第340話 召喚! スコーピオン人間!
そのとき爆発音がした。
下層からだった。音は何度か聞こえ、床が揺れた。
魔女はちらりと床を見て、
「さて……あなたたちが知りたいだろうことはもう答えたわ……そろそろ話をやめたいのだけれど……」
この爆発音、さっきも聞こえた音だった。
何者かが下で争っているのだろうか?
魔王が言った。
「待て魔女よ! つまり日本にいた君、純子は、ヴァルハライザーが自分たちのものだから、我輩から奪っていったということか⁉︎」
「ええ……あなたは最初のヴァルハライザーであるゼロ……つまりこの世界が入っているヴァルハライザーを、新しく造る大きな人工脳に統合しようとしていた……」
「それの何が問題だ」
「もしそうなれば……このゼロの自我が新しいヴァルハライザーに飲み込まれ、消滅してしまうかもしれない……」
アレクシスが口を挟む。
「となると、この異世界の人々の魂、情報は……」
「…………かき消えるかもしれない……わね……」
「だからゼロを奪った……?」
アレクシスは顎を指でつまんでうつむき、黙り込んだ。
そういうことであれば、日本にいる純子なる魔女の化身がやったことは、異空間のヒューマン全てを守るための行為であり、正当防衛と言えなくもない。
だが、俺には何か、釈然としない気持ちがあった、
ここで唐突にカロリアンが叫んだ。
「みなさん、騙されちゃあダメですよッ! こいつがヴァルハライザーを奪ったのはそういう目的じゃないんだ!」
俺たちはカロリアンを振り向いた、
「みなさん忘れたんですか!? こいつはヌルチートを使って、みなさんを捕らえようとした。この世界に閉じ込めようとしてたんです! 別宇宙のヒューマンを存続させることと、みなさんを捕まえることと何か関係があると思いますか!? こいつの企みは別にある!」
パンジャンドラムが「企みってなによ?」と尋ねたが、俺は頭に浮かんだものがありカロリアンのかわりに言った。
「魔女のために働いていた少女たち……」
頭上を見上げつつ、
「アップルやロザミアが言っていた。いずれは地球の人々も、この異世界にくることになると。よそのヒューマンを守るためにゼロを奪ったのはまだわかるが、こっちの人間とは何の関係もない……」
そう言って、視線を魔女に戻した。
陶器のように白い肌の女。露出の多い服を着たその女に俺は尋ねた。
「まだ何かあるのか? それに、この異世界の中にあるヴァルハライザーも奪って、ここに持ち込んだ。俺たちの妨害もしながら。何を企んでいる」
もう一度、爆発音。
魔女は言った。
「それはもう知る必要はないわ。あなたたちは、ずっとこの世界で、幸福のまま生きる……何も心配することはないの…………」
すると魔女は、どこからともなく短い杖を取り出すと、頭上に掲げた。
「私は最後の仕上げをしなければならない……」
カロリアンが叫んだ。
「みなさん、ヴァルハライザーを取り戻して! あれがあれば、この世界から『ログアウト』できる!」
「そうはさせないわよ……!」
魔女の杖が振り下ろされた。
彼女のすぐ目の前の床に、一列に並んだ五つの青色の、光のサークルが発生した。
光は筒のように空間に伸びた。その中に、何か人影のようなものが見える。
やがて光は消え、中から新たな虫人間が現れた。
鋭い顎のついた虫の頭に、シルエットだけは人間のような胴体で二足歩行。だが両手の先には大きなハサミがつき、長い尻尾を持っている。その尻尾の先には、尖った針を一本備えた、球体があった。
サソリのようだった。
そいつが、五体。
「本来であれば……あのエルフの女に会わなければならなかった……それが、転生者と共にブラックエッグまでやってきたのは好都合だったけれど……そうは言ってもエルフとあなたたちに共闘されても厄介……先にあなたたちを捕まえるわ」
サソリ人間が一歩前に踏み出した。
転生者たち、それにホッグスも身構えた。
ラリアもちょうどよく目を覚ました。
俺は言った。
「俺たち転生者が10人。スピットファイアもいるし、ホッグス少佐とラリアもいる。カロリアンも。虫が5匹でどうこうなるとも思えないが。詰めを誤ったか、魔女」
魔女は視線を逸らして言った。
「どうかしら……」
虫人間が走り出した。
尻尾を掲げ、俺たちへ向けて殺到する。
《パウンドフォーパウンドのスキルを発動しました》
俺めがけて突っ込んできた1匹に、踏み込みと共に右クロスをお見舞いする。
《ミニドラゴン・スコーピオンはドラゴンウォールのスキルを発動しています》




