第260話 猛攻! ダークネススキル!
「ヴィエラ……なに手こずってるの……?」
空飛ぶ魔族少女の言葉にヴィエラが答える。
「リリアンヌ、助かったわ……こいつら手強いのよ!」
空中の彼女、リリアンヌというらしい。俺が下にいるせいか彼女は黒いゴシックロリータ風ドレスの裾を手で押さえ、中がこちらから見えないようにしていた。
「しょせんは人間……と、ゴブリン……私たちの敵じゃない……」
そんなに俺に下着を見られるのが嫌なら降りてくればいいものを、リリアンヌは空から俺を見下ろすのみ。なんだかエスカレーターの前に乗っているミニスカートの女子高生を連想した。後ろ手にカバンで尻を隠すあれらのことを。
それはそれとして面倒だと感じた。
降りてくれば手が届く。だがあの高さではラリアを投げるかショットガンで撃つしかない。
並みの人間ではない魔族のことだからどんな隠し球を持つかわからないので、ラリアを投げたくはない。かと言ってあんな女の子をハチの巣にするにはロス・アラモスは紳士的すぎた。
俺は空中廊下から下をのぞいた。
中庭の茂みが見えるが、落ちていったパンジャンドラムの姿が見えない。
《ウェイブスキャナーのスキルを発動しました》
壁の反響が彼の姿を捉えた。
空中廊下の裏側だ。彼はどうやら、なんらかの方法でそこにへばりついているらしい。
彼のライフルは非致死性のブアクア弾頭。リリアンヌは彼に任せたい。
となると、俺の相手は同じ空中廊下にいるヴィエラだろうか。彼女は相変わらず魔法のポリゴンに覆われている。
と、その時だ。
《リリアンヌは魔法を発動しようとしています》
上を見やる。大鎌をぐるぐると回転させるリリアンヌ。その鎌から、なにやら黒い炎のようなものが発生している。
脳裏に、彼女たち魔族ハーレムが広範囲魔法とかいうものを使うと言った魔王の言葉がよぎった。
味方ごと撃つ気だろうか? 廊下上のヴィエラに視線を飛ばした。彼女はポリゴンドームなるバリアの中。なるほど。
《リリアンヌの魔法。フライングスーパーエターナルダークネスシックル》
ちょっと首をひねりたくなるようなネーミングセンスの魔法がついに発射された。
黒い炎が幾つにもわかれ、鎌のような形となり回転。高速でこちらへ飛来する。
数的に中庭の吹き抜けスペース全体をカバーしているフライングスーパーエターナルダークネスシックルは、廊下上の俺に逃げ場を与えるつもりはないらしい。
《パンジャンドラムはレギオンを発動しています》
突如、廊下の裏側から大量のゴブリンズが現れた。
ゴブリンズは廊下の表へ登ってくるとそれぞれが肩車を始め、俺にかぶさるように陣を組む。
ガスンバで火山弾すら防ぎきったゴブリンドームだ。フライングスーパーエターナルダークネスシックルの攻撃を受けたゴブリンズの悲鳴が聞こえるが俺は無傷。
攻撃がやみ、生きているゴブリンズは道を開けた。
俺はショットガンを撃つ。
弾丸はヴィエラの、俺から見て左の壁に当たる。壁の破片がはじけサッカーボールほどの大きさの弾痕を作ったのみ。
「下手ね。もっとよく狙いなさいな」
嘲笑は聞き流した。1発目は当てるつもりなどなかった。2発目は、お言葉に甘えてよく狙った。
ヴィエラを包むポリゴンドームの左端。ごっそりとヒビが入る。
「きゃっ⁉︎」
もう1発。
ポリゴンドームの一部が砕け、ヴィエラは尻餅をつく。
最初の1発はたんにショットガンからどんな弾が出るのか知りたかっただけだ。
俺がパンジャンドラムと初対面だった時は、この銃からはゴム弾が出ていた。今撃ってみれば、壁の弾痕が散弾であることを俺に教えた。
そこで把握した散弾の拡散性を計算に入れた上で、散弾がポリゴンドームをかすめるように撃ちたかったのだ。
そしてそれは上手にできたらしい。
「ヴィエラッ!」
リリアンヌが叫んだ。下降してくるようだ。俺はそれに構わずショットガンを連射しながら歩く。ヴィエラのポリゴンドームが次々に砕けていく。
俺の頭上に影が差した。
「死ねッ!」
リリアンヌだろう。たぶんあの大鎌とかを俺に振り下ろそうととかそういうことをしているんじゃないだろうか。
だが実際にはその凶刃が俺に触れることはなく、ただ頭上で金属音がしただけ。
素早く廊下表に躍り出たパンジャンドラムが、跳び上がって大型ナイフで防いでくれたのだ。
俺がショットガンをブッぱなし続ける間も頭上で連続的な金属音が響く。
「うっ、ゴブリンめ……!」
「武器を捨てなよ、痛い思いさせるのはあんまり好きじゃないんだ」
「ヴィエラ! 《ラビリンス》で逃げて……!」
うずくまるヴィエラは、
「あ、あなたはどうするの! 2対1になるわ!」
「私は負けない……こんな奴らなんかに……!」
《リリアンヌはハイスプレンディッドダークネスサイズのスキルを発動しています》
正直スキルとしてどの程度のレベルにあるのか名称からはさっぱり推測できないが、とにかく腕に覚えがあるらしい。パンジャンドラムも《剣聖》を発動しているが、一息で仕留められていないところを看るとだ。もっとも空中を飛べる相手だから彼のナイフが届かないだけかも知れないが。
俺の方では弾が切れた。
だがヴィエラまで2メートル。あとは直接拳でポリゴンドームを叩き割ってやろう。ショットガンを投げ捨て走る。
《ヴィエラはラビリンスのスキルを発動しています》
間に合わなかった。ヴィエラと廊下が黒い霧に包まれる。
足場が消えた。
いや、別の廊下と入れ替わった。
今まで前に伸びていた廊下が次は横向きのものとなった。しかも右から左へ急傾斜で下る構造。
「うわぁっ⁉︎」
パンジャンドラムと俺、そしてラリアは傾斜を転がり落ちる。
「ふん!」
リリアンヌがほくそ笑んで上昇。
《リリアンヌはフォービドゥンポイゾナスダークネスニードルのスキルを発動しています》
彼女の背中から、植物のツタのような黒い線が複数伸びた。
それらはリリアンヌを中心に八方へ広がったが、先端が急速に向きを変えこちらへ迫った。
ツタには棘が無数に生えているのが見える。
これならなんとなくわかった。以前出会ったタイバーン王国のお姫様が使っていた、ナントカいうスキル(ロイヤル・リストレイント?)の上級スキルではなかろうか。
《パンジャンドラムはレギオンを発動しています》
再びゴブリンズが現れ、斜面を駆け上がり壁になろうとした。
だが《フオービドゥンポイゾナスダークネスニードル》の黒いツタはゴブリンズを突き刺し、まるでドリルのように貫通。次々と貫いてとどまることを知らなかった。
なるほど。先ほどの魔法が通じなかったので趣向を変えたらしい。
俺たちは転がり切って、壁にブチ当たる。
「パンジャンドラム。ナイフを貸してくれ」
「はいよ」
大型ナイフを受け取る。
《剣聖のスキルを発動しました》
斜面を少し登る。迫るニードルを片っ端から切り落とす。
背後で発砲音。パンジャンドラムのライフル。
「あッ……!」
リリアンヌの右の翼に着弾。
空中の彼女がぐらついた。




