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第319話 ビッグノイズ


「他のみなさんはどうなったんでしょう? 魔王さんやマジノさんは……」

「むむむ……おそらく大丈夫だとは思うのでありますが……エルフ殿も一緒であったことですし……」


 アレクシスとホッグスが話している間、俺は空中庭園の縁から下を見下ろしてみた。

 やめておけばよかった。空中庭園は3階屋上にあるようでかなり高く、はるか下の地面を見ると両足におぞけが走った。見下ろせる範囲の壁には窓がなく平坦。


 それ以上覗くのをやめて庭園の真ん中にある噴水の方へ歩いた。


「エルフはどうかはわからん。魔王たちとは一緒じゃないかもな」

「どうしてですか?」

「ロスよ、転移魔法で移動させられたのは我々だけである。室内にはエルフ殿もいたがここにはきていない。我々だけが引き離されたのでは」


 俺は城の壁に目をやった。出入り口がないか探しつつ、


「室内にいたのに彼女だけがいないんだぞ。それに……」

「何であるか」

「グスタフはエルフを待っていたと言っていた。魔女の目当てはあのエルフだと」

「むん……?」

「グスタフは、エルフを捕まえにきたんだ。そう言っていた」


 入り口はすぐに目にとまった。白い、両開きの扉がある。そちらへ大股歩きで向かう。

 アレクシスが小走りに追ってきているのは足音でわかった。


 俺は言った。


「ひょっとしたら……ひょっとしたらだが、エルフもまた全然別の場所に飛ばされているかも知れない。グスタフは待ち構えていたんだ。ヌルチート憑きの帝都民をいくら集めようがエルフを捕まえられるとは思えない。エルフをどうにかするつもりで罠を張っていたんなら、何かもうひとつぐらいギミックを用意していてもおかしくはない」


「何であるか」ホッグスが言った。「ギミックとは」


「さあな……もうひとつ転移魔法陣で別の場所にやるとか……力づくの類いじゃないかもな。グスタフはヒューマンのチンピラに殴られて腰を抜かすような男だ、エルフの敵じゃない。魔女とグスタフがエルフの戦力を見誤るほど楽観的ならハルたちも無事だろうな。そっちに賭けたいが」


「どうしてでしょう?」アレクシスが言った。「たしかにグスタフさんはエルフさんが目当てだとは言ってましたが、魔女の目的は私たち転生者では? なぜあのエルフさんを……」


「知らんよそんなこと」


 ドアの取っ手を掴んでみたが、引いても押しても開かない。

 鍵がかかっているようだった。別に頑丈でもないただの木のドアのようなので、蹴破ろうかと思ったが……その前に振り返った。


「アレクシス」

「何ですか」

「大きな音を出してくれ」

「はあ?」

「さっき俺たちは1階にいた。だがいつの間にやら3階にいるんだ。もしハルたちが無事なら俺たちを探すはずだが、彼らは俺たちが階を移ったことを知らない。俺たちがだいたいこの辺りにいることを知らせる」


 アレクシスは、少し自分の衣服をあらためるように下を見てキョロキョロしていた。だがすぐに顔を上げて言った。


「えっと、どうやって? 魔法銃ですか?」


 俺はため息をつき、


「《ウェポンミュージアム》があるだろう。大砲の音でも何でもいい。何だったらあの無意味にBGMを流すスキルでもいい。音を出すんだ」


 アレクシスは納得したようにうなずきかけ……たと思いきや思い直したように眉を吊り上げた。


「アラモスさん、そんなことをすれば魔女にも私たちのいる場所を知らせるようなものですよ」


「アレクシス……口答えはやめろ。俺は急いでるんだ」


「な、何ですかその言い方!」


「ハルたちが無事ならいいが、そうでなければラリアも危険なんだ。ラリアは俺以外とではヌルチートを無効にするスキルが使えない。早く合流する必要がある」


「でもだからといって、やっぱり目立つのは危険です! 静かにいきましょう」


「そんなことして何になる」


「こっそり他の転生者を探すんです。ひとり救出するごとに戦力は増えていくんです、なのに無思慮にリスクを増やす必要はないでしょう」


「じゃ何か、君はラリアがどうなったっていいって言うんだな?」


「いや別にそんなことは、そう言う意味じゃ」


「そうだな、君にとってラリアは無学で無教養で身分も低い獣人だ。帝国に移民したら真っ先にアンダードッグ区に放り込んで蓋をしておきたいような輩だもんな」


「ちょ、何……」


「おまけにあいつのマスターときたら学歴は低く、収入も低く、おまけに……何だったかな? 無思慮? 無思慮な男だ。さらに言えばハゲを隠している卑怯者。ご身分の高い高学歴お貴族様からすればハゲの指図は聞けないってそう言いたいわけだな」


「な、な……」


 ホッグスがタンクから飛び降りた。

 ディフォルメを解除して美脚の美女に戻ると俺とアレクシスの間に割って入り、


「お、おいロス! 何をカッカしとるのであるか!」


 俺を押してアレクシスから距離を離そうとした。


「アレクシス様のおっしゃられることにも一理はあるであろうが! ヌルチートの数は多いが今は我々は3人しかいないのであるぞ! 私はラリア殿と違ってヌルチートと所持者を倒せるわけではない。慎重になりたいのも当然である。もっと落ち着け……」

「だがこの女は、」

「男です」

「このおとこおんなは君のような獣人をあんな掃き溜めみたいな街に押し込めて自分だけ優雅にワイン飲んでるような女だぞ」

「何の関係があるのであるか……」

「私はお酒は飲みませんけど……帝国ではお酒は20歳になってから」


 ホッグスは俺をアレクシスから十分に遠ざけた。


 そうして俺とアレクシスとの顔を交互に見やるとため息をついて、


「……アレクシス様。申し訳ありませんが、ここはロスの言うとおり音を出して知らせておきましょう。転移魔法陣を発動したのは敵側である以上、我々がここにいることは向こうも承知かと思われます。どこに送ったかわからないということはないでありましょうし……」


「まあそうですけど……」


「ここはひとつお聞き届け願えないでありましょうか?」


 アレクシスはしばらくチラチラとこちらを見ていたが、


「……まあ少佐がそうおっしゃるならいいですけど」


 承諾した。


 俺はタバコをポケットから取り出して口にくわえ、


「さすがは少佐。いい判断だ。よくわかっている」


 だがくわえたばかりのタバコをホッグスにもぎ取られた。


「こんな時にタバコはやめろ! これからここを移動するんだからしばらくは見つからん! という時に貴様がぷんぷん匂いをさせていたら簡単に気づかれてしまうであろうが! あとアレクシス様に突っかかるのはやめろ!」


 それからホッグスはアレクシスに向き直り音を出すよう頼んだ。


「……おふたりとも、耳を塞いでてくださいね」


 そう言いつつ自分も両耳に指を突っ込んでいる。俺とホッグスもそれにならった。


《アレクシスはウェポンミュージアムを発動しています》


 城の反対側、俺たちからやや離れたところの空間に波紋が浮かんだ。そこから戦車の砲身らしい筒が現れる。

 直後に轟音。空気を揺るがし、砲身が火を噴いた。俺たちの方にもかなりの衝撃波がきた。発射音は3発だった。


 撃ち終わったらしいので俺は指を外して言った。


「おい、そんないい加減に撃って浮遊リングに当たって城が落ちたらどうする気なんだろう?」

「空砲ですよ!」

「ロス、やめろと言っとろう!」


 ホッグスがもぎ取ったタバコを俺のポケットにねじ込み、


「早く扉を開けてくれ。蹴破れ」


 そう言った。


 以前ホッグス少佐と初めて会った時も、この運撃草でできたタバコの匂いをさせるのさせないのでモメていたような気がする。


 そんなことを考えつつ、睨むアレクシスの視線を無視して扉の前に立ち、勢いよく蹴破った。


 ホッグスが再びディフォルメ化して俺の背中に跳び乗る。


「少しはストレス発散になったであるか?」

「ヌルチートが出たら頼むぞ」


 城内に足を踏み入れる。

 幅が広めの廊下。無人で、静かだ。

 アレクシスが俺のそばをすり抜け、


「私が前をいきます。あなたがいきなり捕まりでもしたら少佐のスキルが使えませんからね」

「ドジ踏むなよ」

「そっちこそ!」


 頭の後ろでホッグスがまたため息をついた。それから扉から入って右の方向へ進むよう指示した。


 アレクシスはまた俺をひと睨みしてから、ホッグスの指示どおり歩き出す。


 ホッグスの方向感覚によればハルたちといたのはそちららしい。ちょっと外の空気を吸って浮遊リングを眺めただけでそれがわかるのだからさすがはホッグスだった。アレクシスのような箱入り娘とはさすがにものが違う。


 俺はそんなことを考えながらアレクシスの尻を追った。





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[気になる点] 今回ロっさんの様子がおかしいな。 未来の嫁とのベッドインを邪魔されたからか……!(違 [一言] ホッグスねーさんがロっさんを何とかなだめて動かす姿に、すでに嫁の貫禄を感じる……ッ! …
[良い点]  返された煙草。 ベトナム戦争時の密林で、アメリカ兵の煙草の臭いは大層分かりやすくベトナム兵にアメリカ兵の 位置を教えたとかいないとか。 取り上げた煙草をちゃんと返す真面目なホッグス少佐に…
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