第258話 劇的! ラビリンス!
螺旋階段を下りきって、魔王の案内に従って下階を目指す。最後の転生者のいる水牢は要塞の1階の、半地下の部屋だそうだ。
「や? おかしい……」
ホテルのロビーめいた大広間。大きな階段のある部屋で魔王が呟いた。俺たちは立ち止まる。
「どうした?」
「妙だ。間取りが違うような……あそこに花瓶があるだろう?」
魔王が示したのは、大階段を向いて左側。たしかに壁際に花瓶が置いてある。
「花瓶の隣りに通路があったはず。だがふさがっている」
「どういうことだろう」
「……女たちの1人がまたラビリンスを動かしたのだ!」
「さっきの部屋か?」
先ほど俺と魔王はラビリンスの制御室から出てきた。その後すぐに誰かが入ったとして、そう早く動かせるとは思えなかった。それに要塞が動く物音もしなかったような。
「紫色の髪の女がいただろう。ヴィエラという名だ。実を言うと、ラビリンスはヴィエラのスキルなのだ」
それから、魔王は俺に、部屋を見回したいから自分の頭を動かしてくれと頼んできた。
俺がそうしている間にさらに続ける。
「制御室はヴィエラのスキルをヒントに、誰でも操作できるよう作ったものにすぎん。おそらくヴィエラがラビリンスを発動したのだ。我々をここから出したくないのだろう」
その間も、魔王は部屋を見回し、他の通路を探したいようだった。
ハルが言った。
「じゃあ水牢とかいうところにはどういけば……ナヤートちゃんがそこにいる、いかなきゃ」
「うーむ、制御室で変更したのなら我輩も少しは想像がつくが……ヴィエラが動かしたとなれば、ちょっとなぁ」
俺は言った。
「《ウェイブスキャナー》ならどうだろう? ここは君の家のようなものだ、間取りが変わっても水牢の方向ぐらいはわかるだろう。1階全体を把握してから、近そうな道を探せば……」
「おっ、冴えてるな! よし……」
《魔王バルバロッサはウェイブスキャナーのスキルを発動しています》
魔王が脳内地図を作り上げるまで少し待つ必要がありそうだった。俺やハルは周囲を見回し、女たちがきていないかどうか見張る。
だが、魔王が「うっ!」と呻いた。
「ロスよ、上だ! 階段の陰に誰かいる!」
大階段は広間の中央から壁まで続いた後、そこから左右に分かれる形。
お城によくあるやつだ。俺もハルやトンプソンも波動探査を開始する。
たしかに階段上右側、柱の陰に誰かがいる。
1人だ。そいつはさらに階段奥の廊下へ逃げ去った。
「うむむ、身長からいってヴィエラだな、逃げよった……あっ!」
魔王が叫んだ。
「どうした?」
「また間取りが変わった! ヴィエラめ、《ラビリンス》を使ったな! いちから探査し直しだ!」
俺はハルやトンプソンと顔を見合わせた。
「そのヴィエラとかいう女、どういうつもりなんでしょうな?」
「俺たちを水牢へいかせたくないんだろうな。魔王さん、《ラビリンス》はそれほど何度も模様替えできるのか?」
「うむ……特に制限はないはず」
「このぶんだと、パンジャンドラムやウォッチタワーも混乱しているかも知れんな……」
あの2人はおそらく今ひとりでいるはず。彼らとも合流しなければならないが……。
「あの、ロスさん! 早くいかなきゃナヤートちゃんが……」
「晴人、落ち着きなさい。ナヤートちゃんだって転生者だ、しかも最後の転生者も一緒だそうじゃないか。そうでしょうロスさん?」
「ああ……」
「相手がヌルチートを持っているといっても、なぁーに全員で4匹。今のヴィエラとかいうのを抜いて3匹です。転生者は水牢の人で最後なら……」
トンプソンは続けた。
「3人いるということでしょう?」
彼の言いたいことはわかった。
俺たちはスピットファイアから、『4人の転生者が魔族の中にいる』と聞いてきた。
4人のうちの1人が魔王バルバロッサ。では残りの3人は水牢に……?
「魔王さんよ」
「なんだね」
「転生者は3人いるはずだ。全員が水牢に?」
「ああそうだ。残念ながら」
「つまり……あのゴカイ……」
「……ああ。残念ながら」
ハルが、
「何ですか? ゴカイって……?」
そう尋ねるのを遮りトンプソンが言う。
「やっぱり! では4対3でナヤートちゃんの方が有利でしょう! 晴人、そう慌てるな」
だが魔王が言った。
「そう簡単ではないぞ。ロスさんには話したが、水牢はなんせ転生者を閉じ込めるためのブアクア製の檻だからして……」
トンプソンが怪訝な顔をしていたので、俺からざっとブアクアの性質について説明した。もちろん彼の息子がこの間それと同じ仕組みの牢に捕まっていたという体験談は抜きにしてだ。
「転生者の力はほぼ削がれていると考えていい。もちろんそれは牢に入ったメリナとて同じではあるのだろうが……」
だからこそ、魔王はそれが不気味だと言った。ブアクアの檻にまでいき何をたくらんでいるのかと。
顔を見合わせるハルとトンプソン。
俺は魔王の首をハルに渡した。
「ロスさん……?」
「ハル、俺はヴィエラを追う。彼女を気絶させて《ラビリンス》を解除させる」
「ひとりでいくんですか⁉︎」
「ラリアも一緒だ。それにパンジャンドラムやウォッチタワーも探さなければ。君はトンプソンと一緒に魔王さんを手伝って一応水牢へ向かってくれ」
それからトンプソンを向いて、
「仲良く頼むぞ」
そう言ってから大階段へ走った。
階段を上りきり廊下を走る。
左手には大きな窓が並び、その向こうが見えた。
窓の外は中庭のようだ。
下は1階。木が生い茂っているのが見える。上は四方に壁が続き、狭い空間に空の光が差し込んでいる。
俺がいる廊下は50メートルほど奥で左に折れ曲がる構造で、窓から見ればさらにその先でも左へ曲がる形。そうやって四角で囲んだ壁が中庭を形成している。
ふと、中庭を挟んだ反対側の廊下に人影があるのに気づいた。
紫の髪の女。ヴィエラだ。
向こうも俺に気づいたようで、こちらに妖艶に微笑むと、俺から見て左へ駆け去っていく。
あの微笑み方。俺が廊下を回っていかなければならないから逃げる余裕があると思っているらしい。ロス・アラモスもナメられたものだ。
《ウルトラスプリントのスキルが発動しました》
窓を蹴破り、窓枠に足をかけて跳んだ。中庭の林を跳び越え反対側へ。窓に飛び蹴りを食らわし廊下に着地。
廊下ではヴィエラが目を丸くしてこちらを見ていた。
俺は言った。
「やあこんにちは。《ラビリンス》を解除してもらおうか」
挨拶はそのぐらいにして俺はヴィエラへ疾走。
《ヴィエラはラビリンスのスキルを発動しています》
突然、ヴィエラのいる廊下の四方が黒い霧に包まれた。
直後、ヴィエラが消える。
それだけではない。ヴィエラの立っていた廊下がごっそり消滅した。そのかわり、廊下ではなく下りの階段が現れる。
とにかくヴィエラが消えた。俺は背後を振り返ったりして彼女の姿を探したが、
「マスター、あそこ!」
ラリアが窓の外を指差した。
俺たちがいる場所は2階だが、中庭の3階辺りの壁から廊下が中途半端にせり出していた。
その上にヴィエラが乗っている。消えた廊下があそこに移動したのだ。
「匠の技か。面白い」
ヴィエラは廊下を走り窓を開けて3階へ。
俺は窓から出て、空中の廊下へ跳んだ。




