第257話 最後の転生者
「これだ。この装置だ」
廊下を右へ左へ、階段を上ったり下りたりしたあと、俺とラリア、そして首だけ魔王バルバロッサは、防御システムラビリンスの制御室へとたどり着いた。
制御室の中は、正面の壁に水晶玉が埋め込まれている。
横に4列、縦に3列、計12個の水晶玉。
魔王はそれがモニターだと言った。たしかに水晶玉を見ると、廊下の角やどこかの部屋の映像が映り込んでいる。
その水晶玉の下に、制御パネルの台があった。
「勇者よ。汝の名前訊いたかな」
「ロスだ。ロス・アラモス」
「ロスよ。要塞内の構造が元に戻れば、あの女たちも我々がここにいるということを感づくだろう」
魔王は額に汗をかいていた。
俺は尋ねた。
「仮にだ。仮にヌルチートがなかったとして、君はあの女と何人までなら戦えるはずだった? 仮にも魔王にはべる女なんだ、やはり並みの魔族とは違うものか?」
「たしかに彼女たちは他の魔族とは一味違うが、あの忌々しいヤモリさえいなければまとめて相手をしても問題ではない」
では俺が転生者だとバレさえしなければ俺ひとりでも倒せるか。ラリアの出番まではないかも知れない。
俺は水晶玉を見てみる。
1番下の列、右から2番目の水晶玉に釣り階段が映っている。
パンジャンドラムがキョロキョロしながら走っているのも映っていた。
俺はそれを指差し、
「彼は仲間だ」
「ゴブリンがか?」
「18年ぐらい前はもっと違った容姿だったらしい」
「我輩もだ。20数年前は……なるほど、そういうことか。他の仲間もつまり我輩と同じ……」
魔王は声をひそめ、
「汝が自分のことを語りたくない理由がわかったよ。つまりあの女たちに知られれば、あのヤモリに……」
「そういうことだ」
「ひょっとしてみな我輩と同じ力を持つのか? これは頼もしい。ロス氏よ、もしどうしてもという時は我輩の舌を引っこ抜くがいい。そうすれば我輩は秘密を漏らせなくなるだろう」
「前向きに検討しておく」
水晶に映る他の区画をざっと見回す。パンジャンドラムがいるのはわかった。他のメンバーは……。
「……ミスタ・バルバロッサ。これは何だ……?」
最下段左端を指差した。
床が水浸しになった広い空間が映っている。
そしてそこに、何か巨大な……なんと言うべきか、ロープの塊のようなものがある。もぞもぞと蠢いている。
「ああ……そいつだ。そこは地下の水牢だ。そいつが……我輩以外の転生者だ……」
俺は腕の中の魔王の首を見下ろした。
「何だと?」
「転生者だよ」
「あのインスタントラーメンのふやけた麺みたいな塊がか?」
「そうだ……ゴカイってわかるかね?」
「……釣りに使うミミズみたいな餌のことでいいのか?」
「そうだ。ゴカイの魔獣なのだ」
俺はもう1度水晶を見る。
ゴカイの魔獣……水晶の画面が小さくてよく見えないが、言われてみればたしかにそういったものが絡み合っているように見えなくもない。
「…………人間じゃないのか?」
「うむ……かわいそうに……」
ラリアが、「うえ……」と呻いた。
気持ちはわからないでもない。パッと見もつれ合うミミズの群集なのだ。しかもデカい。
「むっ⁉︎」
今度は魔王が呻いた。
「あの女の子は……?」
ゴカイの水牢を映した水晶玉。2人の少女の姿がフレーム内に入ってきた。
肌の浅黒いダークエルフ。
「ナヤートだ。俺たちの仲間だ」
「見ろ! もう1人の方!」
水晶玉の中のナヤートはゴカイを見て後ずさったが、さらに水牢内にまた誰かいるのに気づいてそちらを見た。
ナヤートの向かいにいるのは、青い髪のメイドだった。
「メリナだ! あいつ水牢で何をしているのだ⁉︎」
「ラビリンスを解除するのとしないの、どちらが早くあそこへたどり着ける?」
「あー……ラビリンスが発動すれば水牢に誘導される区画もある。だが解除した方が早い。やろう!」
俺は魔王の指示に従い制御パネルを操作した。
要塞全体を揺るがす音と振動がしばらく続く。水晶玉の中のパンジャンドラムが、釣り階段の鎖に掴まりキョロキョロしている。
振動が止まった。
「よしいこう! 我輩が案内する!」
「ああ。転生者とバレていないならナヤートがやられるとは思えないがな」
俺はラリアを左腕に掴まらせたまま、魔王の首を抱えて制御室を飛び出す。
だが魔王はこう言った。
「……だといいがな」
廊下を走りつつ尋ねる。
「どういうことだろう?」
「……メリナがあの転生者に近づいた理由がわからん……今まで毛嫌いしていたくせに……」
「あちらにも逃げられないようにじゃないのか?」
「それなら逆に問題はないが……」
「……?」
「……いや、何でもない。そこを左だ」
言われたとおり角を左へ。下りの階段を駆け下りた。
しばらく進むと今度は吹き抜けの中に3つの螺旋階段がある場所に出た。
魔王はその下だと言うので階段のひとつを下りるが、吹き抜けに話し声が反響しているのが聞こえた。
下の方。言い争う声だ。下を覗き込む。
「父さん、下だったら! ナヤートちゃんを探さなきゃ!」
「なぁーにをおまえ、晴人、ロスさんとパンジャンドラム君は上に連れていかれたんだ、上にいかなきゃならんだろ!」
「けど俺とウォッチタワーさんは下にいたんだよ⁉︎ そこでナヤートちゃんは……」
ハルとトンプソンだ。
俺は魔王に彼らが仲間だということを伝えたあと、螺旋階段の手すりを拳でノック。音に気づいた2人はこちらを見上げた。
「おっロスさんご無事でしたか!」
「ロスさん……」
運動スキルを発動して、別の螺旋階段にいるハルたちのところまで飛び下りる。手すりに着地した。
「2人共、手短かに言う。ヌルチートがいる」
「えっ!!!」
「4人の女だ。うち3人が魔族」
「あっあっロスさん、その頭は……⁉︎」
「やあこんにちは。我輩は魔王バルバロッサ。簡単に言うと捕虜である」
「生きとるんですかこれ」
「聞いてくれ。この魔王さんが転生者。例によって例のごとく捕まっていたところを助けてきた」
ハルとトンプソンがごくりと唾を飲み込む。
「みんなと合流してからの方が楽だと思ってとりあえず逃げてきた。要塞内の迷路も解除した。それで……」
「それで?」
「最後の転生者が下の方の水牢という部屋にいるのがわかった。ナヤートもそこにいるようだ」
「あっ、合流したってことですか……」
「迷い込んだと言った方が近いようだ。問題なのは、その部屋にヌルチートに取り憑かれた女の子も一緒にいる」
「うっ……!」
俺は吹き抜けの下方を指差し、
「俺たち転生者はちょうど4人。ラリアもいるし、正体も掴まれてないから有利ではある。だがナヤートとも合流すればもっと有利になる」
ハルがうなずいた。
「道は魔王が案内してくれる。いこう」
俺はそう言って、螺旋階段を飛び降りた。




