第317話 第一転生者発見
突然だが俺はロス・アラモス。引きの強い男。
真ん中の通路の奥へと進み、豪華なシャンデリアやらソファやらで飾られた部屋にたどり着いた時。そこにナヤートがいた。
「おらおら、こういうのがいいんだろ⁉︎」
「いいわけないよ! あっちいって!!!」
ナヤートは壁際に追い詰められていた。部屋の中には3人のハンサムな若者がいて、うちひとりがナヤートに覆いかぶさるような形で壁に手をついていた。いわゆる壁ドン(誤用らしいが)というやつだった。
「おかしいな……こんな風にすると女子は喜ぶって聞いたんだけど……」
「よし、オレが変わる! オレがやってみる!」
「誰がやったって同じだよ! どいてよ、バカーっ!!」
男たちの服装はそれぞれバラバラ。ひとりは貴族風のコートを着ている。ひとりは特に変哲のないシャツと茶色のズボン。最後のひとりは屈強な体格にオーバーオール。
共通していることと言ったら背中にヌルチートがいるぐらい。俺は言った。
「やれやれ」
《ツープラトンのスキルを発動しました》
《カミカゼブーメラン‼︎》
特に挨拶は必要ないだろう。ラリアを男たちに投げ込むと、彼らはみな衣服を引き裂かれあられもない姿となって床に倒れ伏した。
「あっラリア……ロスさん! ハルさんっ!」
ラリアが俺の左腕に戻ってくるのと同じくするように、涙目のナヤートがこちらへ走ってくる。ハルが前に進み出て出迎えたが、ナヤートは彼にそのまま抱きついた。
「大丈夫⁉︎ 何もされなかった⁉︎」
「うう……あいつらやたら壁ドンしたり頭ポンポンしてきたりした……! めっちゃキモかった……!」
ハルとナヤートがそんなことを言い合っている間、俺とマジノは部屋の中へ進み他に敵がいないか見回す。
部屋はタンスだとか絵画だとかがあるだけで、他に出入り口もなければ窓もない。
倒れた3人の男に近寄り見下ろす。
ホッグスが言った。
「む、帝都民である。おひとりは貴族か……」
入口の方を振り返ると、アレクシスや魔王が他に敵はいないかナヤートに尋ねている。ナヤートの方では首を横に振っていた。
「他の転生者はここにはいないんですか? ウォッチタワーさんや、トンプソンさん……」
「いない……最初は一緒だったけど、みんな違うところへ連れていかれたみたい……」
「そうですか……」」
「あとは……」
「何でしょう?」
「ハルさんのお母さん……アールフォーさんは、グスタフさんに連れてかれるのを見たぐらい……かな?」
ハルの顔色が変わっていた。
アレクシスはそれ以上質問することなくこちらへ歩いてきた。エルフもだ。倒れた3人を見下ろした。
「アレックス様、帝都民であります」
「どうしてここに……?」
その問いにはエルフが答えた。
「転移魔法陣かしらね。転生者を捕らえておくために連れてきたのかも。あのヌルチートとかいうヤモリがいると転生者は力を発揮できないし」
「ということは、他にも同じようなヌルチート憑きの帝都民が……」
「でしょうねえ」
エルフはのんびりとした声でそう言った。
やはりブラックエッグはヌルチートの巣窟と見てよかった。おそらく先々でも、パンジャンドラムたち転生者はヌルチートに何かしらセクシャルハラスメントを受けていることだろう。
この部屋に出入り口はひとつしかない。引き返して別の部屋を探しにいかなければ。
「しかし、何なんですかね?」
アレクシスがそう呟いた。
「何がぁ?」
「シスター・イノシャ……いえ、魔女です。私たち転生者を捕まえて、異性をあてがって……それが何になるんでしょう? もう何がしたいんでしょうあの人」
俺はあの扇情的な体つきの魔女と、その自称子供たち……アップルやロザミアのことを思い返した。
彼女たちは、要約してしまえば、『転生者の真の幸福』とやらのために、我々にヌルチートをけしかけていた。
美男美女のハーレムの中心にすえる。それはたしかに、人によっては泣いて喜ぶ類いの幸福かも知れないが……。
「うーん……イケイケの転生者を我が物にしたい、とか?」
エルフは俺の方をジロジロ見ながらそう言う。
「ですが転生者に押しつけられているのは、別に魔女の仲間とか息のかかった者ではなくランダムですし……魔女に何のメリットがあるのか」
「さあ……それは本人をとっ捕まえてから直接訊いたらいいんじゃないかしらん。私は何でもいいわよ。私にとっては好都合だわ」
「えっ、どうして」
アレクシスの問いに、エルフは「むふふ」と笑った。
そして俺たち……この場にいる転生者を見回しながら、
「だってねえ? 魔女のおかげで、追い求め続けた転生者がひとつの場所に集まって、一網打尽にできるチャンスなわけでしょ? 願ってもないわこの状況!」
アレクシスたちが困惑顔で俺の方を見てきた。
気持ちはわかるが、この場合俺は誰に視線を送って助けを求めればいいのだろう? 不公平なように感じられた。
「こほん、エルフ殿」ホッグスが言った。「真面目にやって欲しいものであるな。今は男に色目を使っている場合ではないのである。迅速に他の転生者を救出し、皇帝陛下とアリー家ご夫妻の魂を取り返さなければならない」
「女の子もいるわ」
「そこはどっちでもよろしい。とにかくロスのことをいやらしい目でジロジロ見るのはやめるのである」
ホッグスは俺の後頭部をつついて、
「ロス。さっさと次へいくのである」
「ああ、そうしよう」
「あれっ、ちょっとおふたりさん私に冷たくない? 私協力者なんですけど」
「別に冷たくはない。いつもどおりだ」
このエルフとやり取りするのはらちが明かないし、おまけにたしかに今はそれどころではない。俺は部屋の出入り口の方を向こうとした。
が、その瞬間一瞬エルフが部屋の奥へ素早く振り向いたのが見えた。
その様があまりに素早かったので俺は思わず足を止め同じ方向を見やった。
ただ壁がある。
壁は両端に寄せて1枚ずつ絵画の額縁がかけられていて、その間はただの、黄色い壁紙の壁があるだけ。
エルフはそこをじっと見ている。
「どうした……」
「くるわよ」
エルフが呟くと同時だった。
絵画の間の壁に光の筋が円を描くように走った。光はあっという間に魔法陣の図形を描き出す。
「転移魔法陣だわ!」
壁の魔法陣から腕が1本、にゅっと出てきた。
次は足だった。そうかと思った次には女がひとり飛び出してきた。
知らない女だ。背中にはヌルチート。彼女の後ろからは、さらに別の女が何人も飛び出してくる。
「あっ!」
叫んだのはマジノ。魔法陣は奥の壁だけではなかった。左右の壁にも。振り返ってみれば廊下の壁も光り始めた。
それらの魔法陣から、続々と女や男が部屋になだれ込んでくる。
エルフがレイピアを抜くと同時に言った。
「ダークエルフは魚釣りの餌だったみたいね」
「ならチョウチンアンコウみたいに光らせてくれていれば分かれ道で悩まずに済んだんだがな」
俺もそう言いつつホッグスを投擲する構えを取る。
アレクシスたちも魔法銃(に取りつけた音波発生器)を廊下方向へ構えた。
「少佐、頼むぞ!」
「うむ!」
《ツープラトンのスキルが発生しました》
《クーコ少佐は色即是空を発動しています》
空中でホッグスがまとう光の輪が照らす室内で、襲いかかる帝都民との乱戦が始まった。




