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第268話 魔王との共闘


「おい、何をやってる、どういうつもりなんだ!」


 俺は魔王に詰め寄った。

 いきなりの攻撃、いきなりの殺害だった。

 魔王はチラリとこちらを見たが、すぐにもうもうと立ち込める水蒸気に視線を戻し、


「問題ない」


 そう言った。


「問題ないわけないだろう、彼らは転生者だぞ! 俺は彼らもゴースラントに連れていくためにここまできたっていうのに……それにいきなり殺すなんて正気か」

「だから問題ないのだ、この程度。見よ」


 魔王は蒸気を指差す。

 その煙は晴れてきたが……。


井染(いそめ)一家はウォーターシールドのスキルを発動しています》


 その中には、大きな水の泡に包まれた井染一家がいた。


「くそっ、アカツキさんよぉ、ひどいことするじゃないですかぁ〜!」


 井染一家は息を荒げていた。

 よく見ると、彼らの周囲の水面には焼け焦げたゴカイが数匹浮かんでいる。


「手加減はしたろうが」

「な、なにを……」


 井染一家の顔もやや焼け焦げているように見えた。手加減? したようには見えなかった。


「井染よ。そもそも我らを攻撃してきたのはそっちが先だろうが。皮をかぶれば人間になれるだと? アホらしい。誰の入れ知恵だ?」


 井染は魔王を睨むだけで答えない。


「まあよい。人間になるのなんてゴースラントにいって日本へ戻ればまた元の姿に戻れようが。そうだよな、ロス? そういう話なんだろ?」


 魔王はこちらを見た。


 正直なんと答えようか迷った。

 ゴースラントへいけば日本へ戻られる。たしかにそうは聞いている。

 だが……だ。どういう形で『戻られる』かまでは聞いていなかった。そもそも我々は……。


「もう死んでるんでしょ?」


 言ったのはメリナだった。


「みなさん転生者は前世で死んだからここにいる。だから転生した者って呼ばれてる……」

「言葉のうえではな」魔王が言った。「それがどうした」

「死ぬっていうのは肉体が滅ぶこと。違う?」


 メリナは真っ直ぐに魔王を見ていた。白い顔の無表情。


「どうやって戻るの? 戻ってどうなるの? 元々のみなさんの肉体はもう壊れてるはず。戻っても生きることはできないはず」


 誰かの唾を飲み込むような音がした。振り返ってみるとトンプソンがそうしたようだった。


 たしかにそのとおりだった。

 メリナが言った懸念はたしかにあった。俺の前世の肉体は首の骨がへし折れていたはずだ。このまま戻るということは首の折れた死体に戻るということであり、もしそうなればまた死ぬだけなのだ。


 魔王が俺を見ていた。

 俺に説明してもらえると思っているのだろう。だが俺もそんな答えは知らないのだ。


 何か詰問するような声を聞くことになるかと思った。だが魔王はそのままメリナに視線を戻した。


「そなたが心配するようなことではない。そなたにはわからん話だろうが、我々の今の肉体は我々自身のものではない。我々は保存されているだけだ。この世界はたんに我々という概念を保存するために存在しているにすぎない。我々の居場所ではないのだ」


 メリナは無表情のままに首をかしげた。

 魔王はもう1度こちらを向き尋ねた。


「ロス。ゴースラントにいけば帰れると言ったのはそもそも誰なんだ?」

「スピットファイア……いや、この異世界を創造したらしい、吐院火奈太という少年……」

「やはりか!」


 魔王は唐突にメリナに向き直り、


「手はずが整ったということだ。我々は帰れる。あの少年が帰れると言ったからには帰れるということだ! とにかくきっと何か方法があるのだ。であればメリナよ、もはや問答は無用。井染もダダこねてないでこんなことは終わりにしよう」


 やはり。

 とはどういうことだろうか。


 そういう疑問が浮かびはしたが、それをよそに魔王は説得を続けている。


 しかしメリナと井染一家は何も応えない。

 ただ無言だった。

 魔王もしばし押し黙った。そうやって井染一家を見つめていたが……やがてため息をついた。


「よろしい、よくわかった。ではうぬはここに残れ。勝手にしろ」

「おい魔王さん」俺は言った。「それは……」

「ここに置いていこう。帰りたくないと言うんだ、好きにすればいい」


 魔王は少しだけ、チラリと後ろ……ハルを見やってから、またメリナへ向き直る。


 そしてこう言った。


「勝手にヴァルハライザーの中に残っていろ。この偽物のあの世にな。だがメリナ、そなたは別だ。そのよくわからんヤモリは取らせてもらう。そのうえで《ストーンルーム》を解除させ、我々はここを出ていく」

「嫌だ、いかないで」

「もはや説明するつもりはない。そなたは今正常じゃないのだ。手荒な扱いにはなるが……」


《魔王バルバロッサはアルティメットサタニックグレイトフルオウサムダークネスマーシャルアーツ、あるいは暗黒魔闘拳とも呼ばれている、のスキルを発動しています》


 魔王の両拳から黒色の、たぶん暗黒魔闘気と言うんじゃあないかと思われるオーラが立ち昇る。


「我が前に力づくで屈服させてくれよう!」


 黒い影を空間に引きながら魔王はメリナに疾走した。


 メリナには対応できないスピードだったのか彼女は驚愕めいた表情を浮かべあとずさる。


《井染一家はボビットワーム・ジョーのスキルを発動させています》


 まただ。井染一家を構成するゴカイのうち数匹が鞭のように魔王を襲う。魔王の方は暗黒魔闘気をまとった暗黒魔闘的動きで迫るゴカイを残らず切断せしめた。


「井染! まだ邪魔をするかこのバカ!」

「アカツキさんん……あんたの方こそ自分の愛人を殴るってんですかぁ〜⁉︎」


 一瞬のことだ。すっ転びかけていたメリナが体勢を整え、


《不正な妨害が行なわれています。魔王バルバロッサはスキルを発動できません》


 ヌルチートの赤い瞳が魔王へと向けられた。


剣聖(ソードマスター)・ジュージュツのスキルが発動しました》


「魔王! メリナは任せろ!」


 俺はそう言って走り出しつつ、


「ハル、こい!」


 背後へも声をかけた。

 井染一家のゴカイの鞭は速い。ラリアを投げた時に妨害されるとしたら厄介だと感じた。ここは念のためハルを加え2対1で確実に仕留めるべきだろう。メイド服の少女に大の男ふたりがかりとはおとなげないがこれは戦争だ。


 魔王は俺たちから見て右側にいた井染一家の方へ向きを変え、俺は入れ替わりにメリナへと向かう。


《不正な妨害が行なわれています。スキルを発動できません》


 ヌルチートの目が俺に向いた。

 許容範囲だ。


《ハル・ノートはプロジェクト・フィラデルフィアを発動しています》


 最近の若者は何事につけあまり動きたがらないという噂を聞いていたが、ハルは走るのすら面倒だったらしい。すぐさまメリナの背後に人型の砂嵐が出現。


 背後を取った。


《メリナはイントルーダースイーパーのスキルを発動しています》


 メリナの目の前の空間から(ほうき)が現れた。

 彼女の手に取られた箒の先は黒いオーラをまとっていて、それが弧を描き俺とラリアに振るわれた。

 メリナは背後のハルに気づいていないようだ。スキルを使えない俺はメリナの攻撃を防ぐことはできない……。


「ふんッ!」


 魔王の暗黒魔闘キックが箒を跳ね上げた。彼の手の方は無数の引き千切られたゴカイを掴んでいる。メリナは武器を蹴り上げられた衝撃で水の中に尻餅をつく。

 俺は言った。


「よし、ハル! 今だ!」


《ハル・ノートは無詠唱(スペルレス)のスキルを発動、レーザ………ルェ、れえ、れ》


《不正な妨害が行なわれています。ハル・ノートはスキルを発動できません》


 メリナの背後でハルは立ち止まった。

 ハルはレーザークローを出現させようとした自分の右手を見ていた。そこにはハルの、普通の手があるだけ。


 俺は尻餅をついたメリナを見やる。

 彼女の背のヌルチートがハルを見たのなら、俺がやるだけの話だった。


 だが。

 だがメリナのヌルチートはまだ俺の方を向いていた。


 俺は周囲に素早く視線を飛ばした。

 どこかに最後の女。ロザミアがいると思ったからだ。ふたりの転生者のスキルを同時に封じるにはそれしかない。


 水牢の見える範囲にあのお姫様の姿はない。


「ぐわッ!」


 魔王の声だった。

 そちらに目をやると、魔王が井染一家を前にして、左肩を手で押さえている。

 肩からは血が噴き出していた。


「う……うぬは……⁉︎」


 井染一家がやったのだろう。

 奴らのゴカイの動きが魔王の暗黒魔闘の凶拳を上回ったのだろうか? 魔王はすぐさま、


《魔王バルバロッサは無詠唱(スペルレス)のスキルを……》


 魔法を発動……、


《不正な妨害が行なわれています。魔王バルバロッサはスキルを発動できません》


 何も起こらなかった。魔王は左肩を押さえたまま立ちすくんでいた。


「…………ロスよ、訊いていいかな?」

「……何だろう」

「我輩はヌルチートに関してはさほど詳しくないわけだが……ヌルチートは1匹で複数の標的のスキルを封じられるのかね?」


 以前1度、そういうケースはあった。


 ガスンバの森で、魔女の子供と称するアップルなる少女が造り出した昆虫と混ぜ合わされた複眼のヌルチートだ。

 あれはたしか、同時に俺たちのスキルを封じていたはず。


 だがメリナのヌルチートは普通の、一般的なヤモリだ。瞳も複眼ではない。

 俺は魔王に答える。


「そのはずだが……」

「だが現実問題我々3人のスキルが同時に使えなくなってるんだが……?」


 そのとおりだった。

 仮にこの場にロザミアがいたとしてもヌルチートは2匹。

 3人同時など不可能だった。


「……知りたい? 魔王様……」


 メリナが水から立ち上がった。あまり重要なことではないが、彼女のスカートは水に濡れて尻にぴったりはりついていた。だからどうだということもないのだが。


「イソメ。見せてあげなよ」


 メリナがそう言うと、井染一家の3人は……あり得ないほど大きく口を開けた。

 顎が外れているんじゃないかというほどにだ。横幅も人間の口の大きさとは言えなかった。


 そしてその中から這い出したものがあった。


 ヤモリ。


 通常のヌルチートと比べればやや小さいが、それでも大きく広がった井染たちの口をふさげるほどの大きなヤモリ。


 瞳は赤く光って、俺たちを見ていた。


 メリナがくすくすと笑いながら言った。


「魔王様。逃がさない。ずっとここにいてもらうんだから。ずっと。ずっと」




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― 新着の感想 ―
[一言] イソメで検索したらゴカイみたいなもんじゃないですかーーーーーーーーーー!!!!!!
[良い点] スキアナ先生が暗黒魔闘拳に変換したということはロス・アラモスにはこのグレイトフルなステキオーラに通じる何かを知っているのだろう さすがは至高の前髪が持つ至高の知性
[一言] ロスさん、魔王様のステキ厨二ネーミングな必殺技を言い換えるんじゃ無いww
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