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第309話 小型ドラゴン(?)


 階段を占拠している巨大クワガタ。


 珍しい奴だった。これまで遭遇したことのあるのは中途半端に人間の姿をした虫人間か、途方もなくバカでかいエンシェントドラゴン。

 でかい蟻ももちろん見たことはあるが、階段上のクワガタはそれより3回りぐらいは大きいサイズだった。


 皇太子が言った。


「急にヌルチートを憑けられた奴らと、虫が襲ってきやがったんだ……アレクシスとウォッチタワーさんがまだ上に! 俺らは下に押し下げられちまって……ヌルチートの憑いてる奴は俺が気絶させたんだが……」


 周囲を見回すと、そこここに法衣を着た神官や、近衛兵ではない帝国兵がブッ倒れている。


 そうこうしているうちに巨大クワガタが階段を下ってきた。


「殿下、お下がりください! ここは我々が!」

「バッ、バカ! よせっ!」


 近衛兵の数人が、皇太子が止めるのも聞かず前面に立ち、ハルバードを構えてクワガタに突撃。


 ふたりがクワガタの顎を叩いて牽制し、他の数名が側面に回りハルバードを突き込んだ。


 しかし、クワガタの黒い甲にあっさりと弾かれる。

 その時俺は見た。クワガタの甲が波紋のように揺れるのを。


 クワガタが大暴れするものだから、近衛兵たちは後退。また階段下へ戻ってきた。

 クワガタの方ではそれ以上降ってくることはなく、顎をガチガチ鳴らしているだけ。

 威嚇しているかのようだった。


「あの硬い殻のせいで刃も魔法も通らねえんだ。手も足も出ねえ!」

「……《ドラゴンウォール》のように見えるな……」

「なに⁉︎」


 皇太子はもとより、周囲の近衛兵もざわついた。


 《ドラゴンウォール》はエンシェントドラゴンだけが持つ固有の障壁。つまり階段の上にいるあのクワガタは、エンシェントドラゴン……ということになるはずだが。


「けど……小さいぜ? 俺は実際見たことはねえけど、ドラゴンってもっとでかいんじゃ……」

「ああ。俺もあんな小型のものは初めて見た。それに《ドラゴンウォール》は甲羅じゃなくて、体から少し離れた空間にできる壁のようなものだったと思うが……」

「だいたいよ。ドラゴンって、トカゲじゃねえのか?」

「何だと?」


 俺は近衛兵の肩に支えられている皇太子を振り返った。


「えっ、だってそうじゃねえのか? ドラゴンって言うぐらいだし……」

「俺が見たことのあるのは虫だけだ。魔女は虫を造る。だから俺は、エンシェントドラゴンは魔女が造ったものじゃないかと考えているんだが……」


 近衛兵たちが互いに顔を見合わせながらざわざわしていた。


 俺たち転生者が目撃したことのあるドラゴンは全て虫だったということ、皇太子には報告していたはずだった。皇太子自身はその目で見たことがなかったわけだから、彼にははっきりわからないことではあるのだろうが……。


 俺は言った。


「普通のドラゴンがいるのか? トカゲの?」

「いや、俺は見たことねえけど、一応そういう伝承だし……あれ、俺なんか変なこと言った?」


 俺はクワガタに視線を戻した。


 何にせよ、あのクワガタはこれまでの虫ドラゴンと違い口から何か吐いてきたりするわけでもない。サイズも《ドラゴンウォール》も中途半端。簡易版か何かなのだろうか。


「アラモスさん、上にはまだアレクシスとウォッチタワーさんが取り残されてるんだ。どうするんだ⁉︎」


 俺はもう1度周囲を見回す。

 この場にいるのは近衛兵と、遠巻きにしている帝国兵。彼らは俺に襲いかかってくるでもない。


 俺は言った。


「こうするんだ」


《ハードボイルが発動しました》


 拳を階段上へ向けてマイクロウェーブを発射。青白い閃光がほとばしり、クワガタは木っ端微塵に吹き飛んだ。


「いこう」

「あ、ああ……すげぇ」


 近衛兵たちが階段を走り登っていく。


 皇太子は足を怪我していた。ホッグスに何か食べ物を持っていないかと尋ねたら、ポケットにまたチョコレートを隠していたので、それを《ザ・サバイバー》で皇太子に食べさせた。


 そうしてから、マジノも加え俺たちも近衛兵たちのあとに続く。


 階段上まで登りきり、神殿前庭に到達した。


 前庭では、ヴィエラとリリアンヌ、そしてメリナが、細く長い棍棒を持った神官たち数名と格闘していた。

 神官たちの持つ棍棒の先には、まるで光でできているかのような実体のない斧の刃がついていて、それによって武装した神官が男女合わせて20人はいた。そして彼ら彼女らの背中には例外なくヌルチート。


 ヴィエラたち3人は中央に魔王バルバロッサを囲み、守るようにして戦っている。


 そしてその周囲で……。


「はぁはぁ! アレックス様! はぁはぁ!」

「いやーんアレックス様お待ちになってぇ〜!」

「ギヤー!!! こないでくださいーーー!!!」


 アレクシスが5人ぐらいのシスター(つまり女性だ)に追われて、格闘する魔族勢と神官たちの周りを、ドレスの裾をはためかせつつぐるぐる走って逃げている。


 そういった光景が前庭で繰り広げられていた。

 俺は言った。


「やれやれ」


《ツープラトンのスキルが発動しました》


《ラリアは毒素消化(ディジェスター)を発動しています》


《ラリアはスピン・ザ・スカイのスキルを発動しています》


《クーコ少佐は色即是空(ディリュージョン)を発動しています》


 ラリアを投入し、ホッグスがヌルチートを無効化。青い顔の上に階段を走り登ったためか息を切らしているアリスも、音波発生器をヒイコラ回し始めた。


 同時に躍り込んでいく皇太子と近衛兵たち、そしてマジノ。


 俺もアレクシスを追い回しているシスターたちを追いかけ、スキルを使いヌルチートを引っぺがしていく。


 わあわあとちょっとした喧騒のあと、神殿の者たちが持つヌルチートの駆除はすぐに終わった。


 アレクシスは、地面に手をついて座り込みぜいぜい言っていた。


「楽しそうな鬼ごっこだったな」

「はあ、はあ……どこが……! 私に、そんな、趣味は、ありません……!」

「男がよかったのか?」


 アレクシスがこちらを睨みあげた。と同時に魔王が声をかけてきた。


「おお我が同胞ロスよ、きてくれると信じてたぞ! いや嘘だ、必死すぎてちょっと存在を忘れてた。まさか間に合ってくれるとはな。ヴィエラたちも魔力が尽きそうになってたし……助かった、ありがとう! いやはやどうなることかと……」

「ウォッチタワーは?」


 俺は周囲に目をやった。


 近衛兵たちが神官から棍棒の武器を取り上げたりしている様が目に入ったが、ウォッチタワーの姿が見えない。あんなかすれた緑色の肌で身長2メートル半の巨体がヒューマンの人混みの中にいたら個性が埋もれて目立たないとしても無理もないと思いつつ目をこらしたが、どれほど注意深く見てもやはりいない。

 

「そ、それが……」魔王が言った。「すまん。我々を守るために勇敢に戦ってくれたんだが多勢に無勢で。神官の気絶魔法でやられたところをでかい虫にさらわれ、飛び去られてしまった……」

「あっちの方へ飛んでいったんだが……」


 魔王が指差したのは、階段を向いてさらに上方。


 指先の向こうにはブラックエッグ。


「途中で空中に魔法陣が展開されて、姿が消えた」

「転移魔法陣とやらか」


 すると、やっと立ち上がったアレクシスが言った。


「あ、あの……アラモスさん!」

「何だろう?」

「じ、実は……スピットファイアさんが……!」


 アレクシスは険しい表情だった。


 魔王と、ヴィエラたちを見やってみれば、彼らも同じ表情。

 その顔は鎮痛の面持ちと表現するにふさわしかった。


 アレクシスに尋ねた。


「スピットファイアがどうしたんだろう?」

「そ、それが……! 落ち着いて聞いてください……! ヌルチートに見られてから……おそらくヌルチートの魔法か何かで爆発させられて……死んでしまったんです!


 もう1度魔王たちを見やってみると、ヴィエラとメリナはうつむき、リリアンヌはゴシックロリータのドレスの裾を掴み震え、魔王は拳を握りしめていた。


 俺は視線を空に向けた。


 鳥が飛んでいないことを確認(まあ夜に活動する鳥は少ないか)して、


《ハードボイルを発動しました》


 上空にマイクロウェーブを撃ち上げる。


《スピットファイアはリスポーンを発動しています》


《3》


《2》


《1》


《Respawn‼︎》


 青白いマイクロウェーブの一部が小人の形を取り始め、


「ぬオーッ! あンの腐れ虫どもめがーッ! ま、今日はこのぐらいにしといたるわ」


 スピットファイアが復活した。


「あれっ、スピットファイアさん死んだんじゃ⁉︎」

「これがスピットファイアの固有スキルだ。死んでも周囲のエネルギーを吸って何度でも生き返る」

「あー、そう言えば火奈太君が言ってたな。スピットファイアはゲーム内の案内役だから死なれたら困るけどどうしようみたいなこと。攻撃できないようにしたらどうかと我輩言ったんだが、それじゃつまんないとか言われた」


 そんなような話をしているとヤマト皇太子がやってきた。


 制圧は完了したと言う。何が起こっているのかと尋ねられた。


 エンシェントドラゴンの卵を運ぶ隊列が襲撃を受けているという報告も皇太子は受けていたそうだ。だが神殿は神殿でヌルチートとクワガタの攻撃が始まったので、身動きが取れず状況が掴めていないとのこと。


 だが俺はそれに答える前に、近くをふらふらしていたアリスの腕を取った。


「ひゃっ、何⁉︎」

「殿下、詳しいことはアリスからキャンピングカーの中で聞いてくれ。まずはドラゴンの卵を運んでいた大通りに増援を送ってくれ。そこでエルフが」

「エルフって……」皇太子が言った。「あの、親父のことを何とかしてくれるかも知れないっていう⁉︎」

「そうだ。そこもヌルチートだらけで、彼女が残って帝国兵と共に掃除している」

「よ、よし!」


 皇太子はすぐさま近衛兵のひとり(兵長と皇太子は呼んでいた)を呼びつけ、増援部隊を指揮しろと命じていた。


 それからすぐに振り返り、


「けど、これからどこへいくんだ?」

「アレクシスの家だ。そこも襲われているはずなんだ。このぶんではハルたちも……」

「えっ待って」アリスが言った。「ハルっちのとこいくの⁉︎ いやあーしそれはちょっと……これからあの、そう、研究所の残業があって」

「これが残業だ、つべこべ言ってないでいくぞ」


 アリスの腕を引きつつ階段を降りる。


 下までいって、キャンピングカーには皇太子とアリス、魔王たち魔族勢。ホッグスにも同乗してもらい、皇太子への状況説明を頼んだ。


 バギーには俺とラリア、助手席にアレクシスとスピットファイア。すぐさま車を走らせた。行き先はノーブレス区、アリー家。


「おい黒帽子ッ! こりゃいったい何事じゃいーッ!」

「そうですよアラモスさん、アリスさんが魔女を見つけたという報告をしてきてから、こんな……」

「当たりだった。アンダードッグ区で魔女に会った」

「えっ!」

「おまけにエンシェントドラゴンの卵を盗まれた。マジノが言うにはパンジャンドラムも連れていかれたらしい。アールフォーさんもだ。グスタフの奴がヌルチートに取り憑かれていた」

「そ、それってどういう……だいたいどこへ連れていかれたんですか?」

「たぶんブラックエッグだ」

「何のために……」

「知るものか。まずはハルたちの安否だ」


 バギーはすでにノーブレス区へと入っていた。




活動報告にヌルチートの裏話を書いてみました。

ちょいちょい書いてみようと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 気絶魔法?なんぞそれ、と思ったら過去に出てたましたね。 マジカルテーザー!魔法のスタンガンwなんぞそれw
[良い点] クーコたんのポッケには夢が詰まっている スキアナ先生の呼び名がついにクーコ少佐に ロス・アラモスも満更じゃないようだ [一言] 裏話良かった B級オブザデッドよくいるトラブルメーカーが今回…
[良い点] ポッケにチョコレート入れてるホッグスねーさん可愛いw [気になる点] クワガタムシいいいぃぃぃ!!(´;ω;`) [一言] 裏話も読ませていただきました。 こういう没設定とかそれに至る経緯…
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