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第三十話 求婚、そしてハーレムへ

いつもご贔屓にしていただきありがとうございます。

ブックマーク及び評価ポイントを入れてくださった方、勝手にランキングポイントを入れてくださった方、そしてここまで読んでくださった方、重ねて御礼を申し上げます。


長い前振りについてきてくださり、感謝の言葉もございません。

いよいよ『ヌルチート』、本題でごさいます。

お楽しみください。

 

 俺とレイニーは1度、港へと戻った。

 ミス・サンボーンがそこへ馬車を用意していると言ったからだ。

 もともと港近くに宿を取った俺に会いに来たから、馬車もそこにあると言う。


 港の入り口にある大通り。

 そこに豪奢な馬車が路上駐車していた。4頭の馬で引かれる馬車は、白いボディの随所に金の装飾が施された、高級品だった。自己顕示欲と税金対策に余念のない富裕層御用達の馬車メーカーが作ったに違いない。


 周囲では子供たちが、馬車を遠巻きに眺めはしゃいでいた。たぶんこの馬車をモデルにしたミニカーもあるに決まっていた。

 子供だけでなく大人たちも、馬車に注目して立ち止まり、ちょっとした人だかりができていた。


 俺たちがその馬車へ近づいた時。

 俺は人混みの中にある人物の姿を見つけた。


 奴隷商人だ。

 数日前、俺にラリアを押し付けようとした人物。

 その商人が建物と建物の間の狭い路地の入り口にいた。

 全治2ヶ月だと言っていたはずだが、出歩いて大丈夫なのだろうか。

 この世界は回復魔法もあるようだから、問題ないのか。


 さっきまで眠っていたラリアも目を開けて、彼の姿を見ていた。

 商人はなぜかじっと俺たちを見ている。

 かと言って近づいてくるわけでもなく、手を振ってくるでもなかった。


 ミス・サンボーンに促されたので馬車に乗り込もうとした。だがいきなり引き止められた。

 乗れと言ったくせに引き止めるとはどういうことか、俺が彼女の顔を眺めると、ミス・サンボーンは言った。


「失礼ながらロス様。そちらの少女は、ロス様の奴隷なので?」

「そうです。ボク、マスターの奴隷です」


 なぜかラリアが先に答えた。

 俺は別にラリアを奴隷にした覚えはない。それについて糺そうとした時、ミス・サンボーンが言った。


「ロス様。たいへん失礼ながら、この馬車は高貴な身分のお方だけが乗車できる、格式高いものなのです」

「それで?」

「その少女がロス様の奴隷であるということは承知いたしました。しかし奴隷の身分の者を……ましてや獣人をこの馬車に乗せるわけには参りません。申し訳有りませんが、その者は待たせてからお乗りくださいませんでしょうか?」


 慇懃だが有無を言わせない声だった。ラリアを見ると、左腕でうつむいていた。俺は言った。


「レイニーはいいのか?」

「レイニー様はロス様の恋人。では国賓としてお招きする必要があるでしょう。しかし獣人は……」


 俺はレイニーを振り返った。彼女は顔を真っ赤にしてモジモジしている。


「ここではいつもこんな調子なのか? 獣人を差別する?」

「そうだよ、あたしはロスのこいび……え、何? 獣人? あ、えーと……」


 レイニーはラリアを見ながら、何か言いよどんでいた。


「ロス様、どうか……」


 ミス・サンボーンは、控えめながらもラリアを拒絶する意思を隠さなかった。

 レイニーはうつむくラリアを見て、学校で生徒のいじめを発見してしまった若い教育実習生みたいな顔をしていた。情熱と自身の能力が吊り合っていない時に見せる顔。


 俺はラリアに腕から降りるように言った。

 ラリアは、はっとこちらを見上げたが、おとなしくそれに従った。


 ラリアの手を引き一度馬車を離れ、道のわきに行く。


「ラリア。リベレイトエンジェルの事業所に戻っていろ」

「……マスター。ボク、マスターと一緒に行きたいです」

「おまえの行く場所は故郷だ。リベレイトエンジェルがそこまで連れて行ってくれる」

「マスター」

「俺についてきても何もない。俺は子供の面倒を見るような器の男じゃないんだ」


 ラリアはうつむき、瞳に涙を浮かべていた。俺は馬車に目をやった。ミス・サンボーンとレイニーがこちらを見ている。


「マスター……」

「ラリア。俺はおまえのマスターじゃない。なぜそんなにこだわる? 故郷に帰れるのに」

「村にはもうパパもママもいないです。何にもないです」

「だからと言って俺じゃなくてもいいだろう。なぜ俺にまとわりつく」


 ラリアはいよいよ深くうつむいた。

 俺はなぜそんな冷たい言い方をしたのだろう。

 まるで俺の父親みたいだった。

 するとラリアは、消え入りそうな声で言った。


「……だって…………商人さんが………………」


 それに続く言葉はなかった。

 俺は路地の入り口に目を向けた。さっきまでいた奴隷商人の姿がない。


 背後からミス・サンボーンの促す声が聞こえてくる。ラリアはうつむいている。

 その時だった。


「おっ、ロス! こんなとこで何やってんだ?」


 ふいに声をかけられ顔をあげると、ゴンザレスが立っていた。

 手に籠を持ち、中にはパンだとか肉だとかの食材が入っている。買い物帰りのようだ。


 ちょうどいい時にちょうどよく現れる奴だと思った。


「ゴンザレス。俺はちょっと王宮に行ってくる。ラリアを頼む」

「えっ、別にいいけど。あ、ひょっとしてあれか⁉︎ ついに姫様とのご婚約……あ、ロス、もう行っちゃうの?」


 俺はゴンザレスの声を背に受けながら馬車に乗り込んだ。

 座席に座って、鼻をさすって、腕を組む。

 馬車には窓があったが、通りに目を向けることはしなかった。






 王宮に着くと王の間へと通された。

 呼ばれているのは俺だったので、レイニーは別室に案内され、そこで待機。俺とミス・サンボーンだけが王の間へと向かった。


 数日前と同じようにレッドカーペットに立つ。

 王は相変わらず玉座にいて、右側には姫、左側に大臣。

 両脇には鎧を着込んだ兵士が並ぶ。名前は忘れたが、カイゼル髭の騎士団長はいなかった。


「ロス・アラモス殿。救国の英雄よ。久しぶりだな。まずは見事エンシェントドラゴンを討ち取り、このタイバーンを救ってくれたこと、余から礼を申す」


 王は玉座を降り歩み寄ると、俺の手を取ってそう言った。苦労を知らない男の手だった。


「それで。おまえはどうして俺をここに呼びつけたんだろう?」

「他でもない。過日の約束を果たすべき時が来たのだ」


 そう言うと王は俺の手を離し、振り返って姫にこちらへ来るよう促した。


「我が愛しき娘、セシリアだ。ロス殿、お主の功績を讃え、セシリアをお主の妻としよう」


 両脇の兵士たちが歓声をあげた。

 大臣は涙を拭っていた。

 セシリアという名の姫は顔を赤らめうつむきつつ、こちらをちらちら上目使いに見ている。

 その顔は少しほころんでいた。

 俺は言った。


「断る」


 歓声がやんだ。

 王も、大臣も、そしてセシリア姫も、あっけに取られた顔で俺を見ていた。たぶん俺の後ろに立っているミス・サンボーンもそんな顔をしているのだろう。


「え……今、何と?」

「いらぬ世話だ。要件はそれで終わりか。王よ、お話できて楽しかったよ、さようなら」


 俺は踵を返した。


「ま、待てロス殿。何が気にくわない⁉︎ セシリアの何が不満だ! 親の余が言うのもなんだが、セシリアは美しいし、気立てもよく、スタイルもグンバツ! 見よ、このおっぱい! 90cmだぞ!」


《レーザー測距計のスキルが解放されました》


「87cm」

「な、なにっ」

「たとえ悪魔だろうと俺の目を欺くことはできない。さらばだ」


 出口へと向かう俺。

 しかしミス・サンボーンが俺の前に立ちはだかった。


「さすがの慧眼、このアナスタシア・サンボーン敬服いたしました。しかしお待ちを。ロス様はひょっとして、あのレイニーさんという少女との関係のために、姫様とのご婚約を遠慮なさっているのでは?」

「別にそういうわけじゃない」

「お隠しにならないで」


 ミス・サンボーンはにっこりと笑った。

 全てを見透かしているつもりでいて、その実何も見透せていない時にやる微笑み。


「問題はないのです。レイニーさんも妻として迎えればよいのです」

「……何だと?」

「待てサンボーン。今何と言った?」


 疑問を呈したのは俺だけではなかった。

 王もそうだった。

 振り返ると、怪訝な顔をした王。その向こうに怪訝な顔をした大臣。互いに顔を見合わせてうろたえた様子の兵士たち。


 ただセシリア姫だけが、微笑んでいた。


「サンボーン、どういうことだ。そのレイニーというのは何者か?」

「畏れながら、ロス様の冒険者としてのパーティーメンバーです、陛下。ともに国境沿いの村々を荒らし回っていたBランクの魔獣を討伐したと、報告にあります」

「お、おお。それは素晴らしい。して、そのレイニーなる者をロス殿の妻に迎えるとはどういう意味だ? ロス殿の妻はセシリアのはず」


 王はかなり狼狽していた。

 自分の娘の結婚相手が決まったと思い込んでいた父親としては、唐突に自分の部下がその婿候補に他の女を妻にしろと言い出せば、そんな態度にもなるかも知れない。


 それはいいのだが、王の隣に立つセシリア姫の姿が異様だった。


 結婚相手に公然と不倫しろと言い出す女がいるのに、まだ笑っているのだ。


「ええ、ですから、陛下。第二夫人ということです」


 王は大臣と顔を見合わせた。そして俺とも顔を見合わせた。俺は大臣とも顔を見合わせた。

 大臣が進み出る。


「サンボーン女史よ、そのレイニーなる人物の、出自は……」

「おそらく平民かと」

「いや、平民て君……」

「サンボーン、貴様は何を言っているのだ! 栄光あるタイバーンの姫を、平民の娘と並べてロス殿の妻となれと言うのか⁉︎ それにセシリアと婚姻するということは、ロス殿はゆくゆくはタイバーンの王となるということだ。そこへ、どこの馬の骨とも知れぬ平民の娘を第二夫人として迎え入れるなど……」


 王の言葉を大臣が引き取った。


「陛下のおっしゃる通りだ。もしロス殿と、そのレイニーとやらの間に子が生まれたら何とする? 王家の血を一切引いていない子だ。それがタイバーン王の子として認定されることになる。畏れながら陛下、そのようなことになれば、将来無用な争いの火種となりましょう!」

「うむ、余もそう思う。大臣よく言った! さすが大臣!」


 つまるところ、セシリアの子とレイニーの子が後継者争いをして国がガタガタのメタメタになるかも知れないということだ。ドメスティックな問題はいつも誰かを不幸にするが、それが王家の出来事ともなればその影響は庶民の比ではない。

 だが……。


「それの何が問題なのでしょう?」


 ミス・サンボーンはそう言った。

 王と大臣が固まる。兵士たちもだ。

 ミス・サンボーンは笑っていた。

 セシリアも、だ。


「ロス様の存在の前では、タイバーンの行く末など瑣末なことと存じ上げます。ロス様がここにいる。であれば、起こりうるあらゆる問題は、問題とはなりえません」


 王が俺を見た。

 見られても困る。

 彼はミス・サンボーンの発言の意味を俺が説明してくれると思っているのかも知れない。だが俺を見られても困る。意味など俺にだってわからない。


「サンボーン女史」大臣が言った。「今のはどういう意味だ? ロス殿がいれば、タイバーンなど……国などどうでもいいと聞こえた。どういうことか説明せよ」


 その時、セシリア姫が声を発した。

 彼女の声を初めて聞いたかも知れない。

 セシリア姫は言った。


「それはロス様が転生者だからですわ」







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