第338話 ヴァルハライザーの秘密
「ヴァルハライザー……そんなところに……⁉︎」
「おお脳みそ!!! やっと見つかったど!」
アレクシスとスピットファイアがそれぞれ言った。
今、俺たちの頭上に、巨大な脳みそヴァルハライザーが鎮座していた。
「やはりあんたが盗んでいたんだな……純子!」
俺がそう言うと、魔女はやや眉をひそめるようにした。
「もう1度言うけれど……純子は偽名よ……あまりそこに着目しないように……ここでの私は魔女、ジェイデル・イノシャ……」
そのとき、小さく呟くような声が聞こえた。
「……おまえの名前に意味があるとは思えませんがね……」
カロリアンの声だった。
その声は、あまりに小さかったためか俺にしか聞こえていなかったようで、構わずに今度は魔王が言った。
「純……失礼、魔女よ。君はいったい何者なのだ? 君は日本にもいて、ヴァルハライザーを守ろうとしたり盗もうとしてみたり……何が目的なのだ?」
魔女は囁くように、
「真の幸福……」
「その真の幸福とやらは何なのだ! 君が魔界に遣わしたロザミアも同じことを繰り返していた。転生者に異性をくっつけることか? それがいったい何になる!」
少しばかり首をかしげるようにして、魔女は床を見ていた。
顔の向きはそのまま、目だけを魔王に向ける。
「……そうね。かいつまんで言えば……理想の人生と、魂の平穏……かしら」
魔王はアレクシスと顔を見合わせた。
スピットファイアが言った。
「おうこら! それが僕らのヴァルハライザーを盗んだことと、なンの関係があるンじゃいッ! 他人のものに触っちゃあいかンってのは基本じゃーッ!」
魔女は再び視線を床に向けた。
そのまま親指で上を指した。
「スピットファイア……ヴァルハライザーの世界への来訪者の、ナビゲーター……水先案内人……あなたは、あのヴァルハライザーが何のためのものか、知っているの……?」
「当たり前じゃいッ! 人生に疲れた社畜や学校で友だちもできねーぼっちの負け犬を慰めるための、面白おかしい素敵ワールドを提供するためのものよ!」
アレクシスが口を挟んだ。
「それはあくまでも計画のひとつ……というか、製作者の火奈太君が、いずれそういうこともやりたいと言ってただけで。今のところは超高度な処理能力を持つ次世代のスーパーコンピューターということで……」
魔女が尋ねた。
「……それだけ?」
「えっ……? ま、まぁそれだけではなく、生物の完全なデータをヴァルハライザー内の仮想現実空間に再現することにより、例えば死んだあとでも個人としての……」
「個人を続行できる……個人を」
「そ、そうですが……」
「死したあとでも」
「え、ええ……」
魔女はそれから少し黙り込んだ。
アレクシスは二の句が継げないようで、魔王の方をチラチラと見ている。
「そういえばアレックス様……」
魔女はアレクシスの諱を呼びつつ再び口を開く。
「あなたはさっきたしか……皇帝がどうのと言っていたわね……? あなたのご両親の魂も云々、と」
「え、ええそうです! 協力してくれているエルフさんがおっしゃるには、あなたが魂を盗んだと!」
アールフォーさんも言った。
「グスタフさんの魂も! あなたが、さっき盗んでいった! ど、どこにやったんですか、か、返してください!」
「その人たちの魂なら……そこにあるわ……」
魔女の指はまだ上を差している。
「ヴァルハライザーに?」
「そう……そういう装置だから……」
「ヴァルハライザーは」スピットファイアが言った。「ンプクの全データが入っとる。それを操作して皇帝たちを元のモブに書き換えたっちゅーことかいやッ!」
だが魔女は不思議そうな顔をした。
「……書き換える?」
「おうよ! 僕の中の人、吐院火奈太が用意したノンプレイヤーキャラクター、略してンプクの思考パターンを変えたンじゃろーッ!」
スピットファイアを見つつ首をかしげた魔女。
次に彼女はカロリアンを見やった。
カロリアンは俺の背中に隠れている。そこからヒョコヒョコと顔を出したり引っ込めたりしていた。
「……ノンプレイヤーキャラクター? カロリアン、どうも話が噛み合っていないようね」
「当たり前でしょ。この人たちは知らないんだ」
カロリアンは背中から顔を出した。
「自分たちが出会ってきた全ての人々が、作り物のゲームキャラクターだと思ってる。おまえに盗まれたのがゲームのデータだと思ってるのさ。仕方のないことだ」
俺は振り返った。
「待て。どういうことなんだろう? 何の話をしてる?」
「おにいさん、もうゲームのキャラクターじゃない。ガワがそうだとしても、中身は違うんですよ」
「何だと?」
「いいですか、おにいさん。この世界は、もうあなたの前世の世界の人の物じゃない……魔女に乗っ取られたんです」
カロリアンは、俺の背中から顔を出したまま、魔女に言った。
「この人たちは、せっかくここまできてくれたんだ。話してやってもいいんじゃないか?」
魔女は目の動きだけで俺たちを眺め回す。
小さくため息をつき、
「そうね……」
と呟いてから。
「あなたたちは……この世界の、神話を知っているかしら……」
エクストリーム・エルフとヒューマンの戦いのことだろうか。戦争の果てに天地が崩壊し、魔女はヒューマンたちをブラックエッグに避難させた……。
「いいわ……話してあげましょう……世界の崩壊は、けして神話ではなく……ヴァルハライザーの中で起こった絵空事でもない。聞きなさいスピットファイア……魔王、アレックス様。そして転生者たち。いかにしてできたのか。このブラックエッグと……ヴァルハライザーが」




