領地と領民を好き放題に使って!」


 その一言で、ニーヴィアの目が血走った。


「なにがっ、我が領地よ、我が領民よ!」


ニーヴィアの表情が、悪鬼の如く禍々しく変わった。


「あんたみたいな、世襲のくせに長だとか我がもの面して庇護しようしてくる女、大っ嫌い! ほんと、特にあんたを見てると、私の姉みたいでイライラする! アイツの代わりに、追い落として貧民窟ででも苦しませてやろうとしたのが誤りだったわ。舞い戻ってくるなんて……あの時にきっぱり殺しとくんだった」


「なんだ? 私はお前の姉への鬱憤の身代わりか。どうして我が身にばかりこんな理不尽が降りかかったかと長らく嘆いたものだが、実情とは案外くだらないものだな」


 ミルシュカは隣のエリアスを一瞬、見やる。


「まあ、おかげで得たものがあった。ある意味、お前の姉のおかげで殺されなかったのだし、禍福は後にならねばわかったものではないか」


「ムカつくわ、その、わたしと渡り合えると勘違いしてるカオ。わたしの邪魔した罰よ、メタメタに切り刻んで、今度こそ殺してあげる」


 ニーヴィアは顔の前まで手を上げる。

 瞬間、空気が凍った。


「来る、危険だ!」


 エリアスを背に、ミルシュカは剣を構える。

 ふっと鼻腔で感じた冷気。

 

 ニーヴィアが勢いよく手を振り下ろす。

 風切る音とともに、槍状の氷塊が猛スピードで飛来した。

 

 ミルシュカは瞬時に剣を振るい、三撃を弾く。

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