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なら忍び込んじゃいます?

 連絡が途絶えてしまった天穹米国法人を探るべく渡米した張偉は、出発直後から尾行に悩まされていた。ところがアメリカに着いてすぐ、何故か尾行が外れて自由になり、不思議に思っていた彼の前に現れたのは、なんと以前、彼のことを拉致しようとした犯人の一人だった。


「お前は……あの廃工場で捕まったはずじゃなかったのか! 何故、こんなところにいる?」


 張偉は後部座席に乗り込んできた男が誰だか気づくと、振り返って排除しようと腕を伸ばした。すると運転席の宿院青葉が慌てて彼を制止して、


「待ってください! 今回、彼は味方です。彼を呼んだのは私なんですよ」

「なんだと!? 一体、どういうことだ?」


 まさか裏切ったわけではないだろうかと張偉が困惑していると、青葉は申し訳なさそうに、


「張さんのお気持ちはお察ししますが、まずは落ち着いて聞いて下さい……あなたもご存知でしょうが、この男の第2世代魔法(スキル)は不可視。極めて高いステルス能力を持っています。それで、この能力が今回の捜査に役立つと判断した内調は、司法取引することに決めたんです。あなたが税関を抜けたところで、急に自由になれたのはそれが理由です。実は、彼は同じ飛行機にずっと乗ってて、頃合いを見計らって尾行を巻くように命令されていたんですよ」

「そんなの聞いていないぞ? どうして先に言ってくれなかったんだ」

「それは、言ったらあなたが難色を示す可能性もありましたし、今回は本当に隠密性が試される捜査ですからね。敵を欺くにはまず味方からと言いますが、あなたの様子から彼の存在がバレないようにとの判断でした」

「そういうこったよ、坊っちゃん。俺がいなけりゃお前は今頃、尾行も巻けずにこの辺うろちょろするだけで、とんぼ返りするしかなかったはずだぜ? 寧ろ感謝してほしいくらいだな」


 (ヘイ)と呼ばれた男は不敵な笑みを浮かべている。そのふてぶてしい態度が気に入らず、張偉が殺伐とした視線で睨みつけていると、その雰囲気を察した青葉が、


「事後報告になってしまったのは、確かに私の落ち度です。でも、私が信頼している上司からも勧められた作戦なので、どうか堪えてはいただけませんか?」


 彼女自身もきっと断りきれなかったのだろう。そんな女性を一方的に責めるのは気が引ける。張偉は仕方ないと矛を収めると、


「……宿院さんにそうまで言われたら受け入れざるを得ないが……だが、俺はこいつを信用したわけじゃない。それだけは忘れないで欲しい」


 後部座席を睨みつけていた張偉はムスッとした表情で前を向くと、助手席にドスンと腰を下ろして、への字に口を結んだ。


「まあ、そんなこと言わずに仲良くしようや」

「黙れ」


 そんな張偉に、黒が後ろからちょっかいを掛けてくる。張偉は彼を振り払うように乱暴に手を振ると、運転席からも顔を背けて不貞腐れたように窓の外を見つめていた。


***


 とはいえ、内調の判断は正しいと言わざるを得なかった。張偉が入国した事自体は、既にアメリカに把握されていたせいもあり、空港を出たあとも彼らは度々不審な車の追跡を受けた。第2世代魔法は人間の認知に働くが、逆を言えば人間以外には効かないので、監視カメラには彼らの姿がばっちり映っていたのだ。


 なので、空港から出てすぐまた追手が向けられたのだが、今度は、相手が人間ならば黒の魔法はほぼ100%効くので、彼らは目標に近づけば近づくほど目標を見失ってしまうという、理不尽な事態に翻弄される羽目になった。


 こうしていたちごっこを繰り返している内に、張偉たちも逃走に慣れてきて、車を乗り換えたりカメラを避けたりして少しずつ追跡者を振り払っていき、最終的には砂漠のハイウェイで路肩に停めている自分たちの車を、黒塗りの車が追い抜いていったところで、完全に追手はいなくなったようだった。


 砂漠の道は車が少なくて、前後に不審な車が居ればすぐに分かるから、ここまでくればもう安全と言えた。と言っても逃げた方角から目的地を知られては元も子もないから、彼らは西部劇に出てくるような広大な砂漠を、ぐるりと大回りしながら天穹のオフィスがある砂漠の都市へと向かった。


 かれこれ2日ばかりの行程である。昔、そういうロードムービーを見て憧れたものだが、実際に自分でやるとなるとこの長距離移動はきつかった。


 ともあれ、そうして街に着いた一行は、そのまま町外れの安モーテルにチェックインすると、初日は疲れもあったので部屋から出ずに周囲を窺うだけにし、翌日になってから情報収集を開始した。ただし、アメリカ政府にマークされているであろう張偉を除いて、青葉と黒の二人だけである。


 張偉は二人が外に出ている間、部屋に引きこもっているしかなく、なんとも歯がゆい思いをしたが、少なくともその判断は間違いではなかったようだ。手分けして情報収集をしていた二人は、街のあちこちで不審な人影を目撃したらしい。といっても、彼らは張偉の行方を追っていると言うよりかは、この街に住んでいる天穹の従業員の様子を窺っているようだった。青葉に言わせると、多分、FBIとか政府関係者ではないかとのことだ。


「昼間、オフィスビルの方も覗いてきましたが、完全に無人状態のようでした。近くの飲食店の話では、少し前にいきなり閉鎖されたらしくて、商売上がったりだと嘆いていましたよ。で、その閉鎖になった日というのが、ニューヨークのドラゴン騒ぎがあった丁度その日で、街ではドラゴンに関係があるんじゃないかって噂になっているそうです。というのも、街には従業員の家族が暮らしてるわけですが、通ってる学校であのドラゴンを見たことがあるという子供が何人か居たんだそうです。おそらく、開発中のものを見ていたんじゃないでしょうか」

「連絡が途絶えた時期と一致しているな。やはり、ここが震源地だったか……それじゃFBIはその情報を元に、あの事件を追っているって感じなんだろうか?」

「いや、FBIってのは言わば大統領の手先みたいなもんだろ? てめえで出したもんを、部下に探らせるなんておかしいんじゃねえか?」


 黒が当然の疑問を言う。青葉も尤もだと言わんばかりに頷いて、


「ええ、だから犯人を探していると言うよりは、情報が拡散しないように見張ってるんじゃないでしょうか。オフィスが無人だったのもそうです。もしもここが怪しいと思ってるなら、無人ではなく捜査官が中を調べているはずでしょう」

「確かに……つまり、街をうろついてる連中は、オフィスが閉鎖された理由をちゃんと知ってるってことか。そんなとこへ俺がのこのこ現れたら、捕まえてくださいって言ってるようなものだな」


 張偉は舌打ちしてから、


「……天穹のオフィスにさえ行けば、株主であるのを利用して何か聞けると思っていたが、あてが外れてしまったな。誰も居ないんじゃ、俺が行ってもしょうがないだろう」

「これからどうする?」

「かと言って他にあてもないし、このまま帰るのでは意味がない。せめて従業員から証言を得るか、出来ればオフィスに忍び込んででも何か情報を得たいところだが……」


 張偉は難しいつもりで話していたつもりが、ところが青葉はその提案に乗ってきて、


「そうですね。なら忍び込んじゃいます?」

「……本気で言ってるんですか?」

「ええ、実はそのための助っ人ですから。この男の隠密スキルは、ここに来るまでに十分理解出来たでしょう。ついでに、不法侵入に全く罪悪感がないことも、私たちが彼を買ってるところですよ」

「えらい言われようだな。あんまり言うと、へそを曲げちゃうぞ」


 黒はヘラヘラ笑っている。


「それに、張さんは今、桜子さんみたいに空を飛ぶことも出来るんでしょう? なら、私たちに入れない場所なんて、この世のどこにもありませんよ。早速、今夜にでも行ってみましょう」


 青葉は唖然とする張偉にウインクしながら、当たり前のようにそう言った。


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よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
前から思ってたけど、宿院さんって魅力的だよね。
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