第329話 疾走せよ! ロス・アラモス!
11月です。かろうじて。
グスタフ、もう隕石秒読みかもしれない……。
虫人間たちが俺の背後からクロスボウの矢を連射してきていた。
俺はそれを掴み取ると、取ったそばからグスタフへ投げつける。
グスタフは風の魔法でそれを逸らし、防いでいた。
《グスタフはエルフ流弓術Lv6のスキルを発動しています》
さらに奴自身も弓による攻撃を仕掛けてくる。
俺にとってそれは脅威ではなく、簡単に打ち払うことは、できていたが……。
グスタフがアールフォーさんの腕を掴んだ。
アールフォーさんは今、橋から落下しかけているアレクシスのズボンのベルトを掴んでいる。
グスタフは、お構いなしに彼女を引っ張り、どうも向こうの黒い塔へ、いきたいらしかった。
ホッグス少佐が言った。
「ロス、矢に集中しろ。私がブチ抜く!」
俺の背中で、ホッグスが魔法銃を構える音がした。
俺は訊いた。
「殺すのか?」
彼女は言った。
「強いてそうするつもりはないが、聞けばアールフォー殿、生まれてから20年ほどしか経っておらんそうではないか。エルフの寿命からいってアールフォー殿は、ヒューマンでいえば赤ん坊か、幼女のはず……そんな子供に手を出すなど放置できんことである! 死ぬか生きるかは当たり所に任せよう」
正義の軍人クーコ・ホッグス少佐はそう判決を下した。
たしかに言われてみれば、グスタフは、とんでもないド外道のような気がしてきた。仮にそうではないとしても、この際だ、そういうことにしておこう。とにかく時間が惜しい。そうさロス・アラモス、心を強く持て、奴はペドフィリアなんだ。グスタフは悪いヤツなのさ。
「死ねっぺドタフ!!!」
当たり所に任せると言ったはずのホッグスの魔法弾は、殺意100%で発射された。一瞬だけ、そもそもホッグス少佐はこのディフォルメ形態でも夜の行為は行なえるのだろうかという雑念が頭によぎる。だとすればその場合、いずれ俺もぺドモスに……?
とにかくホッグスの魔法の弾丸(散弾だった)がペドタ……グスタフを襲う。
グスタフは躱した。正確に言えばアールフォーさんの陰に隠れた。その位置はホッグスが射線に入れなかったのだ。
《ぺドタフはカーブアローのスキルを発動しています》
グスタフは俺から見て右上の方へ矢を放った。
そんなことをしてどうするのかと思っているうち、矢は飛ぶコースを変えた。
橋の下へと潜っていった。
次には橋の左側から現れ、俺に迫る。
俺にとってそれは子供だましのサーカス芸だった。背後からは、まだだクロスボウの攻撃はあったが、それを含めても物の数には入らない攻撃だ。
《不正な妨害が行なわれています》
グスタフのヌルチートが視線を俺へと向けたらしい。急に体が重くなった。このままでは矢の雨を躱すことは……。
「しゃらくさいわ!」
《クーコ少佐はフォックスファイアウォールのスキルを発動しています》
突如、橋の左側の手すりに炎の壁が現れた。
グスタフの矢は壁に阻まれ燃え尽きる。
そういえばガスンバでホッグスにこのスキルを使われ、たいそう手こずったことがあったのだった。
俺は言った。
「……どうしてさっきのテラスでそれを使ってくれなかったんだろう」
「ロス、そのまま走れ! 私が撃つ!」
女の尻に隠れたグスタフ。眼前に迫っていた。
今の俺はヌルチートにスキルを封じられている。エルフの戦士グスタフにこのまま接近して、何かミスをしなければいいが。
《アールフォーさんはザ・マッスルのスキルを発動しています》
アールフォーさんの方では自分へのマークが外れたことを悟ったらしい。宙吊りになったアレクシスを引きずり上げようとした。
しかし……。
《不正な妨害が行なわれています。アールフォーさんはスキルを発動できません》
《ウルトラスプリントのスキルを発動しました》
「きゃっ!」
再びアールフォーさんがアレクシスの重みでバランスを崩す。同時に俺のスキルが再発動。
グスタフの悪手に思えた。俺はもう十分に接近していた。あとはもう、俺のスキルで、未成年に不埒な振る舞いをするグスタフにお灸をすえるだけ。
《パウンドフォーパウンドのスキルを発動しました》
俺は右拳を構えた。
クロスを打ち込む……。
だがグスタフが橋から飛び降りた。
また空中を歩くスキルか、そう思った時。
「グ、グスタフさん、だめ……!」
アールフォーさんの声。
《クーコ少佐はフォックスファイアウォールを解除》
手すりの向こうを覗き込んだ。
グスタフは、アレクシスの背中の服を掴んでぶら下がっていた。
アールフォーさんもまた、その重量で落下しそうになっている。
《ザ・マッスルのスキルを発動しました》
俺はアールフォーさんの腰に後ろから抱きついた。バックドロップのような体勢だ。そのままアレクシスとグスタフを、アールフォーさんごと持ち上げようとした。
「ああっ……!」
再び悲鳴をあげたアールフォーさんの体が急に軽くなった。
「アレクシスさんが……!」
反動のあまり俺とアールフォーさんは手すりの反対側に吹っ飛んでしまう。
そのアールフォーさんは、手ぶらだった。
アレクシスがいない。
急いで体勢を立て直し橋の下を覗く。
風のスキルで空中に立つグスタフ。
アレクシスはその腕の中でぐったりしていた。




