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第287話 黒い帽子


「もぉ、ラリアびしょびしょじゃん」


 ナヤートがそんなことを言いながら、ラリアの手を引き俺たちのところへ戻ってきた。


「ラリア殿、噴水遊びはもういいのであるか?」

「はい! 堪能したですよ」


 ラリアはホッグスにそうは言いつつ俺の方を見て、


「マスターとも遊びたいです」


 そう言った。

 ベンチの隣りの席に座っているボッグスが俺の方を見ていた。

 遊ぶ?

 何をして。


 ナヤートがラリアを見下ろしながら言った。


「でも服がびしょ濡れだよ……風邪引いちゃうよ?」


 ラリアは先ほど噴水で転倒していた。たしかにずぶ濡れである。

 ホッグスもその様をしばらく眺めていたが、やがてこう言った。


「ロス。服を買ってやれ」

「何?」

「服だ。近くに服屋もある」

「だが破れたわけでなし……」


 俺は空を見上げ、


「この天気ならすぐ乾くんじゃないのか。ラリアの服は乾きやすいぞ」

「アホか」

「何だと?」


 ホッグスは立ち上がり、


「案内しよう。ロスのおごりである」


 そう言ってラリアの隣りに立つ。

 ラリアの方では俺を向いたまま、だが顔はうつむきがち。上目遣いでこちらをうかがうようにしていた。

 ナヤートは俺をじっと見ている。ホッグスは、心なしか睨んでいるように見えた。

 俺はため息をついて立ち上がった。






 グランシの町の服屋には子供服が置いてあった。

 噴水広場からそう離れていない場所にあった店に、4人で入る。


 所狭しと配置された棚やハンガーに所狭しと並べられたたくさんの衣服。オシャレなレイアウトを演出するため肝心の服の数が少なくスッカスカの印象を与える日本のショッピングモールの服屋とは趣きが違っていた。


 棚には小さなサイズの衣服もある。


 中世ヨーロッパ風の文明では子供の服など親があり合わせの布を縫って作るものなのではないのだろうかというイメージがあったが、ここは帝国だ。効率化のために非効率的な金の使い方をさせるのが経済を回す秘訣だということを知っているのだろう。


「どれにしよっか?」

「んーと……」


 もしくはたんに、ヴァルハライザーのガバガバ世界観のなせるわざか。かつて魔王も火奈太少年と設定の甘さについて、web小説の作者と読者がそうするように衝突したこともあったようだ。


「こっちのヒラヒラのは?」

「うーん……飛んでいって壁をブチ破る時に引っかかって破れそうです」

「そ、そこ気にするんだ……」


 それにしてもヴァルハライザーか。


 魔王が言うには、ヴァルハライザーゼロは謎の女に奪われたままだという。その女は何者なんだろうか? もともと女はヴァルハライザーを守ろうとして魔王に協力していたはずだが、ひとりでどこかに持ち去ろうとしていた。


「おい、ロス」


 どこへだ? 何のために? だいたいがだ。俺たちがいるこの異世界はヴァルハライザーの中に作られた仮想世界とのことだか、それはどのヴァルハライザーだ? アレクシスも魔王も、ゼロのことを最初のヴァルハライザーだと言っていたような気がする。では次のヴァルハライザーがあるということか? ゼロは火奈太少年が思いつきで作ったものだ。では魔王の会社アカツキ社ですでに次のヴァルハライザーが作られているということかもしれないが、では俺たちのいる世界はどのヴァルハライザーの


「ロス! おーい!」


 ホッグスが俺の服の袖を引いていた。


「……何だろう」

「選んでやらんか」

「何を?」


 ホッグスはラリアを指差している。

 再びホッグスの顔を見ると、


「……服だ。貴様が選んでやれ」

「子供の着る服なんてわからない」


 正直大人が着る服だってわからない。そもそも頭髪の薄い男にどんな服が似合ったというのだろう? 筋肉とタンクトップ以外に身を飾れるもののない過酷な世界で生きてきた俺に、可愛らしい子供の服を選ぶ良識など身についているはずもないじゃないか。


 ナヤートが言った。


「そこはほら……ロスさんのセンスでさ」


「俺が選ぶのか? 何か違わないか?」


「保護者であろう」ホッグスが言った。「選んでやったら喜ぶものだ」


「本当にそうか? たとえば俺がこれがいいと言ったって、本人はそう思わないかも知れないだろう。ちょっとこれ違うんじゃないかなって思ってたとしても遠慮して言い出せなくて結局お互い思ったような結果を得られませんでしたとかそういう結末に」


「何をそんな余計な心配しとるんだ……」


「変なのー。選んでもらったら嬉しいに決まってるじゃん。ねーラリア?」


 ナヤートがラリアににっこり微笑んだ。ラリアはややうつむいてもじもじしている。


 ホッグスに肘でつつかれた。俺は仕方なく辺りを見回し……よさげな衣服をハンガーごと取ってみせた。


「ロスさん何で革ジャンなの……」

「どういうチョイスであるか……」


 俺の手にあるのは黒の皮のジャケット。


「だって頑丈だろう。それに風を通さない。デザインもキマってると思うし……」

「ええ……」

「貴様という男は……」


 顰蹙(ひんしゅく)をかってしまったようだ。

 だが当のラリアはジャケットを手に取り、


「これかっこいいです!」


 と笑顔になった。


「えー、いいのそれ? もっとかわいいのが……」

「これがいいです! かっこいい冒険者みたいです!」

「冒険者ルックがいいのであるか……」

「はいです! ポーチがついた革のベルトなんかもあるとベストです!」


 ラリアはジャケットをためつすがめつして瞳を輝かせている。

 それからラリアの趣向に合わせつつ、ホッグスとナヤートの意見もまじえ、濡れた服の代わりになるものが選ばれていった。襟に革紐が編まれているシャツとか、キュロットスカートとか。もちろん何を入れるつもりかポーチのたくさんついたベルトと、それにショートブーツもだ。ラリアはそもそもいつも裸足だった。


 それらのものが購入の決定事項になったのち、ラリアは自発的にこう言った。


「何かかぶるものが欲しいです」


 ホッグスとナヤートの間でベレー帽かキャスケットで意見が割れた。だがラリア本人は壁にかかったかぶり物を指差した。


 そこには帽子……と言うより金属製のただのバケツのような物がかかっていた。バケツは頭からかぶった時目の部分にあたるだろう位置に、横にスリットが入っている。


「何だ、兜で武装もするのか?」

「ラ、ラリアあんなのかぶったら不審者だよ……」

「そもそも何であるかこのバケツは」


 すると店員がやってきて、このバケツはブッシュマスターという名前の兜だといらん説明をした。ホッグスとナヤートが難色を示すとラリアはあっさり引き下がった。


 というわけで、帽子はなしで会計をしようかと思ったが……。


「マスター、帽子が欲しいです」


 ラリアはまたややうつむきがちに俺を見上げている。


「やっぱりブッシュマスターがいるのか?」


 そう尋ねると、ラリアは首を横に振る。そしてまた指差した。

 俺の後ろの方を指していた。振り返るとそこは店の角。

 帽子掛けがあって幾つかの帽子がかかっている。


 1番上には、魔法使いのような黒い三角帽子。


「マスター。マスターと一緒の帽子が欲しいです」


 向き直ると、ラリアはまた上目遣いで俺を見ている。


「だめ……ですか?」







 店を出ると、ホッグスが山際に公園があると言い出した。

 そこへ向かっている時、ラリアは俺たちの前方を跳ねるように歩いていた。


 そうして立ち止まると、振り返って言った。


「この帽子、カッコいいですか?」


 黒い帽子のつばを両手でつまんで。

 ホッグスが肘で俺をつついた。


「ああ。よく似合ってる」

「強そうですか?」

「ああ。Sがたくさん付いてそうだ」


 俺がそう言うと、ラリアは笑ってナヤートと手をつなぎ歩き出した。


 公園はちょっとした林のようになっていて、太い木の枝からぶら下げられたブランコが幾つもあった。

 ラリアはそのひとつに走っていって座る。ホッグスが押してやれと言うので、俺はラリアの背中をそっと押した。


「マスター、もっと強く押してくださーい!」


 言われたとおり強めに押すと、ブランコはブランコとしての仕事をやり始めた。

 ラリアは楽しそうに笑っていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 何なのだ、この和やかな話は。涙出そう(´;ω;`) バケツをかぶった人というとコレを思い出します。(転載ですが) https://www.youtube.com/watch?v=wd-xP…
[良い点] クーコさん、まるでお母さんみたいですね 朴念仁の旦那さんにもっと言ってやって下さい
[良い点] ホッグスねーさんが凄くお母さんしてru……ゲフンゲフン [気になる点] 良くも悪くもロっさんの生前が気になり始めましたね。 あまりにも他人との関わりを避けて断ち切ろうとしているのは、元々の…
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