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第252話 魔王の要塞 2F


「ロスさん、これは……?」

「合成魔獣の製造ポッドだ。ご存知ない?」


 トンプソンは首を横に振った。

 どうやらトンプソンが住んでいたペリノアド国は合成魔獣及び召喚獣は一般的ではないらしい。


 俺は彼に簡単に説明した。彼を苦しめたヌルチートもまた合成された召喚獣であることも。


「……ではこれらはいったい……」

「どうやら魔族の軍勢はほとんど合成魔獣で構成されていたらしい」

「えっ。では魔族とはみんな作り物……?」

「少なくとも作った奴はいるだろう。それにオルタネティカ帝国には魔族のスパイも入り込んでいた。奴らは合成魔獣にしては高度すぎたな」


 そうやって話していた時だった。

 突然周囲のポッドが蒸気めいた煙を吹き始めた。そして蓋が開いていく。


 中から猿の兵士たちが現れた。


「2人とも、そいつらは任せた。俺はポッドを破壊する」


《パンジャンドラムはレギオンを発動しています》


《トンプソンはO・デストロイヤーを発動しています》


 ゴブリンズと猿兵士たちがギャアギャアと取っ組み合いをおっぱじめたなか、


《ザ・マッスルのスキルを発動しました》


《パウンドフォーパウンドのスキルを発動しました》


 俺はポッドをブン殴り壊して回る。ちょいちょいポッド同士の隙間をぬって猿兵士が現れたがそれもあしらいつつだ。

 広間にあるポッドのぶんしか猿兵士はいなかったのですぐ片付いた。


 部屋の左側には巨大な機械がある。

 おそらくこれは大亀を造るポッドなのだろう。

 パンジャンドラムがアイテムボックスから、幾つか樽を取り出した。

 俺の膝の高さほどの大きさの樽だ。彼はそれをゴブリンズに運ばせ、巨大ポッドのそばに配置させていく。


 さらにパンジャンドラムは俺たちを、きた方の通路へ呼び、耳をふさぐように言う。

 トンプソンは耳をふさいだ。俺は音量調節のスキルを使いつつラリアの耳をふさぐ。それを目で確認してから、パンジャンドラムはライフルで樽のひとつに弾丸を撃ち込んだ。


 大爆発。巨大ポッドは全て粉々に吹き飛んだ。


「いこう」


 パンジャンドラムは偵察用のゴブリンズを残して《レギオン》を解除し、余ったゴブリンズを消す。俺たちは通路の奥へ向かった。


 通路の奥にはまただだっ広い殺風景な空間があった。

 そこは天井の高さは平均的で、ポッドなどがあるわけではない。

 ただ藁のベッドめいたものがたくさん並んでいて、床には動物の毛のようなものが落ちている。


 どうやら猿兵士の待機場所らしい。


「寝泊まりしてるってことは召喚獣ではないんだね」

「そのようだ」


 そもそも召喚獣にするための手続きだとかの話を聞いたことがないな。俺たちはさらに先へ進む。

 石造りの廊下から階段を上る。

 今度は、右の壁が一面開け放された場所。海が見える。なかなかの見晴らしだ。方向はどうもカシアノーラ大陸を向いているようだ。椅子がふたつ、海へ向けて置かれている。

 他の3面の壁には植物の蔦がはっていた。


「ウォッチタワーたちはどこだろうな」

「んー……向こうにもやっぱり合成兵士のポッドがあるのかねえ」

「だと思う。こっち側から亀は向こうへいけないだろうしな」


 要塞の両サイドから出撃するのなら、おそらく反対側にも兵の溜まり場があるかも知れない。ウォッチタワーがポッドを腕力で破壊しまくっている絵面を想像した。ハルとナヤートは魔法を使えるから、ひょっとしたら俺より早くポッドを片付けたかも。


 そう考えつつ、海が見える部屋でゴブリンズが先へ続く通路の安全確保をするのを待っていた。


「あのぅ……パンジャンドラムさん」


 トンプソンがボソリと呟いた。


「なに?」

「今まで言いそびれていたんですが、以前はその……ご迷惑をおかけしました」


 そう言って彼はパンジャンドラムに頭を下げた。


「えっと……何が?」

「ペリノアドでは私を助けようとしてくれたじゃありませんか」


 パンジャンドラムは首をひねって、何かを思い出すようにしていた。


 そう言えばだ。パンジャンドラムとトンプソンは1度会ったことがあるのだ。ペリノアド共和国で転生者同士接点を持とうとしたら、トンプソンのハーレムが襲いかかってきて逃げ出すハメになったとパンジャンドラムから聞かされたことがあった。


「あ〜あれね! ごめんねえ、あの時なんもできなくて……」

「いえ……先日助けていただいて、今こうしていられるわけですから……」


 それから変な間があった。

 会話が続かなかったのだ。

 俺は海へ向いた椅子に近づき観察してみた。誰が座っていたのだろうか。


「晴人は大丈夫でしょうか……」


 トンプソンが唐突に呟いた。


「大丈夫っしょ。あいつめっちゃ魔法とか使えるし。ねえロス君?」

「まあな。あれにはだいぶ手を焼いた」

「手を焼いた、とは? 息子が何かご迷惑を?」

「いや」


 それからまたしばらく無言。


「……魔法、か……」


 またトンプソンの呟き。


「信じられない世界です。まるでおとぎ話のような……」


 たしかにメルヘンチックだ。魔王の城、海へ向いた無人の椅子。フランス映画のようだ。


「晴人が帰りたがらないはずだ……」


 パンジャンドラムは何も答えず、部屋の奥の通路を眺めている。俺も何も言わなかった。何て言えばいい?


「あの……おふた方からもあいつに言ってやってくれませんか?」

「言うって」パンジャンドラムだ。「何を?」

「日本へ帰るように」

「ハルに?」

「ええ。それに、妻にも……」

「なんてさ……」

「逃げだと思いませんか? 少しばかり思うようにいかないからといって、こんなおとぎ話みたいな世界に居座って帰らないだなんて」


 俺は椅子を見ていたのだが、チラリと横目で2人をうかがうと、パンジャンドラムが俺を見ていた。見られても困る。


「しかもあんな……不倫ですよ! 私というものがありながらあんな若い男と……!」


 俺は言った。


「エルフのグスタフか?」

「そうです!」

「たぶんだがあの男、あんたより歳上かも知れないぞ」

「ええ……」

「エルフというものは長寿らしいから……」


 部屋の奥を見ると、通路でゴブリンズが手招きしている。安全らしい。


「こんなのってありませんよ。私は今まで家族のために一生懸命働いてきたんです。残業もして、会社の付き合いで飲みにもいって、日曜日にはゴルフも」

「トラディショナルだな」

「全部家族のためだったんです! それが、こんな……」

「そのせいだと思うが」


 俺は椅子から離れ通路へ向かう。パンジャンドラムはさっさと先にいってしまっている。


「どういうことですか……!」

「物事には何にでも原因があって結果がある。仏教用語で因果応報と言うそうだ。夫が仕事で帰らない。妻は寂しい。不協和音は幼い晴人少年に伝播する。そのため歪んだ成長をして……」


 俺は歩きながらトンプソンを振り返り、


「その結果俺たちは魔王の討伐に向かってる。不思議なものだな人生とは」

「何をバカな……私は家族のためにやったんだ」

「何のためにやっていようが結果は結果だ。受け止めて目の前のことに集中するしかない」

「ですが……! 私たちのような家族はどこにでもいるじゃないですか! そんな家庭に育ったからといって人殺しになるだなんておかしいじゃありませんか!」

「だから巡り合わせは不思議なのさ。集中しよう」


 再び石の通路に入った時トンプソンは口を閉じた。


 俺はこの男が家族のためだけに仕事に己を捧げていただなんて考えてはいなかった。

 能登一家はどこにでもいる典型的な日本人家族だった。家が退屈で、父親が仕事に逃げるタイプの。

 たしかにありふれている割には前世のハルの行動はまったくありふれてはいなかったが、そんなことは俺には関係なかった。


 何にだって予想外のイレギュラーはある。ただ不思議な巡り合わせによって俺たちはこの偽物のあの世にいる。ただそれだけだ。ただ偶然、ヴァルハライザーというコンピューターに少なからずの関わりがある人間が集まったというだけで……。


 階段を上る。


 いやそもそも偶然なのか?

 能登一家は全滅した結果、3人そろってこの偽物のあの世とやらにいる。

 ウォッチタワーにアレクシス、そしてマジノはヴァルハライザーの開発者である吐院火奈太少年を中心につながっている。


 ナヤートもだ。ナヤートの死はハルの死につながっている。


 そう言えばハルは、前世のナヤートを死に追いやった中学生と、その両親を殺害したということだった。


 死んでいる。

 ハルに関係の深い人物はみんな死んで異世界にいる。

 だとすれば……。


 前方で叫び声があがった。

 階段の上。上りきった向こうで姿は見えないが声はゴブリン。絶叫だった。サイレンサーの銃声もやや聞こえる。


「ロス君、何かいる!」


 俺より上にいるパンジャンドラムが銃を構えた。階段上からは剣戟の音を含む騒音。

 その音がやんだ。


 俺たち4人はじっと階段の上を見上げていた。

 静かだった。

 ゴブリンの声は聞こえないし、戻ってくる様子もない。全員やられたのか……?





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― 新着の感想 ―
[一言] >ハルに関係の深い人物はみんな死んで異世界にいる。 えっ? え?
[良い点] 至高の前髪色の脳細胞が高回転を始めたロス・アラモス! 真実の扉が開かれる目の前なのかもしれない 探偵役がきちんと考察してくれる話の構造がナイスです
[良い点]  ロス・アラモスの推理。ロス・アラモスがらしい瞬間の一つ。一人、物思いに耽る。周りに人がいるのに。率先して話し合いとかはあまり、しない。  魔族は存在しないのか。合成された何かを魔族と呼ん…
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