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Worlds Collide -異世界人技能実習生の桜子さんとバベルの塔-  作者: 水月一人
第四章:高尾メリッサは傷つかない
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魔法の系譜学②

「我々の宇宙は4つの力の絶妙なバランスの上に成り立っています。このバランスがちょっとでも崩れたら宇宙は崩壊してしまう。だから異世界からやってきた人々が使う魔法の力も、実は同じ4つの力によって成り立っているに違いない。


 そう考えた昔の魔法研究者たちは様々な方法でそれを測定し、どうやら重力を用いたマジックフィールドと、我々には馴染のないニュートリノ系の力学を用いて、魔法は行使されているようだ、ということを突き止めました。


 ここまでは分かった。しかし、具体的に術者がどうやってマジックフィールドを展開しているのか? どうやって遠隔地に爆発を起こしたり出来るのか? そこから先のことは、実はまだ良く分かっておりません。


 長年の研究とルナリアンの協力のお陰で、魔法というものが彼らの『言語』によって引き起こされることは分かっていました。ルナリアンたちはアストリア語……いわゆる異世界語を用いて、術を発動しているらしいのです。私たち、地球人には発音が出来ないのですが、例えば異世界語で『火』を意味する単語を発音すれば、たちどころに火が現れるといった具合です。とても簡単ですね。


 ただし、より強力な魔法や、空を飛びたいとか、そういう願望を実現したい場合は、単語ではなく、もっと複雑な文節を持った詠唱が必要なようです。それらは日常的に使われている言語ではなく、古語のようなものらしいので、使えるようになるまでにはそれなりの練習が必要です。この点については、皆さんのほうがお詳しいでしょう。毎日練習していますからね。


 話を戻します。ところで、魔法を使う際には、こうした『言語』とか、術者の『意図』とか、『詠唱』が必要であるなら、術者が魔法を使ってる最中の脳内では、必ず何かが起こっているはずだと考えられます。我々も言葉を話すときには脳が活発に動いていますから、同じようなことが起きているのは間違いないでしょう。


 それで、術者が普通に会話している時と、魔法を使っている時の脳波を測定し比べてみたところ、確かに脳内で何かが起こっているのが確認されました。具体的には、視床下部と呼ばれる場所で、何らかの細かな動きが活発に起きているというのがわかったのです。


 そこは自律神経の中枢で、運動神経とも繋がっており、視覚、聴覚といった感覚器が取り込んだ情報が最初にやってくる、交差点みたいなところでもありました。また、マジックフィールドで集められたニュートリノエネルギーが行き着く場所も、大体この辺だということから、どうやら魔法はここで発火、スタートがされているんじゃないかと考えられるようになりました。


 そんなわけで数十年前、より詳しく調べようと大勢の術者からサンプルをいただいて、大々的に調査が行われたのですが、残念ながらそこから先は、あまり良く分かりませんでした。というのも、魔法を使おうとすると、術者の視床下部に活発な動きが生じるところまでは分かっても、その後が続かないのです。


 例えば、術者が空を飛ぶつもりで詠唱をした場合、詠唱の最中こそ脳内に活発な反応が現れるのですが、実際に空を飛んでいる最中には、特に目立った脳の動きは見られなかったのです。つまり、術者が飛ぶという意志を示すだけで、あたかも世界がそうしているかのように、魔法は自動的に発動されるのです。


 術者の詠唱、すなわち『意志』と、実際に起きた『物理現象』に因果関係があるのは明白です。ところが、その2つを結びつける物理的な要因(ファクター)が見つからない。


 これではまるで中世の謎の遠隔力……神の力が復活したようなものではないか? それでは困るから、魔法学者たちは一生懸命それを探しましたが、残念ながら、まだ見つかっておりません。


 そんなわけで、それがなんなのかを見つけることが、現在の魔法学の最大の目的なのです。


 今のところ特に怪しいと思われているのは、ニュートリノによる力学的な作用……ニュートリノは我々の目に見えるようなスケールでは働かない力ですから、現在の科学でも難しすぎて、測定が出来ていない可能性があります。他には重力を用いている場合。重力子は我々の住んでる四次元の時空を飛び越えることが出来るので、この場合、今のままでは観測すること自体不可能でしょう。先になんらかの特殊な方法を見つけなければなりません。


 皆さんの中からその謎を解き明かす人が現れてくれないかなと、私なんかは大いに期待するところです。


 さて、最初の大々的な脳波調査実験が期待外れに終わって、暫くの間、魔法学者の間では、脳波に関する話題は禁句になっていました。あまりに成果が上がらなかったから、ちょっとしたトラウマみたいになっていたんですね。


 でもそれから月日が経って、記憶も薄れ、いわゆる第2世代が誕生してきた頃、とある学者がこのことを思い出し、第2世代の術者の脳波も同じように測定してみようと思い立ちました。第1世代と第2世代ではちょっと魔法の傾向が違うので、試してみる価値があると考えたのです。


 具体的には、第1世代の魔法は爆発を起こしたり空を飛んだりと、外部的な物理現象を伴いますが、第2世代は基本的に人間相手、例えば相手を気絶させたり、混乱させたり、内部的な精神に働きかけるものばかりだったので、術者の脳波よりも、被術者(・・・)の脳波を測定する方に意味があるんじゃないかと考えたのです。


 それで、実際に第2世代魔法をかけられた被術者の脳内で、何が起きているのか調べてみたところ、どうも第2世代魔法というのも結局は第1世代と同じ、外部の物理現象を利用して、様々な内的な効果を生み出しているぞ、ということが分かったのです。


 具体的には、例えば相手を気絶させる能力は音波を用いて三半規管を狂わせたり、アンチマジックは詠唱とは逆位相の音波をぶつけて相殺していたりとか、第2世代魔法も実はやってることはあまり変わらない。ただ、見た目というか、手順というか、そういった細かな部分が違ってる。力の第1世代、技の第2世代って感じでしょうか。


 それで当時の私たちは、なーんだ、やっぱり第2世代も変わらないのかとちょっとがっかりもしたのですが……ところが、そうやって第2世代の様々な魔法を調べていたところ、ただの物理現象では説明がつかないような事例が見つかったのです。


 それは、いわゆるテレパシー能力を持つ術者のケースでした。


 説明は不要かも知れませんが……テレパシーとは、術者が頭の中で考えていることを、喋ったり、何か見せたりもせずに、遠隔地にいる相手に伝える能力のことです。これが今までに分かっている魔法の力では、どうやっているのか説明がつかない。


 例えば、被術者だけに聞こえるような、ものすごい指向性のある音波を発してるとか、例えば、ホログラムのような技術を用いて、被術者だけにこっそり映像を見せてるとかなら、そういった証拠が見つかるか、もしくは受け取った被術者が『何か見えた』とか『聞こえた』と言うでしょう。ところが、どうも被術者の反応はそれとは違う。


 術者と被術者が結託して、なにかズルをしているとか、他にも、暗示や催眠術のようなものを使って誘導してるんじゃないかと疑ってもみたのですが、それなら被術者が知らないような情報は伝えられないはずです。例えば、術者と被術者の双方には関係がない、私の出身地を伝えるとか。アルパカを見たことがない人に、アルパカのことをテレパシーで伝えると、『なんか首が長い、羊みたいな生き物?』といった感じで、ちゃんと答えるんです。


 どうもテレパシーを受け取った被術者は何かが見えたり聞こえたりしてるわけではなく、何かもやもやしたイメージのようなものを受け取ってるようなのですね。


 で、これが百発百中かと言えば、そうでもなく、意外と外れることもあるんです。まったく見当違いの答えを言うこともあれば、そもそも何も伝わってこなかったり、中には『幽霊が見える!』と飛び上がった人も居たそうです。


 それで、どうやっているのかは一旦置いておいて、相手に何が伝わっているのかに興味を持ったとある研究者は、術者と被術者、双方の脳波を取って見比べてみることにしました。すると面白いことが判明しました。


 先にも述べましたが、魔法を使おうとすると、術者の脳の視床下部の辺りが活発に動き始めますが……驚いたことに、テレパスの場合、これが術者の視床下部で起きるのとほぼ同時に、被術者の視床下部にも同じような反応が見られたのです。


 つまり、術者がテレパシーを伝えようとした瞬間、既に被術者の脳内にその情報が届いていたんですね。


 そして被術者の脳は受け取った情報を視床下部から、言語野や視覚野、主に記憶に関する部位に送り出し、意味を獲得する。すると、被術者の頭の中には漠然としたイメージが浮かび上がるわけですが……人間の脳の構造というのは大体似通ってはいますが、やはり個人差があるから、たまに失敗もしていたとわけです。


 さて、以上のことから一つの仮説が立てられます。実は魔法とは、このテレパスのケースのように、情報を伝達する能力だったのではないか? ということです。


 テレパスの場合は、術者がテレパシーを伝えようと意識すると、その意識の情報が視床下部に送られ、そこで魔法力を介する中間子に……今風に言えばパケットに変換される。そしてなんらかの手順(プロトコル)でそのパケットは被術者に送られ、受け取った被術者の脳はパケットから情報を引き出し、自分の脳内に展開する。こういう手続が起きているのではないかと考えるわけです。


 実は、あらゆる物質に伝わる力も同じように、粒子の交換によって行われているので、この考え方は科学者には馴染みやすいんですね。問題はそのパケットも、それを送る方法も見つかっていないのですが、今のところ、どうもこれが正解じゃないかという方向に傾きつつあります。


 魔法とは、情報をパッケージし、それを送り出す力だと考えれば、例えば爆発魔法は、視床下部に集められたニュートリノエネルギーを、パケットにぎゅっと詰め込んで、目的の座標に送信し、目的地に到達したパケットはプロトコルに従いそこでエネルギーを解放する……と考えられるわけです。


 まあ、仮に爆発魔法はそうだとしても、どうやって空を飛ぶことが出来るのかはまだ分からないわけですが、それも似たような方法で実現しているのではないか? と、今では考えられています。


 さて、最後の方は少々急ぎ足になってしまいましたが、以上が今までに分かっている魔法に関する大凡の概要です。ここから先、もう少し詳しく知りたいなら、大学に進んで魔法学を専攻したり、どこか専門の機関、例えばお隣の研究所なんかに所属して研究するという方法があります。もし興味があるのならご相談ください。


 それでは、今学期の魔法学の授業はこれで終了とさせていただきます。今のところ夏季休暇後に私の授業は予定されていませんが、週イチで研究所には来ていますから、見かけたらいつでも声を掛けてください。以上、今年も猛暑が予想されますが、みなさん体調を崩したりせず、元気に休暇をお過ごしください。新学期にまた会えることを楽しみにしております」


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