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第六十六話 追跡! ハル・ノート!

脱字の報告をしてくださった方々、この場を借りてお礼申し上げます。

マジ助かりました。ホーム画面でチェックできるだなんて知らんかった……。


「ここまで来れば安心でござろう」


 そう言ってキリーが立ち止まった場所は、建物が途切れた街はずれだった。

 ぼうぼうに伸び散らかした草の空き地に、今はもう使われていない様子の空き家が、まばらに点在している。

 空き地の遠く向こうには、街壁が見えていて、その上に青空が広がっている。


 空き地にはコンテナのような、大きな長方形の箱がいくつか置かれていた。そのためか鉄道の終点のような風情があった。人気といったら作業する職員しかいなさそうな、寂しい雰囲気の場所だった。


「ロス殿。いったいどうしたかったのでござるか? いきなりケンカなんかして……」


 そう尋ねるキリーの呼吸は、結構走り回ったわりに乱れていない。これが若さか。


「出方を見たかっただけだ。どんな人物か知りたい時は怒らせてみるに限る。何であれ行動には必ず人間性が垣間見えるものだが、感情的になった時はなおさらだ」


 キリーは俺を胡散臭げに見上げている。

 反抗期真っ盛りの多感な10代は、大人の良い加減なごまかしを簡単に見破れるものだ。ひょっとしたら、要はそれ出たとこ勝負の行き当たりばったりと言うのでござると看破したのかも知れない。

 しかし彼女は目上の人間を立てたかこう尋ねただけだった。


「それで? お見立ては」

「覇気がない。男としての何物もなかった。どうも強欲な妻たちの操り人形のようだな。あとは、すごい手品が使える」


 ハルは俺たちの……彼の妻の前からも姿を消した。

 一瞬でだ。ヌルチートを使わせる暇も与えなかった。


「キリー。あのスキルは何だろう?」

「あのかき消える、ハル・ノートのスキルでござるか? あれはハル・ノートがエンシェントドラゴンを葬り去る時に使ったスキルだと聞いたことがあるでござる」

「あの消える技でか」

「ロス殿もドラゴンと戦ったことがあるのであれば、ドラゴンウォールを御存知のはず」

「ああ。魔法を全て跳ね返す魔法の障壁のことだな」


 俺はタイバーンの港での、エンシェントドラゴンとの戦いを思い出す。

 あそこに集まっていたタイバーンの魔砲兵や、航空兵の魔法をことごとく防いだドラゴンの障壁。

 なぜか乱入してきたエルフ少女の大火力の魔法すら、ドラゴンにかすり傷一つつけることは叶わなかった。


 結局倒せたのは俺のスキルがあったからだ。

 俺の固有スキル《ハードボイル》はマイクロウェーブを発射するスキルだが、どうもマイクロウェーブはドラゴンウォールを透過するようだったから倒すことができたわけだが……。


「ハル・ノートのあの消えるスキルは、たんに姿を見えなくしてるわけではないそうでござる。何でも、瞬時に別の場所へ移動することができると。ハル・ノートはそのスキルを用い、何とドラゴンウォールの内側に移動し、後は剣技と魔法によって一方的に倒したそうでござる」


 キリーは斜め上を見上げて思い出すようにしながらそう話す。


「そういうスキルは一般的だろうか」

「いえ。拙者そのようなスキル、噂にも聞いたことはござらぬ」

「スツェイツス、オッペンンヌッ!」

「わっ! 何でござるか」


 俺はステータス画面を開いた。

 自分の、《ハードボイル》の項目を覗いてみる。


『このスキルは転生者に備わる対エンシェントドラゴン用の固有スキルだぞ! エンシェントドラゴンの障壁は氷や土のような物質、あるいは炎のようなプラズマ攻撃を遮断できる手強い魔法だ。けどこのスキルは高密度のマイクロウェーブを投射することによってドラゴンの障壁を突破し、体内の水分子を振動させ加熱する。これによってドラゴンの蛋白質は硬化して、熱中症になって死んでしまうんだ!』


 まあ何でもいいのだが、俺は一行目に注目する。


 転生者に備わる対エンシェントドラゴン用の固有スキル。


 ハルは異世界の現地の者にも知られていないスキルでドラゴンを倒したという。

 どうやらあの《プロジェクト・フィラデルフィア》というスキルは空間を飛躍するスキルであり、そしてそれは転生者だけが持つ固有スキルのようだ。


 俺はマイクロウェーブで、ハルは空間飛躍。

 どうも転生者というのは、それぞれ違った固有スキルを持っているものらしい。


「キリー」

「何でござるか」

「そんな風に、誰か特定の個人しか使えないスキルというものがあるんだろうか?」


 キリーは首を傾げた。


 彼女の頭の中でロス・アラモスという人物は、激しい修行と発狂必至の修羅場をくぐり抜けてきたことでSランクの力を手に入れた、すごい頑張り屋の若者ということになっている。

 それほどの猛者であれば、スキルのありようなど訊かなくともわかりそうなものなのにと考えているのかも知れない。


 しかしキリーは記憶をたどるように斜め上を見上げ、そして言った。


「いえ。スキルは修得の難易度がそれぞれ違い申すが、その者にだけ会得できるというスキルはござらぬはず。才能の有無により修得者が少ないものはあり申すが……たとえば剣術(ソードアート)などは技倆に差が出やすく、剣聖(ソードマスター)と呼ばれるほどに至る者はまれでござるな。カシアノーラ大陸の歴史上でも2人しかおりませぬ」


 そういうものなのか。俺も、転生者のパンジャンドラムも当たり前のように《剣聖(ソードマスター)》のスキルを持っていたが……。


「ゆえに、転生者というものは稀有な存在にござる。それぞれが全く異なる、他の者にはけして真似できぬスキルを持ってるでござる」


 そう続けたキリーの言葉に、今度は俺が首を傾げた。


 固有スキル。

 転生者だけのスキル。

 1人だけのスキル。


 なぜだろう。

 これはどうも、エンシェントドラゴンを殺すためだけのスキルのような感じがする。


 この異世界においてドラゴンを倒すだけなら、修行によってSランクに達した戦士にもできるようだ。

 しかし俺たち転生者は、他のスキルだけではなくドラゴンの……ドラゴンウォールを越えるためのスキルを、初めから身につけている。


 なぜ……。


「ロス殿、いかがなされた? 考え込んでござるが……」


 キリーが俺を見上げていた。

 そして唐突にラリアが、キリーへ尋ねた。


「あのおにーさんは、どこ行っちゃったですか?」


 もっともな質問だった。

 今ハル・ノートの固有スキルについて重要な点はそこだ。

 転生者についての思考は中断して、目の前の問題にあたることにする。


「キリー。彼のスキル、移動のためのスキルだと言ったな。どの程度の距離を移動できる? まさかこの街の外まで行ってしまったんだろうか」

「いえ、左様なことはないかと。ドラゴンとの戦いの折、ハル・ノートはかなりドラゴンに近づいてからスキルを発動させたそうでござる。しかも一度は失敗してドラゴンウォールの中に入れず、しばらく必死で逃げ回っていたとのこと。どうやらあまり遠い距離は移動できず、しかも一度発動させると、再度の発動までに時間がかかるようでござる」


 俺は言った。


「君のスキル、《シャドウ・ウィンドウ》のようなものか?」


 スコーウェルの村でキリーともめた時、彼女が使ったスキル。影の中に飛び込み、別の影から出る空間移動のスキルだ。


「む。たしかに似たようなものでござるな。ただ拙者の《シャドウ・ウィンドウ》は影を使用せねばなり申さぬ。しかも拙者の体が入るほどの大きさで、かつその影が他の物に接しておらぬ時にしか使えないのでござる。たとえばあのように……」


 キリーは空き地の、2つのコンテナを指差した。


「あの箱にできた影はダメでござる。1つのコンテナの影が、隣のコンテナに触れてるでござる。ゆえに建物で暗くなる路地裏や、夜半の暗闇ではでき申さぬ」


 キリーの指差すコンテナは、なるほど影が隣のコンテナの壁を一部、黒く染めていた。

 路地裏のような場所では、建物の影は必ず隣の建物にかかるし、夜は全てが影そのものになり、全てにかかっているという言い方ができる。


「それに……」

「何だろう?」

「たとえば人が持つ松明であるとか、炎魔法などを使うと、場合によっては一時的に影が消える場合があり申す。もしも拙者が影に入ってる時、出口の影が消されると……」


 どうなるのだろうか。

 まさか2度と、影の世界から出られなくなるのだろうか。


「あの、は…………」

「は?」

「は、裸になって出てきてしまうのでござる…………!」


 キリーはそう言って、顔を赤らめてうつむいた。

 何という使いづらいスキルなんだろうか。それに比べればハル・ノートの《プロジェクト・フィラデルフィア》はある種の不正と言ってもいいほど、都合のいいスキルに思える。俺は突如影からすっぽんぽんで飛び出しつつ手裏剣を投げてくるキリーを想像した。


「意外に集中を乱されるな……」

「え、今何と」

「しかしそうとなると、ハルはそう遠くまで行っていないことになるな」

「さ、左様。このフェリデールは広うござる。街の外へは行っていないと思うでござるが……」


 そう言って、キリーは辺りを見回した。

 そして空を見上げた時。


「ロス殿、こちらへ!」


 俺の手を引き、空き地の一角にあったボロボロの小屋へ走った。

 小屋はほとんど柱と屋根しか残っていないひどい荒れようだったが、キリーは俺とラリアをそこへ連れ込んだ。


「どうした?」

「あれを。できるだけ屋根から顔を出さずに」


 キリーは短く言いつつ、空を指差した。


 空には鳥が一羽、飛んでいる。

 タイバーンで見たグリフォンぐらいの大きさの白い鳥だ。

 ゆっくりと大きく旋回しているだけで、大きさを除けば何の変哲もない光景だった。UFOが飛んでいるわけでもない。


「あの白い鳥。ハル・ノートの妻の1人、アリスの召喚獣にござる」


 俺はもう一度まじまじと、宙を舞う鳥を眺めた。

 鳥にしてはあまり羽ばたいていない。上昇気流に身を任せているのかと思ったが、それならもう少し翼を動かしてもよさそうなものだが。


 その翼は細い。それにずいぶん頭が大きい。くちばしもなく、丸い。たしかに見たことのない鳥だ。


「召喚獣グローバルイーグルでござる。あの鳥の瞳に映ったものは、全てアリスの知るところとなり申す。どうやらあの女たちも、ハル・ノートを血眼になって探しておるようでござるな」

 


 


 


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