第302話 クレイジーサイコエルフ再び
「ちょっと! 引っ張って! ちょ、ちょっ!!!」
エルフは窓枠からこちらに手を伸ばして何かアピールしていた。
俺はホッグスと視線を合わせた。ホッグスはため息をつくと起き上がり、
「……上げてやれ」
そう言った。
俺は窓までいってエルフを引きずり上げる。
俺に掴まったままズルズルと窓枠のこちら側に垂れ下がるエルフ。部屋の中に入れてやったが、彼女は立ち上がってもまだなぜか俺にしがみついたまま、ベッド脇に腕を組んで立つホッグスを睨んでいた。
「まったく油断も隙もあったもんじゃないわね! 私が孤独な旅をして不在なことにつけこんで部屋になんか連れこんでまーいやらしい! 夜の軍事作戦をしようとしていたわけね! スケベ!」
「何でそんなとこ登ってたのであるか……」
「私の転生者を求める本能が囁いたのよ。ロスがここにいるって。正確に言うと望遠鏡でなんとなく辺りを見てたら目に入ったんだけど」
エルフの腰のポーチを見れば、たしかに単眼伸縮式の望遠鏡らしきものがのぞいている。
俺は言った。
「だからと言って壁を登ってくる必要がどこかにあったか?」
「ふう! そのアクロバットがなければあなたはあともう少しでこのモフ耳の女狐に襲われるところだったわね、いやはやあぶないところだった」
「襲われるって……だいたいここは人の家だぞ。そんな乱入の仕方をする奴があるか」
「何言ってるのロスしっかりして! これが実戦だったら5回は童貞を失ってたわよ」
ホッグスを見ると、彼女は部屋の出口へいって扉を開けた。そこには聞き耳を立てていたラリアがいて、ホッグスを見上げて慌てて飛びのいた。
だが1度こちらをのぞいて、
「あっ、おねーさんこんにちは」
「はいこんにちは。元気してるっ? あら、カッコいい帽子ね」
そんな挨拶が交わされるなかホッグスは無言で部屋を出ていく。俺もしがみついたエルフを押しのけようと努力しつつあとに続く。リビングのホッグスは振り向いて言った。
「……エルフ殿も梨酒いるかね?」
「あらいいわね! 梨大好き!」
「いや少佐、今度にしよう。もう日が暮れる。アレクシスたちのところへ戻ろう」
「えー! そんなぁ! 建物よじ登って喉渇いてるのよー!」
俺は何とかエルフを引き剥がし、向かい合った。
「ちょうど君を待ってたんだ」
「わかっているわ。私とファックするためよね」
「ちょっと違う。実は……」
俺は1度ホッグスの方へ顔を向けた。
ホッグスがうなずいたので向き直り、
「この国の皇帝が病気になった」
「お大事に」
「聞け。ガスンバでアップルって女の子に会ったろう? あの子のようになった。君が言ってたろう、魂を失ったとか何とか」
エルフは一瞬、ホッグスを横目に見た。
だがそれは一瞬のことで、
「……それで?」
「この国はそのことでたいへん困っている。特に皇帝の息子だ。俺も相談されたんだがどうすればいいのかわからなかった。君が知ってそうだったから、君が会いにくるのを待ってたんだよ」
「……ああなるほど。だから不法侵入してるのにあんまり怒られてないわけね」
自分のやっていることに違法性があることを理解する常識ぐらいは彼女にあることに、控えめな表現ではあるが、俺は驚愕していた。
俺がそんなことを考えている時、エルフはなぜかさらにもう1度ホッグスを見やった。
そして尋ねた。
「少佐さん。あなたもそれ知ってるの?」
「……うん? うむ……この目で見た。それが何か?」
エルフはホッグスの問いには答えずに部屋の出口(窓ではない、扉の方)へ歩き出しつつ、
「じゃあいきましょうよ。私も色々話したいことがあるわ。ブラックエッグと魔女についてね」
そう言った。
たしかに彼女はそういった事柄について調べるためにここのところ姿を見せなかったのだ。ラリアがすぐに走っていって、扉を開けてやっていた。エルフはそれに礼を言ってラリアの頭をぽんぽんしたあと、手を引いて出ていく。
ホッグスはクッキーの瓶に蓋をして棚に戻すと、コップの梨酒をキッチンの流し台のようなところに捨てた。
コップはそのまま流し台に置き去りにし、彼女もまた出口へ向かう。
部屋を出る前に俺と目が合った。
彼女は立ち止まって、目をそらす。
それからほんの少しの間、お互い無言だった。
部屋の外から俺たちを呼ぶエルフの大声が聞こえる。どこいくのかわからないけど早くいかないと日が暮れちゃうわよとか何とか。
ホッグスが歩き出そうとした。
俺は言った。
「さっきのことについては……」
彼女がうつむいたまま立ち止まった。
「いずれ必ず決着をつける」
はっとしたように顔を上げたホッグス。瞳は大きく見開かれている。
「ヴァルハライザーを見つけて、そのあとどうにかなる前にだ。必ず」
俺はそう言って部屋の外を手で示した。
レディーファーストを忘れない男、ロス・アラモス。ホッグスの顔はやや赤くなっているような気がしたがそれが夕日のせいかどうかはわからない。
彼女は言った。
「あ、あの、鍵をかけなければならないから貴君に先に出てもらわないと困るのである」




