第330話 老いては子に従え
グスタフは空中を歩くスキルにより、橋から離れていく。
「どうする、ロス⁉︎」
ホッグスが尋ねてきた。
さあ、どうしようか?
こういう時、唐突に空から隕石でも降ってきて、運よくグスタフの頭にでも当たってくれれば苦労もないのだが。
ヌルチートが見ているのはアールフォーさんのようだ。であれば俺が何かアクションを起こす必要がある。
俺のライフルはテラスに置いてきてしまった。ホッグスから借りて射撃のスキルで撃墜するか?
だが今のグスタフの手にはアレクシスがいる。もし盾にでも使われたら……。
グスタフのそばに蜂人間が1匹、飛んできた。
グスタフはその蜂にアレクシスを渡してしまった。
手がふさがっていては弓を射ることはできない。そういうことだろうか?
俺は言った。
「少佐、ライフルを貸してくれ。ヌルチートだけを狙ってみる」
「うむ……」
背中のホッグスがライフルを手渡そうとした。
それと先ほどまでこちらに顔を向けていたグスタフが方向転換して走り出したのは同時だった。
「むっ? あいつどこへいくのである……」
「あっ!」
アールフォーさんが叫んだ。
「頼太さんっ!」
グスタフが向かったのはトンプソンの磔台だった。
今度こそ殺る気か?
「少佐、早くライフルを!」
後ろから突き出されたライフルを掴もうとして……。
しかし気づいた。
橋はすでに蜂人間に取り囲まれていた。
その手に握られたクロスボウから、いっせいに矢が放たれた。
「ちっ」
《パウンドフォーパウンドのスキルを発動しました》
ライフルはいったん忘れて、矢を拳で打ち払う。
《クーコ少佐はフォックスファイアウォールのスキルを発動しています》
ホッグスにより橋の両サイドが遮断された。
楽にはなった。しかしまだ橋の前後、そして頭上がある。
《不正な妨害が行なわれています。スキルを発動できません》
またしてもだった。グスタフのヌルチートは素早く俺の風人形に視線を移したらしい。
拳がブレる。
矢が目の前に……。
「危ないッ!」
背後から突然ホッグスが飛び出した。
彼女は背負っていた魔力供給獣のタンクを盾にして、矢から俺を守った。
だが。
「うっ……!」
彼女が防げたのは2、3本だけだった。防ぎそこねた矢がホッグスの背中に当たり、ポヨンと跳ね返っていた。
《パウンドフォーパウンドのスキルを発動しました》
どういうわけかヌルチートの視線が外れた。再び矢の雨を防ぐ。
ホッグスを見やった。蜂人間のクロスボウの矢じりは刃物ではない、非致死性のものだ。そのためホッグスは怪我はしていないようだった。だが床にうつ伏せになり、動いてはいない。
矢の攻撃は激しかった。息付く暇もない。俺はできるだけアールフォーさんとホッグスのそばに寄ることで2人を守ろうとした。しかしキリがない。
《ハードボイル》を使って蜂を片付けるアイディアが浮かんだがそれも無理だった。
ホッグスが倒れたことで、《フォックスファイアウォール》が解除されてしまったのだ。今や360度からの攻撃を、俺ひとりで捌いているのだ。
グスタフはどんどんトンプソンの方に向かっていく。
どうするロス・アラモス。蜂人間が矢を全部打ち切るまで続けるか? 他に何のアイディアもない。たった1匹のヌルチートにここまで手こずるとは。隕石はまだか?
「……な……何ですか? 少佐さん……」
アールフォーさんの声だ。
横目に見やると、彼女は床に伏せてホッグスを抱き寄せている。
そのホッグスが、アールフォーさんの服を掴んで、震える指で何かを差していた。
魔力供給獣の白いタンクだった。
ホッグスの、先ほど落としたもの。
盾に使ったが非致死性の矢のためタンクは無傷。
ホッグスが言った。
「むぁ……まほぉ……まほ、お、ちゅか………………」
呂律が回っていない。
だがその時……このブラックエッグに飛び立つ前、ハルとアリスが会話していたことが突然、思い出された。
あのふたりがたしか、言っていた……。
俺は叫んだ。
「アールフォーさん、そのタンクを持って魔法を使え!」
「えっえっ⁉︎」
「そのタンクは魔力を補給してくれるんだ、ライフル以外にも使える! 早く!」
アールフォーさんがタンクを振り向いた。一瞬の間があって、タンクに飛びつく。
《アールフォーさんは魔法を使っています。ウィンドブロウ》
直後強い風が吹き、飛来する矢がなぎ払われた。




