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第五十四話 ワイルド氏! その正体!


「誰かこの女を何とかしてくれ」


 砦の3階。

 その石造りの1室に俺たちはいた。


 窓のある奥側にワイルド氏が座り、そのそばにキリーと、縛られたラリア。


 俺は部屋の真ん中に立ち、背後には屈強な山賊が控えていた。


 俺の目の前にはエルフが突っ立っていた。

 文字どおり突っ立っていた。至近距離で俺の顔を見つめ、何かニマニマ笑っている。不気味だ。


「誰かこの女を何とかしてくれ」


 再度の俺の頼みに答えずに、リーダーはワイルド氏の前に進み出て言った。


「司祭殿。先ほど村で貴殿が我らに見せたアミュレット。いかなる意味かお聞かせ願いたい。なぜ貴殿がそれをお持ちなのか」


 ワイルド氏の方から何かゴソゴソ音がする。たぶん胸元から、そのアミュレットとやらを取り出しているのだろう。とにかくエルフが邪魔で前が見えない。


「これのことか?」

「そうだ……それはサッカレー王家に伝わる、王位継承権を持つお方にのみ持つことの許されるアミュレット。なぜ貴殿がそれを!」


 リーダーが驚きの発言をしているのだが、こちらはそれどころではなかった。エルフの顔がだんだんスライドして近づいてくるのだ。


「ドリアス団長よ」

「そのこともだ。なぜ貴殿は私の名を……」

「このサッカレーで王位継承権を持つのは誰であるか?」

「知れたこと。サッカレー先王の御嫡男、サッカリー4世王子殿下その人である。そのアミュレットも、サッカリー王子がお持ちの物のはず。貴殿はどこでそれを手に入れた?」

「初めからだ」

「何⁉︎」

「父母より与えられし物」

「…………」

「余こそが、サッカリー4世である」

「戯言を! 何を言い出すかと思えば……王子殿下は御歳23歳! 貴殿はどう見ても40代だろう! 何のつもりで王子を僭称している!」

「エルフ殿。こちらへ」


 そのエルフは俺をガン見していた。徐々に徐々に近づいてくる。唇を尖らせて。


「……エルフ殿、あの」


 俺は後じさった。しかし屈強な山賊がすぐ後ろにいるのでこれ以上下がれない。


「呼ばれてるぞ」

「いいの……」

「よくない。行ってくれ」

「ロスがそう言うなら……」


 エルフは振り向き、


「何よカスパール。早くしなさいよ。今いい雰囲気だったんだから」


 とぞんざいに言った。


「あ、あの」キリーが言った。「司祭殿。カスパール、とは? あなたはワイルドという名のはず」

「それはこれから説明しよう。エルフ殿。あの日あなたが私にかけた魔法、今こそ解いていただきたい」


 エルフは腰に手を当て、ワイルド氏を見下ろしている。


「いいの? この状況を看るに……あなたはこの連中から逃げ出したくて、《交換》の魔法で別人になったんじゃない?」


 リーダーとキリーが、エルフを見やりつつ眉をひそめた。


「……もうよいのです。この者たちは、私が去った後山賊にまで堕ちた。事ここに至っては、まさか知らぬ振りもできません」


 ワイルド氏は静かにそう言った。

 エルフは1つため息をつくと、肩にかけた鞄から巻物を1つ取り出した。

 それを一気にベロリと広げる。

 中には様々な、人間の顔が描かれていた。彼女はそれを矯めつ眇めつ眺めていたが、


「これだ。サッカリー王子」


 1つの顔の絵を指差して呟いた。そして中空で右手の人差し指を回転させた。

 すると、巻物から緑色の光が発された。

 描かれた顔の辺りから光は伸びていき、ワイルド氏の顔を包み込む。


 キリー、リーダーはそれを固唾を飲んで見守っている。

 やがて、エルフが呪文を唱える。


「ちちんぷいぷい、喝ッ!」


 同時に光がぱっとかき消える。


「おお……!」

「な、何と⁉︎」


 リーダーとキリーはすぐさまワイルド氏の前にひざまずいた。俺の背後にいた山賊も、後ろでひざまずいたようだった。


 彼らがこうべを垂れている、椅子に座った男。


 長い金髪を垂らしている、若い男。


「ロス・アラモス殿。お初にお目にかかる。サッカレー王国王子、サッカリー・ウィルディアです」


 今さっきまで四十路の男だったワイルド氏が、20代の男に若返っていた。


「見た? ロス。私のこの完璧な魔法! 私のこと好きになってもいいのよ」

「これはどういうことだ」

「エルフ一族に伝わる《交換》の魔法よ。人間の顔を入れ替えるの。入れ替えの元になる顔は、死んだ人じゃないとダメだけどね」


 エルフがすぐさま俺の眼前に戻ってきてそう言う。


「ま、まさかあなた様がサッカリー王子殿下であらせられたとは! 知らぬこととはいえご無礼を!」

「ま、まことに申し訳……」

「よい。そのことよりドリアス団長。先ほどの不埒な振る舞いはいったいどういうつもりだ。元は騎士団長だったほどの者が、国民に対して略奪を働くなど……!」

「は、それは……」


 リーダー……ドリアスは言いよどんでいた。

 エルフの顔を左に避け前方を覗き見る。

 ドリアスがひざまずいたまま、俺とエルフの方に顔を向けているのが見えた。。

 すぐさま、さっとエルフの顔が現れる。

 右に避ける。

 さっとエルフの顔が現れる。


「少しいいか?」

「何かしら?」

「君には言ってない。ミスタ・ワイルド……いやプリンス・サッカリー。我々がいると話しづらいことのようだから、席を外したいと思うのだが、ラリアを返してくれないか?」


 ドリアスは明らかに俺たちを意識していた。部外者に聞かれたくないような話をしたがっていた。

 しかしキリーが言った。


「お待ちくだされ! 殿下、ロス殿にも我らの窮状、お聞き届けになっていただくべきでござる!」

「キリー!」ドリアスが言った。「何を言っているのだ、見ず知らずの者たちだぞ! 我々の置かれた状況をわかっているのか!」

「なればこそ! なればこそ我らには、ロス殿のお力が必要なのです! このキリー・マーダレアル、ゆえにこそロス・アラモス殿に近づいたのでござる!」


 俺はエルフの肩越しにキリーを見る。エルフ妨害する。俺エルフ押しのける。俺は言った。


「近づいた? 近づいたとは? 君と俺は偶然に会った……」

「ロス殿。ロス殿も地下牢で気づかれたはず。あそこにいたのは、賞金稼ぎギルドの近くで会ったゴロツキだと」


 キリーは俺を見つめて言った。


「お気づきのことでしょうが……あの者たちは拙者の仲間にござる。サッカレー王国諜報部隊。拙者もその一員でござる」






《ザ・サバイバーのスキルが発動しました》


 砦の3階。

 先ほどいた部屋とは別室。

 俺は皿をテーブルに置いた。


「いただきまーす!」


 ラリアが干し肉にかぶりつく様を眺めながら、テーブルの反対側に目をやる。

 そこにはキリーが座り、うつむいていた。

 テーブルの右にラリア。左側にはエルフ……これは置いておこう。


「それで……? きちんとわかるように説明してくれるんだろうな」

「ええもちろんよロス。つまり私とあなたはこれから最高のハーレムを」

「君は口を閉じていた方が魅力的だ」

(わかったわ。ロス)


 エルフが息だけでそう言ったのを無視しつつ、キリーの言葉を待つ。やがて彼女は話し始めた。


「拙者が探していた、カスパールなる人物。兄ではござらぬ。先ほどお会いした、サッカリー王子殿下のことだったでござる」


 俺は無言でキリーの顔を見つめる。

 キリーの話はそこで途切れ、隣にいるエルフをちらちらと窺っていた。

 

 この話はおそらく只事ではないということが、すでに俺にも推察され始めていた。

 1つの国の王位継承者が、顔も名前も変えて田舎の村に身を隠し、仮にも騎士団長とその部下だったらしき人々と諜報部隊とかいう者たちが、砦にこもって山賊行為を働いているのだ。


 その真相を話そうという時に、同席しているこのエルフ。俺はため息をついて、


「やはりまずは君だ。君はこの話にどう絡んでいるんだろう? 余計な言葉遊びはやめて誠実に、シンプルに話してくれ。まずはそこからだ」


 また何かややこしいことを言いはしないかと思っていたが、金の髪の少女はシンプルに言った。


「私もよくわからないわ。最近サッカレーをぶらぶら歩いてたら、あの若い男が話しかけてきたのよ。エルフの秘術に顔や年齢を変える術があると聞いた、それを自分にかけてくれって。謝礼を払うって言ったから、ちょちょいとかけてあげたの。それからどうなったのかは知らないし、興味もない。以上」


 エルフはそれだけ言って、コップの飲み物に口をつけた。


「最近……それは2年ほど前の話ではなかったでござるか?」

「それは最近っていうのよ」

「あ……エルフは寿命が長いのでござったな」


 エルフはコップを置いてテーブルに肘をつき、両手の指を組む。その手の甲に顎を置いて、ニヤニヤとニヤつきながら俺の顔を眺める作業に戻った。

 本当に話はそれだけのようだ。

 どうも自分が魔法をかけた男が何者かも知らないし、なぜかを知る気もないらしい。


「ありがとう。それではキリー。君の番だ」

「あの、エルフ殿。それにロス殿も……拙者がこれから話すことは、どうか内密に……」

「いいだろう。君も約束するよな?」

「ロスがしろって言うなら何でもしてあげる」


 キリーは少しエルフのことを胡散臭げな目で見ていたが、やがて話し始めた。




 


 


 


 


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