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第327話 風の人形


「ぐわーーーーーーーッ!」

「ああ、やめてぇ!」


 グスタフの絶叫とアールフォーさんの悲鳴が響いた。


 グスタフは痙攣していた。白目を剥き、口から泡を吹いている。


「何をするんですか!」

「アールフォー……あなたを……愛させる……けれどそれをやるにはグスタフでは無理なのよ……グスタフのままでは……」


 射撃の必要があった。俺だけではなくホッグスもアレクシスもそう思っていただろう。だが吊り橋に立つ魔女の前にはグスタフがいて、魔女の姿はほとんど隠れている。


「お願い、やめて! 苦しそうよ!」

「ではグスタフと共に暮らす……? この異世界でずっと……」


 アールフォーは二の句を継げないようだった。テラスの手すりに両手を置いたまま固まっている。

 魔女は言った。


「……そういうことよね。あなたは……グスタフを愛せない……」


 そして、水を払うように杖をひと振り。


「……グスタフを苦しめたのはあなたよ、アールフォー」


 こちらに背を向けたようだった。吊り橋を歩き黒い塔へ向かっていく。

 俺は言った。


「待て! どこへいく!」

「グスタフに……任せるわ……あなたたちにかかりきりになるわけにもいかないの……まだエクストリーム・エルフが……」


 魔女は歩みを止めない。


 アールフォーさんが吊り橋へ走り出した。

 グスタフは痙攣をやめ、吊り橋の手すりにぐったりともたれかかっていた。それに駆け寄ろうというのだろう。


「アールフォーさん待って!」


 アレクシスもアールフォーさんの後を追った。


 ホッグスがディフォルメ化して俺の背のタンクに跳び乗る。


「いつでも投げられるよう準備しとくのである」

「ああ……」


 俺も吊り橋を渡り魔女を追いたかったが周囲にはまだ虫がいる。攻撃はしてこないが油断はできない。


 何よりグスタフだ。

 魔女は先ほど、グスタフが役に立たないから魂を返却してもらうと言っていた。

 皇帝やアレクシスの両親のように魂を奪ったということだろうか? そうした場合グスタフは抜け殻になるのだろうか。


 だがそうなると、グスタフは完全に役立たずになるのではないか。グスタフに任せると言った言葉と辻褄が合わない。


 グスタフに駆け寄るアールフォーさんと、それを追うアレクシス。それをひと息に跳び越えて魔女を追いたかった。俺は横目に磔台を見やる。それよりトンプソンを助けるのが先だ。


 宙にいる蜂人間、これを先に一掃する必要がある。

 アールフォーさんの固有スキルも使い、蜂どもを……。


「グスタフさん、しっかりして! 冗談はよして!」

「アールフォーさん下がって! グスタフさんはもう……!」


 ちょっと目を離していた隙に吊り橋で揉め事が起こったらしい。

 視線を戻してみると、アレクシスがアールフォーさんの腕を引っ張り吊り橋から下がらせようとしている。


 グスタフは吊り橋に立っていた。

 痙攣も止まっていたし、白目も剥いていない。

 正常な状態で立っている。


 奴は言った。


「アールフォー、好きだ」

「グスタフさ……」

「アールフォー、君は美しい」

「ねえ、あの……」

「お肌すべすべ」

「や、やめてよ……」

「アールフォー、君は美しい」


 アレクシスが振り返って俺を見ていた。苦渋の色が顔に出ている。

 俺は言った。


「アレクシス、トンプソンが先だ! スキルで蜂を片付けろ!」

「グスタフさんはどうするんですか!」

「ヌルチートだけ取り上げろ!」


 俺は左拳に《ハードボイル》の光を宿らせた。

 右手はホッグスを、万が一投げるはめになった時のため残しておく。


 アレクシスがグスタフに手を伸ばそうとした。

 だが。


「あっ⁉︎」


 グスタフは吊り橋から飛び降りた。

 またもや風の足場を作り、空中に逃げる。


《アレクシスはピンホールショットのスキルを発動しています》


 グスタフはアレクシスたちに背中を向けて、トンプソンの磔台の方へ走っていた。アレクシスはその背中に魔法弾を撃ち込みたいようだった。


 だがグスタフが振り向きざま、手にした弓から矢を発射。


《グスタフはエルフ流弓術Lv6のスキルを発動しています》


「うっ!」


 アレクシスは吊り橋に伏せて躱した。

 グスタフはさらに何本もの矢をアレクシスに向けて射かけている。


《アールフォーさんはスペルレスのスキルを発動。ウィンドブロウ》


 魔法の風が吹きグスタフの矢は逸れていく。


「グスタフさんやめて、戻ってきて!」


 アールフォーさんの叫び。アレクシスが跳ね起きた。膝立ちの姿勢となって魔法銃を構える。微動だにもしない機械のごとき構えでピタリと静止。


《不正な妨害が行なわれています。アレクシスはスキルを発動できません》


 その銃口がぐらついた。


 俺は言った。


「いくぞ、少佐!」

「よし!」


《ツープラトンのスキルが発動しました》


《クーコ少佐は色即是空(ディリュージョン)を発動しています》


 ホッグスを投擲。彼女は空中でくるくると回りながら炎をまとう。


 この状態になれば、炎の光を見た敵は思考力を奪われ棒立ちになる。グスタフを一時的に無力化できるはずだ。あわよくば周囲の虫もそうできるかも知れないが、そうならないならならないで自力で片付ければいい。


《ハードボイルを発動しました》


 俺は右側の空中にいた蜂を薙ぎ払い、それからそちら側の手すりに走り寄った。


 グスタフはホッグスを見て立ち止まっている。俺の位置からは、奴の肩からのぞいたヌルチートの頭が見える。魔法銃で狙える位置だった。


《ピンホールショ》


《不正な妨害が行なわれています。スキルを発動できません》


「何だと……?」


 銃口がぐらつく。狙いが定まらない。

 グスタフはまだホッグスに顔を向けている。ホッグスのスキルが効いているはずだった。だがヌルチートの赤い瞳は俺を見ているのだ。


「アラモスさん、危ないッ!」


 アレクシスの声。

 テラスの外の空中にいつの間にか蜂人間が数匹集まっていた。奴らの手にはクロスボウ。


「ちっ!」


 格闘スキルで防御……もできなかった。発射された矢。俺は床をゴロゴロと転がった。ロス・アラモス、なんと運のいい男だろう、1発たりともかすりもしなかった。


「バカな……少佐、スキルはちゃんと発動できているのか⁉︎」

「やっとるのである! おかしい……⁉︎」


《アレクシスはピンホール》


《不正な妨害が以下割愛》


 ヌルチートの顔が急速にアレクシスに向く。

 彼女もやはり撃てなかった。弓によるグスタフの反撃を慌てたように転がりながら躱している。


 何かがおかしかった。


 グスタフはホッグスの方に体を向けていたのだ。

 顔もだ。あの光を見た者は行動を停止するはずだった。ヌルチートも。

 だが俺たちはなぜかグスタフに認識されていたし、スキルも使えない。


 ホッグスが回転をやめた。床に着地し言った。


「こやつ……目をつぶっとるのである!」


 ホッグスの言うとおりだった。

 空中に立つグスタフはまぶたを閉じていた。たしかにこれなら炎は見えず、惑わされることはないかも知れない。


 だがアレクシスが叫ぶ。


「そんなバカな⁉︎ どうやって弓矢で狙ってるっていうんですか⁉︎」


 言った直後またグスタフの矢がアレクシスを襲う。彼女は逃げるために吊り橋の向こうへと転がっていく。アールフォーさんとも分断されていた。


 グスタフの意図はそういうところにあるのか? ふたりの距離を離すためにいい加減に射ってわざと外しているのか? それとも目をつぶっているから当たらないのか?


 それにしては正確すぎた。明らかにアレクシスのいる方向に矢を放っている。アレクシスが逃げれば、逃げた方向に調整してすらいる。


《グスタフはウィンドセンサーのスキルを発動しています》


 アールフォーさんが言った。


「そ、そうか……! 風です! 風の流れで標的の位置を探るスキルです!」


 同じエルフ同士、よく知っているのだろうか。要は《ウェイブスキャナー》のように、放った風の反射か何かで周囲の立体を把握しているということか。


 だがグスタフはそれでいいとしてなぜヌルチートは見える? いや、見えるならホッグスの《色即是空(ディリュージョン)》に掛かるはずなのだ。


 ヌルチートの赤い瞳は開いているし、それはアレクシスを追っている。

 その疑問にも《スキルアナライザー》が答えてくれないものかと考えていたが、


《グスタフはウィンドセンサー・ジオラマパーセプションのスキルを発動しています》


 俺はアールフォーさんの方を見た。


「あれは……エルフ族に伝わる、少数のエルフにしか使えないと言われる《ジオラマパーセプション》⁉︎ 風の流れを目の前で再現することで、周囲の情報をまるで模型を眺めるように認識できるって言われている、ウィンドセンサー最上級スキル……!」


 俺はもう1度ヌルチートを見た。


 ヤモリの顔の前にやや黒い空気が漂っている。

 どうやら炎上したトラックの火炎瓶、その黒い煙が混じっているようだった。


 黒い煙が、小さな立体の図形の形を取っている。

 それはたしかに、テラスの尖塔と吊り橋、そして4人の人物のように見えなくもない。


 その4人とは、俺、ホッグス、アレクシス、そしてアールフォーさんということか?


「み、見てないんですロスさん! ヌルチートはホッグスさんを見てません! ジオラマの私たちを見てる!」


 そんなことが可能なのか?

 ヌルチートは今まで俺たちを確実に視認しなければスキル封じを行なえなかった。

 ナヤートの時がそうだった。ナヤートは周囲のスキルを吸収することで自分の姿を視認させないようにできるスキルを持っている。あの時は、ヌルチートはナヤートがどこにいるか知っていたのに姿が見えないというだけでスキルを封じられなかった。


 今、ヌルチートが見ているのは俺たちではなく、風で再現された幻影だ。本人を見ていないのに封じることなど……。


 ふと。


 吊り橋を立ち去っていく魔女の姿が視界の端に映った。


 奴はもう黒い塔の入り口辺りまでいってしまっていたが、それが立ち止まってこちらを振り返っている。





《グスタフはヌルチートとツープラトンのスキルを発動しています》


《ヴァルハライザーに対する不正なアクセスを感知》


《魔女の魔術がヌルチートに影響を与えています。呪いの藁人形》


《あなたの情報がグスタフのジオラマパーセプションに不正に再現されています》





 情報? ヴァルハライザーの……?


 アレクシスが叫んだ。


「アラモスさん! あのジオラマの人形、私たちです! ヴァルハライザー内の私たちの個人情報が使われている! あの煙の人形を見るということは……!」


 俺たち自身を見ているということか?


 吊り橋の魔女はもう俺たちの方を向くのはやめ、黒い塔の中へ入っていった。



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― 新着の感想 ―
[一言] ヌルチートとツープラトン、ヤバい。
[気になる点] やっぱりクーコさんとのツープラトンでも問題発生するロっさん……。 そしてついに敵がツープラトン! [一言] アホの子グスタフは死んだのだ……。
[良い点]  有能になったグスタフ。 心ないグスタフ。橋の上で生まれ変わった。魂を取られて。スキルを使う。まぶたを下ろして。 お調子者が魔女に操られて的確激強になるあざとい展開。  ヌルチートを補助…
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