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第六十四話 対決! ハルの取り巻き!


「空いたぞ」


 俺に突き飛ばされ尻餅をついた女たちと、その中心にいる長身の男。


「気にせず手続きを済ませるといい」


 俺は男にそう言った。

 それから踵を返しギルドの入り口へ向かう。


「あっ、ちょ……待ちなさいよっ!」


 背後から1番最初に声をかけたのは、ブリジット。俺は答えず入り口へ歩く。

 入り口扉の右隣にあるテーブル。そこに座っていたキリーが立ち上がりかけるのを目で制し、ラリアを手招きして左腕に装着する。


 そして扉を開け外へ出た。

 街は全体的に白い建物が多く、陽の光を反射して眩しくすら感じられた。ギルドの向かいは2階建ての、平たい屋上を持つ建物だ。ギルドの建物と石畳の道を挟んで、それらの建物が左右に連なっている。


「ま、待ちなさいって言ってるでしょっ!」


 俺はギルドから女たちが出てくるのを横目で確認すると、少し左の方へ歩いてから、往来の真ん中で立ち止まった。

 さして道幅は広くもなく、3人の女が間隔を開けて並び立つことで道いっぱいに広がり、俺を睨んでいた。


 左から、アリス、ブリジット、ディアナ。

 チュンヤンはハルに逃げられないようにするためか、3人のやや後ろ、ギルドの入り口近くでしっかり彼と腕を組んでいる。

 俺は言った。


「何の御用だろう、レディーたち?」

「いやいや何の御用じゃないっしょ、チュンヤンに謝んな!」

「か弱い淑女に手をあげるだなんて、あんたってさぞ素敵なご両親に育てられたんでしょうねっ!」

「素通りはちょっとないんじゃない?」


 俺は斜に構えつつ彼女たちを眺めやる。

 そして彼女たちへの答えとして、鼻で笑ってやった。


 女たちの顔が真っ赤に染まった。特にブリジットだ。カルシウムが足りてないのか、ワナワナ震えている。


「ちょっとあんた……どういうつもり……?」

「どういうつもりも何もない。君たちが他人を困惑させて憚らないものだから、さっきの背の高い彼を助けてやっただけだ」

「あんた、この私に対してよくもあんな真似……! 私たちが誰なのか知っててやってるんでしょうねっ!」

「ああ知ってるさ、失策の多い間抜けな王と、そのグルーピーだろう? 無教養で、列の並び方も知らない田舎者の集団だ」


 女たちは顔を見合わせた。

 一国の王と知ってなおケンカをふっかけるような俺の言動が不思議なのだろうか。

 ディアナが言った。


「ずいぶんイっちゃってる奴だね。わかってて絡んできてるっての? 何考えてんだろうね」


 険しい表情だった。

 少女に険しい顔で睨まれるのは好きじゃない。

 好きだという奴もいるかも知れないし、ただ睨むだけじゃなくもっと蔑むように見て欲しいという者もいるが、少なくとも俺はそのタイプじゃない。


 俺の考えていることなど簡単だ。

 どうもハルの妻たち、ハルの威を借りて威張り散らすのが日常となっているらしい。

 と、いうわけで、


「まったくやれやれだ。本来なら君たち全員裸にひん剥いてケツをひっぱたきお仕置きしてやるところだが、あいにく俺も忙しくてね。それに君たちのような下品な女の裸というものはいまいちそそられない。見逃してやるから去るといい」


 とこういう調子で挑発していればだ。


「うう、何この人……!」

「ちょっとハル! 何黙って見てるのよ! あんたも男だったらこいつを懲らしめてやりなさいよっ!」


 そうだろう。そうくるはずだ。


 俺はそうやって、ハルを引きずり出すつもりでいた。

 決闘だ。

 一対一、男らしく、石畳の上で取っ組み合いでもしながら、機を見て俺が転生者だということを彼に囁く。


 とにかくハルの妻たち、そしてキリーにも聞かれない形でそれを打ち明けるには、こういう方法しか思いつかなかった。


 俺はブリジットに呼びかけられたハルに目をやる。

 彼は相変わらず、茫洋とした目つきで揺れていた。視線自体は一応俺に向いているようだが……。


「ずいぶん頼りない男だな」

「なぁんですって⁉︎ あんたハルをバカにしたら……」

「事実そうだろう。自分の女が侮辱されているというのにあそこで硬直しているじゃないか。ま、無理もない。男の器量というものはそいつの連れている女を見ればわかるものだ。揃いも揃って育ちの悪そうなメンバーばかり。()れ鍋に()じ蓋というやつか」


 俺はちらりとハルを見やった。

 日本の諺を出したせいか、少しだけ彼の焦点がさらに俺に合わされたように見える。


 だがそれ以上の反応はない。

 自分の妻と通行人のトラブルを止めにくるでもない。

 もう一押しか。


 俺は3人の真ん中に立つブリジットだけに視線を合わせ、彼女に近づく。


「……だが君のような気の強い女は嫌いじゃない」


 そう言って目の前まで近づいた。余談だが、俺は気の強い女性は苦手だ。


「な、何よ……!」


 ブリジットは後退るでもなく、顔をぐっと上げて俺を睨む。

 俺はそんな彼女の腰を抱いて引き寄せた。


「な、な、な⁉︎」

「君のような高貴な女をベッドに放り込み、四つん這いにさせて、ケツをひっぱたきながら愉しむのも悪くない。どうだ? あそこにいるモヤシは放っておいて、俺と一緒にこないか…………」

「は、な、なに、なにお……」


 ひょっとして異世界にモヤシはないのだろうか。心なしかハルが一瞬、ピクリと反応した。

 しかしこちらに向かってくるわけでもない。

 早く止めにきてくれないものか。このまま順当にいってしまうと、俺はブリジット嬢を相手に人生初の……セックスなる行為を行なわなければならないのだが。これはたいへん困ったことである。

 俺は囁いた。


「俺は……」

「な、な、」

「あらゆることで奴を上回っている……」

「え、え、なにが」

「サイズも……」

「さいっ」

「テクニックも、だ…………!」

「は、はわわ」

「俺の方が奴より君を幸せにできる……」

「あ、あ」

「昼はもちろん…………」

「うああ」

「……夜もだ!」

「あうん」


 その時だった。


《ソードマスター・サッキレーダーが発動しました。3時の方向》


「こらっ! ブリジット様を離せーっ!」


 横目にパンチが飛んでくるのが見えた。

 ディアナだ。拳頭に鋲のあるグローブをすでにはめている。


 俺はブリジットを離し素早くバックステップ。拳は俺の眼前で空を切った。


「ブリジット様、大丈夫⁉︎」

「え、あ、はい……いや大丈夫じゃないわよっ! 何するのよ! 変態!」


 いきり立つブリジットを背に、ディアナがアップライトなファイティングポーズを取っていた。

 アリスも腰のトマホークを握り、


「ね、ねえハルっち、助けて!」


 後ろの亭主を振り返る。

 しかしハルは無反応。と同時にチュンヤンが言った。


「いや……ダメアルよ……」

「どうして⁉︎」

「いや、あの……ワタシ、今腕離せないアル……」


 女たちが顔を見合わせる。そしてアリスが、


「あ、そっか……ハルっちにスキルを使わせるのは……」


 そう、呟いた。


 やはりだ。

 やはりこの女たちはヌルチートを使役している。


 女たちはハルが転生者であり、異常なスキルを駆使することができることを知っている。その力をもってすれば、傲慢な通行人ことロス・アラモスを簡単に排除できると考えている。


 しかしそのスキルを使わせてしまえばだ。

 今この場から、スキルを駆使してハルが逃げ去ってしまうかも知れない。彼女たちはそれを心配しているに違いない。


 まごつく女たちを眺めながら、俺はその行動に少しばかりの奇妙さを感じていた。

 

 ハルにスキルでもって逃げられる心配はごもっともだが……ならばハルが俺を懲らしめた後、その場でヌルチートを使い再び捕まえればいいだけの話ではないのだろうか。

 

 そう考えていた矢先。


「もーいーよ。こいつ、あたしがやっつけるよ」


 ディアナがそう言った。


「元はといえば、あたしチュンヤンの実家に雇われたボディガードだったわけだしね。ハルやみんなと知り合えたのも、チュンヤンの実家がハルのフォーク屋さんと商売する機会があったからだし。これはあたしの仕事で……」


 ディアナがあらためて、ファイティングポーズを固める。


「友達をいじめたことは許さないっ!」


《ディアナはチャクリキ・ラストタイラントのスキルを発動しています》


 そして突進してきた。俺は言った。


「やれやれ」


剣聖(ソードマスター)・ジュージュツのスキルを発動しました》

 

 ディアナが目にもとまらぬ速度で左フック。

 それを俺にブロックさせておいての右のローキック。極めてオランダ的な、教科書どおりの対角線コンビネーション。

 俺はその蹴り足に足の裏で乗り、跳んだ。


「とうっ!」

「あっ⁉︎」


 そして宙返りしつつディアナの頭を跳び越え、着地の前に振り向きざま空中で、


「当身!」


 うなじに手刀を打ち込む。

 ディアナは失神して崩れ落ちた。


「あっ、この!」

「きーっ! よくもディアナを!」


 アリスがトマホークを振り下ろしてくる。まったくやれやれだ。たかが列の並び合いでアリスは殺人事件を起こしたがっていた。

 俺は振り下ろされる右手を掴み小手返し。間髪入れず、仰向けに転倒したアリスの鳩尾に拳を沈める。


「きゅうん……」


 と唸ってアリスは気絶。


《ブリジットは剣術(ソードアート)・HMAを発動しています》


 ご令嬢は左足前の半身。クレイモアのグリップを握った両手を、顔の右横で交差させるように持ち上げ、剣先をこちらに向ける構え。


 日本の剣術で言えば霞の構えというやつだろう。

 ブリジットがその姿勢のまま接近してきて……


《サッキレーダーがお知らせします、ブリジットの攻撃開始時間まで残り2秒。1秒。今》


 打突に十分な間合いへ侵入すると同時に彼女は後ろの右足を大きく前に踏み出す。と同時に切っ先を横薙ぎに放り込んできた。

 円とも直線ともつかない軌道。速い。狙いはこめかみ。


《パウンドフォーパウンドのスキルが発動しました》


 ウィービングで左に躱す。

 瞬間ブリジットは手首の返しにより目まぐるしい速度で逆袈裟に斬り込んできた。

 そういうコンビネーションなのだろう。躱されることを織り込み済みの動き。


 そして俺のスキル(俺自身ではないのだ)はその動きも織り込み済みだったようだ。

 反射的に右腕が伸びクレイモアの、ブリジットの親指側の鍔を掴む。同時に左手はグリップエンドに添えられた。

 振り下ろされる剣の勢いに逆らわず、てこの原理で回転。


「きゃあっ⁉︎」


 ブリジットは自らの勢いでひっくり返った。

 地面に大の字に転倒。俺は奪い取ったクレイモアを、


《ザ・マッスルのスキルを発動しました》

 

 彼女の両足の間にドレスのスカートごと突き立てた。


「ひっ……!」

「ゲームセットだ」


 ブリジットは地面から剣を引き抜こうとうんうん唸っている。

 しかし刃の半分は地に埋まっていた。そのうえドレスが縫いとめられて彼女は尻餅の姿勢から立ち上がれず、引き抜くには力が入らないようだった。


 俺はそれに構わず、ハルとチュンヤンに近づいた。



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