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第七十話 飛来! ABCDガールズ!


「グローバルイーグルでござる! 列車を追ってきてるでござるっ!」


 キリーの言葉に俺は後部へ走り、扉から少し顔を出して空を見上げた。

 

 先ほど見かけた白い鳥が飛んでいる。

 近い。かなり高度を下げている。

 それが俺たちのいる列車へ向かって、ぐんぐん近づいてくる。

 俺は客室を振り返り、


「ハル、窓から見えないように伏せろ!」


 そう叫んで再びグローバルイーグルを注視する。


「見つかったのでござろうか? 拙者とラリア殿がここに立ってたから……」

「どうかな。ラリアの姿は妻たちと会った時とは違うし、君のことを覚えられているとは思えないが……念のため、列車も調べに来た感じか」


 グローバルイーグルはさらに高度を下げ、近づいてくる。

 窓から中を覗きたいのかも知れない。


「ロ、ロスさん!」

「何だキング・ハル」

「こ、こ、この列車は試運転してるんだ。乗ってるのは機関手だけで、他に人は乗ってないことになってる。人が乗ってるところ見られたら不自然に思われるよ!」


 ハルを振り返ると、彼は前後の座席の間に挟まり伏せた状態で、顔だけこちらに見せていた。


 機関手だけ。整備士は乗せていないということか?

 途中で故障したらどうやってこの列車をフェリデールまで戻すつもりなのだろうか。第一その場合機関手はどうやって帰ればいいのだろうか。死体を探しにでかける古い映画のように、線路を歩いていくのだろうか。俺が言うのも何だが、どうもこのハル・ノートという男やることなすことどこか抜けている。


「この列車は間違いなくガスンバに向かっていて、渓谷とやらを越える手はずか?」

「そ、そうだ。大渓谷の向こうまで行ければ、列車以外は大回りしないといけないからみんな追ってこれないと思って……渓谷を越えれば逃げれるけど……」


 抜けているのは、「ら」もだった。俺は舌打ちしてから言った。


「では仮に見つかったとしても問題なかろう。ここまでフェリデールから離れれば、これから馬であの街を発っても追いつくことはできない。もっとも見つからないに越したことはないが」

「ロス殿。拙者らはいかがいたす」

「君とラリアは勝手に列車に乗り込んだ不良少女という体でいこう。ハルのいる席に座り、足で彼を隠してやれ」


 俺はキリーにそう言って、扉の内側に身を隠した。

 キリーとラリアが中に入ろうとした時。


「マスター。鳥さんどんどんこっちにくるですよ」


 ラリアがそう言ったので、少し外を覗いてみた。

 たしかにグローバルイーグルは列車の真後ろにつき、列車の天井ぐらいにまで高度を下げ……その白い鳥の上に4人。


「マ、マスター! さっきのおねーさんたちが乗ってるですっ!」


 アリス。ブリジット。チュンヤン。ディアナ。

 グローバルイーグルの背にしがみついている。


「ハルっちー、待ってぇー!」


「こらぁーハルーッ! 待ちなさぁーいッ!」


「そんな鈍足鉄道ではワタシから逃げられないアルよーっ!」


「なにその高速鉄道があるかのような言い方」


 そのまま急速に、列車後部へ突っ込んでくる。


「キリー、ラリア! 中に入れ!」


 2人を中に入れ、先に客室の奥へ走らせながら、俺も後部を離れる。

 同時に扉の外に見えるグローバルイーグルがやや上昇し姿を消した。

 直後に衝突音。客室がぐらつく。

 グローバルイーグルが客室の天井部に乗っかったらしい。


「アチョーッ!」


 天井部から怪鳥のような叫びがした。かと言ってグローバルイーグルではない。たぶんチュンヤンだ。


 叫びと同時に天井が丸く切り裂かれた。

 直後、くり抜かれ円板状になった天井の一部と、青龍刀を手にしたチュンヤンが客室に落ちてきた。


 そして落下したチュンヤンが座席のハンドレストで膝を強打。


「アイヤ! 膝打ったアル……」


 よろよろ起き上がるチュンヤンのあとから次々と少女たちが降りてきた。

 ディアナ、アリス、ブリジットの順。

 狭い客室の通路、そして座席と座席の間に立つ。


 サッカレーの荒ぶる王妃たちの勢ぞろいだった。


「あっ! あんたは!」アリスが言った。「さっきのチンピラ!」

「どこ探しても見つからないからひょっとして列車じゃないかと思って飛んで来てみれば、何であんたがここにいるのよっ!」

「何アルか、身代金目当てアルか! おカネならないアルよ!」

「あるのかないのかはっきりしなよ……」


 口々に叫んでいた。

 俺は少し後ろを振り返る。

 キリーがラリアを後ろ手にかばい、さらにその向こうでハルがガタガタ震えていた。


「あ、あっあっ……」


 アリスが進み出て言う。


「ハルっち、やっと見ーっけ。帰ろ。ねっ? それでさ、また5人で遊ぼうよ」

「い、いやだっ!」

「どしたの? ハルっち」

「お、お、俺はもう帰らない! あんな、あんなこともういやだ! これ以上あんなことしてたら俺死んじまう!」


 アリスは両手を広げて肩をすくめ、何これ? といった顔で他の妻を振り返る。


「ハル。あんたそいつに何言われたの? 帰らないだなんてそんなこと許さないわよ」

「違うっ! これは俺の意思だ! おまえたちだって知ってただろ⁉︎ 俺が嫌がってることぐらい!」

「ワガママはよすヨロシ。世の中は何でも自分の思い通りにはいかないものアルよ? 偉大なる恩恵を甘受するためには、時に誰かの股の間をくぐるような忍従が必要となる時もあるアル。というわけでワタシ、ハルを跨ぐ役やるアル。騎馬式で足腰鍛えるアルよ。ワタシ上で動いてあげるアル」

「やめろォ‼︎」


 その時ディアナは座席の背もたれに両肘でもたれてハルを眺めていた。が、俺の顔を見て言った。


「……で。お兄さんは誰なの? さっきもやたら絡んできてたけどさ。後ろの女の子2人もそうだけど……何が目的?」


 気だるげながらもその瞳は冷たい。

 警戒心にあふれていた。さっきの乱闘騒ぎの件もあるだろうから無理もないが。

 俺は言った。


「俺はロス。ロス……アラモスだ。さるお人に頼まれて、ハルに解雇通知を渡しにきた。カトラリー販売会社社長、王様、そしてまた転職の時が来たということだ」


 妻たちはそろって眉根を寄せた。


「ど、どゆ意味……?」

「あんたの職業が詩人なのはわかったけどもう少しわかりやすい話し方しなさいよ」

「さるお人ってダレアルか」

「…………サッカリー王子じゃない?」


 ディアナの言葉に他の妻たちは、えっと声をあげた。

 俺はまた彼女たちがわめき出す前に言ってしまうことにした。


「まあそういうことだ。こう言っては何だがキング・ハルはいい加減な政策も多いし、君たち王妃の散財もこのサッカレー王国の問題となっていると聞いている。俺はそれを解決するために雇われた。それに今キング・ハルと話をしていたが、彼自身もまた君たちの元を離れたがっている。彼も王の座を降りていいと言ってくれた。ではこのまま彼を解放し、国を正統な王子に返還するのが、全員にとって幸せな結末だろう」


 アリス、ブリジット、チュンヤンは、俺とハルを険しい表情で見比べている。

 ディアナの冷たい視線も変わらない。その目のまま言った。


「ふーん……でもさー……。それ、全員の幸せってやつ。その全員の中に、あたしたちが含まれてなさそーなんだけど?」


 アリスが腰のトマホークを抜いた。

 ブリジットもクレイモアを手にする。

 チュンヤンは最初から青龍刀を担いでいたし、ディアナもまたはじめから鋲付きグローブをはめていた。


「ねえハルっち。どゆこと? あーしたちと別れるってこと? どうして? あーしたち、いつも君のために色んなことしてあげたよ? あーしだって、いつも学校で君を守ってあげたじゃん。あの隣のクラスだった白熊みたいな大きな体の男子、覚えてる? あいつとか、それから大陸間弾道魔法が使えるんだぞとか言って威張ってた、ワガママばっかり言ってた太った男子とか。それから……他にまだ誰かいたはず……」

「アリス。何で今ワタシ見たアルか」

「まあハルっちの場合は結局自分で解決できてたけどさ」

「何で無視するアルか」

「どうしてなの? こんなに尽くしてきたのに。なのに君はあーしに何も返してくれないの? こんなの全然フェアなトレードじゃなくない?」


 アリスがゆらりと歩んで来る。俺の後ろで「ひっ!」と息を呑む音が聞こえた。

 俺はアリスを手で制した。


「そこで止まれ。君たちにはたいへん申し訳ないが、俺は彼を君たちから引き剥がし、サッカレーをあるべき姿に戻すためにここへ来た。終点まで見送るつもりがないなら、さっきの鳥に乗って帰ってくれ」

「は? 勝手なこと言ってんじゃないよ。ハルっちはあーしの物。誰にも渡さないし、行かせないし」

「……ではどうする? 戦争か?」


 俺は左肩を突き出し斜に構えた。

 妻たちの表情がこわばる。


 それもそうだろう。彼女たちは先ほど、俺に手も足も出ず翻弄されたばかりだ。


 しかもここは狭い。

 通路の幅は1人分しかなく、彼女たちは一対一でしか俺と戦うことはできない。

 特にクレイモアのブリジットと、1メートルほどの長さの棒に青龍刀の刃を取り付けた、短めの薙刀のような形状の武器を持っているチュンヤンは戦いにくかろう。


 かと言ってディアナは素手、しかもキックボクシングのような格闘スタイルだ。

 俺はボクシング。ボクシング最大の弱点はローキックではあるが、座席が邪魔をして脚は振り廻せまい。


 トマホークを持つアリスが先んじて進み出た。

 やはりそうなるだろう。

 そしてアリスは言った。


「みんな。ハルっちを見てて。逃しちゃダメだよ」


 その言葉のあとに……俺の背後のラリアが叫んだ。


「マスター……あのヌルヌルのトカゲです!」


 ブリジット、チュンヤン、ディアナの背後から、ヌルチートが顔を覗かせた。


 


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