第313話 グローバルイーグルMk2
俺たちはグローバルイーグル製造工場へ移動することとなった。
帝都の中でも緑の多い地域であるその場所で、格納庫の中からグローバルイーグルが引き出されてくる間、俺たち転生者(そしてラリアとヤマト皇太子)は格納庫前で、エルフから話を聞かされていた。
「ブラックエッグっていうのはね。かの伝説の大崩壊の際、ヒューマンの三賢者が生物をかくまった……これは知ってるんだっけ?」
日差しは強かった。俺たちは太陽の下に並んで、その言葉にそろってうなずく。
「魔女はね……その時ヒューマンたちを、魂だけに変えたの。概念って言った方が近いか知らん? それでヒューマンたちに大崩壊による肉体の破壊を逃れさせ、天地が落ち着くまで避難させてたってわけ」
エルフの説明は極めてシンプルだった。
俺は尋ねた。
「概念?」
「そう。概念だけ。“ここに人がいますよ!”っていう情報だけ」
エルフは空を見上げた。
見上げた先にはブラックエッグ。今日はどことなくその黒い点が、いつもより大きく見える気がする。
「それでね。あのブラックエッグには、ヒューマンを魂だけに変える魔道具がある。それで時々、魔女はヒューマンの魂を持っていってしまう時があるの。そんな話を聞いたことがあるようなないような気がするわ」
俺は他の転生者たちと顔を見合わせた。アレクシスと魔王、ハルは黙って俺を見返していて、マジノは首をひねっている。
俺は向き直った。
「魂を持っていってしまう? 何のためにだろう」
「さあね。それは本人に訊かなきゃわからないことねぇ。ただ魔女はそうする時がある。それで、魂を盗まれてしまった者は……」
エルフは皇太子とアレクシスを交互に見やり、
「抜け殻になってしまうわ」
皇太子が言った。
「アラモスさん。エルフ様が言うにはその魂を抜き取る魔道具をどうにかすれば、親父やアレクシスの両親の魂を取り返せるそうなんだ。というわけでこれからブラックエッグに突入しなきゃならねえ」
今の皇太子は鎧を身にまとっていた。そうして腰に吊るしたサーベルの鞘を握りしめている。
アレクシスの方を見てみれば、彼女もいつものドレス姿ではなく、濃紺の燕尾のジャケットを羽織り、下はぴっちりした白いズボンをはいていた。まるで乗馬の際の格好だった。
決戦仕様というわけらしい。
格納庫からグローバルイーグルが引き出されてくるのが見えた。
白く、かなり大きい。サッカレー王国で見たグローバルイーグルと違って、足が4本あった。
イーグルが足で歩く先ではアリスが両手を振って誘導している。その導きに従って、イーグルは格納庫前の広場に移動している。
イーグルについて格納庫を出てきた人々もいる。周囲にはツナギを着た整備兵が数人、それと黒い制服を身にまとった軍人も何名か。
その中にはホッグスもいた。タイトスカートの制服ではなく、ガスンバで見た時と同じパンツルックだった。
ホッグスの指示に従い、整備兵らしき人々が、大きな流線型の筒を台車に乗せ格納庫から引き出してくる。
白い筒だ。長さは15メートル弱といったところか。太さもあり、どことなくプライベートジェット機の胴体部分を思わせた。
皇太子がそれを見ながら、
「本当は魔族との決戦の時、上空から降下部隊を投入する計画があったんだ。その輸送用に造ってあったのがあの白いキャリアーだよ。グローバルイーグルが間に合わなかったので計画倒れになってたが……」
俺は言った。
「あれに俺たちを乗せたいってわけか」
皇太子はうなずく。
キャリアーの上には太い横棒が2本、前後に並んでいる。グローバルイーグルがキャリアーの上に乗り、4本の足で横棒を掴んだ。
ホッグスがこちらに歩いてきて皇太子に敬礼し、準備が終わった旨を伝えた。
皇太子はそれに同じく敬礼を返すと、俺に向き直った。
「今回のブラックエッグ突入作戦にはホッグス少佐にも参加してもらう。パンジャンドラムさんたちはヌルチートをくらってさらわれたんだったよな。ウォッチタワーさんは俺の目の前でさらわれた」
「そうだな」
「ブラックエッグ内には当然あのクソヤモリがいるに決まってる。ホッグス少佐はヌルチートの呪いを無力化する不思議なスキルが使える」
ホッグスが俺を見てうなずいた。
ラリアもヌルチートの呪いを無効にできるが、ホッグスもきてくれるなら確実だと思えた。
俺は少し、魔王の方を見た。魔族の要塞の時もホッグスと一緒だったら、あのロザミアという魔女の娘も死なずに済んだかも知れないという、そんな都合のいい思いが頭をよぎった。
視線を戻して俺は言った。
「助かる」
「それでな、アラモスさん」
「何だろう」
「たしか魔王さんの要塞の時は、内部が変形して転生者のみんなは一時分断されたって聞いた」
「今となってはいい思い出だな」
「もしブラックエッグにもそんな仕組みがあったとしてさ。他のメンバーがアラモスさんとはぐれちまったら、やばくなる。それで……」
皇太子はアレクシスたちを見やり、
「ホッグス少佐には、他の転生者の人と一緒にいてもらった方がいいんじゃないかと思うんだ」
アレクシスが言った。
「アラモスさん。たしかラリアさんとホッグス少佐は、アラモスさんと何かの契約を結ぶことで対ヌルチート用の特殊なスキルを発動できるとか」
俺はチラリとホッグスを横目に見つつ、
「……奴隷の契約か?」
「そうです。ですので、少佐とは一時、アラモスさん以外の誰かと奴隷契約を結んでもらい、万一に備えた方がいいかと」
ホッグスは自分のつま先を見ていた。
俺は言った。
「……誰とだろう」
「そうですね……私?」
「ふざけるな」
「な、何ですか」
「君はダメだ。話にならない。あれだけアンダードッグを悪く言っておいて今さら虫がよすぎる」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう……」
「少佐は他の人に任せる」
というわけで、俺はホッグスへ向き尋ねた。
「少佐、そういうわけだ。魔王さんでいいか?」
「え、敵国の王であろう……」
「仮の姿だ」
「いやぁ、その……」
「じゃあマジノ?」
「よく知らない男の人であるし……」
「ハルなら知ってるよな?」
「むぅ……」
つま先を見たまま煮え切らない態度だった。
「……じゃあスピットファイアか?」
すると帽子の中から声がした。
「僕がどーやってその美女をブン投げるって言うンだよ。それに僕は厳密には転生者じゃないンでね」
俺は皇太子からホッグスに頼んでもらおうかと考えた。たしかに魔王はプレイボーイだし、マジノは俺にとってもよく知らない男だ。ここはやはりハルだろう。
ちょうど、そう言おうと思った時だった。
「じゃあボクが他の人といくですよ」
ラリアが、そう言って左腕から降りた。
そうして他の転生者の方へトコトコと歩いていくと、
「さあ、我と思わん者はボクとタッグを組むです」
そう言って……ちょっと振り返って、ホッグスにウインクしていた。
それから全員が無言で、俺が返事をするのを待っていた。
「……よし。ラリア、魔王さんでいいか?」
魔王とハルは、スキルを封じられても魔法が使える。スキルを封じられてからでは1度か2度の使用が限界だろうが、もしもの時ラリアを守れるチャンスはアレクシスやマジノより多いはず。
そして魔王の固有スキルは不死身というだけで攻撃能力があるわけではない。その点をラリアが補えるだろう。
ラリアは俺の言葉にうなずいた。
俺はラリアとの契約を解除して、それから魔王に契約の手順を話す。
魔王はうなずき、ラリアの前にしゃがんで言った。
「それでは汝、我輩と契約するか?」
「契約するです」
《ブブー! 契約はできません。奴隷の契約は法によって厳しく処罰されます。あなたには人権意識というものが欠けています。いちから人生をやり直して慈愛と平等の精神を身につけてきてください。このレイシストめ、まったくおまえったらどうしようもないな》
魔王が俺の顔を見た。
俺を見られても困る。帽子を持ち上げてスピットファイアにお出まし願った。
「あーン? そりゃそうよ。もともとこの世界はゲームなわけでね。諸外国に売ろうと思ってたわけでね。国際基準というものがあるわけで。奴隷とかいう前時代的な設定盛り込めるわけがないのさ。魔王、いや暁社長さンよ、あンたが1番そこンところ気をつけてたンじゃあないのか? あンたヴァルハライザーでひと儲けしようと思ってたわけだからして。ガハハ」
魔王が俺に言った。
「どういうことだ?」
「どういうことも何も。なぜ契約できないんだろう?」
「いや我輩が知りたいのである。たしかに奴隷制のあるゲームなんて海外に出すわけにはいかんが、だがゲームはゲームだ。ロス、そなたは事実契約できてたんだよな?」
「それはそうだが……もう1度やってみてくれ」
魔王は再びラリアに尋ねる。
「汝、我輩と契約するか?」
「契約するですよ」
《ブブー! 契約はできません。奴隷の契約は法によって厳しく処罰されます。あなたには人権意識というものが欠けています。いちから人生をやり直して慈愛と平等の精神を身につけてきてください。このレイシストめ、まったくおまえったらどうしようもないな》
同じだった。
アレクシスやマジノも、ラリアと契約を結ぼうと試してみた。
だがやはり脳内で人間性を否定されるだけで、一向に契約は結ばれない。
俺たちは全員で首をひねることになった。
魔王が言った。
「おかしいな…………? そもそも火奈太君の設定資料には……たしかに奴隷の記述自体なかったが……?」




