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第251話 要塞の中で


 リングの門から要塞までは15メートルほど。

 要塞入り口はゆるいスロープになっており、要塞側から海中まで下っている。

 そこへ小船を乗り上げさせた。


 ここは出撃口らしい。彫刻でふちどられた四角い入り口の中は、石造りの殺風景な空間。広くて高さもある空間はどことなく倉庫を思わせた。それが奥まで続いている。明かりは特にない。


 要塞の中には紫の靄は発生していなかった。


《ウェイブスキャナーのスキルを発動しました》


 パンジャンドラムとトンプソンも同様にスキルを発動させたが、特にパンジャンドラムは着ているベストのポケットからアイテムボックスを取り出した。さらにその中からペンと紙、それから板を取り出す。

 5組ほどだ。それから、


《パンジャンドラムはレギオンを発動しています》


 ゴブリンを20匹ほど呼び出した。

 そのうちの5匹にペンと紙、板を渡す。


「地形をメモっとこうかと思ってさ。あとからくる兵士たちに渡せば捗るよ」


 トンプソンが言った。


「他のゴブリンは? それに、我々はこれからどうするんでしょう?」

「他のゴブリンは偵察だよ。先に歩かせる。待ち伏せとか罠とかあってもゴブリンズが先にかかる」

「ああなるほど、カナリヤ……」

「カナリヤ?」

「ああいや、いいんです」


 パンジャンドラムはカナリヤが毒ガス探知に使われた事件を知らないのだろうか。世代というやつか。それはそれとして俺は言った。


「外の靄を発生させる仕組みを突き止め停止させるのが先か……転生者を見つけるのが先か」

「この中に……いるんでしたっけか……」

「停止させてから兵を突入させた方がいいのかなぁ?」

「どうなんだろうな。まずそもそも転生者が敵か味方かもわからない」


 2人が俺を振り向いた。


「転生者がなんの目的でこんなところにいるのかはわからないが、少なくともよそ者をここへ入れたがってはいないようだからな」


 そして、その転生者の固有スキルが不明だと俺は彼らに伝えた。ナヤートの例もある。こちらの対処が不能なスキルかも知れない。トンプソンやアールフォーさんのような、無味無臭のスキルかも知れないと。


「あ〜なるほど……だとしたら変に他の人を入れない方がいいかも知れないのか……」

「ではどうしましょう?」

「……とりあえず、反対側から入ってきてるはずのウォッチタワーたちと合流しよう。そこからまた考えるか」


 まったくのノープランで突入した俺たち。2人はうなずいた。


 パンジャンドラムはアイテムボックスから武器を取り出した。

 彼と初めて会った時ゴブリンズが持っていた、サイレンサー付きポンプアクション銃だ。5丁ある。


「戦争に備えて用意したけど、何せファイアースライムが足りなくてねえ……」


 それを15名のゴブリンズのうち、3匹に持たせる。彼はさらに剣をたくさん取り出すと、残り12匹に渡す。そして銃を持った1匹と剣の2匹からなるチームを、5組作った。


 ペンと紙の5匹もそれぞれチームに割り振り、パンジャンドラムが支持を出すと、5組のゴブリンズチームは通路の奥の暗がりへと走っていった。


 俺たちも奥へ向かうことにした。

 周囲を見回してみても特に何もない。四角い石造りの通路が延々と続いているだけ。


「広いねえ……?」


 パンジャンドラムの呟きが反響した。


「敵の中には大きな亀がいましたよ。それを通す通路なのでは」

「んー……結構いたよねえ……」


 パンジャンドラムは周囲をキョロキョロと見ながら受け答えしている。


「どうかなさったんですか?」

「いやその……あいつら普段どこでどうしてるんだろうって思って」

「ふむ? 海で泳いでるんじゃないんですか?」

「あー……いやでもさ。亀の背中には猿とかいたじゃん? 大勢いたけど、それはこの要塞の中に駐屯してたわけで」

「そうなりますな」

「この通路も明らかに亀を通すための広さじゃん。つまり亀もこの中にいたわけで」

「はあ……そうですな」

「そもそもあいつらどこからくるんだろうね?」


 前方で、ゴブリンズのチームが俺たちに止まるよう手を振っているのが見えた。

 三叉路だ。突き当たりから道が左右に分かれていて、2チームがそれぞれ違う道へ曲がって姿を消す。しばらくすると、三叉路にとどまっていた者がこちらへ親指を立ててみせる。


 俺たちも三叉路へ到達。《ウェイブスキャナー》によると左の道は幾度か角を曲がると行き止まりになっているのがわかった。パンジャンドラムは左にひと組走らせ、右の道へは2チームを先へ向かわせた。


 俺たちも右へ。


「魔族軍って、ゴースラント大陸にどこからも渡れないぐらい横に伸びて展開してるわけじゃん?」

「そういう話でしたな」

「ここも海上の要塞なわけで……補給とかマジでどうしてるんだろ?」


 トンプソンは答えを返せないのか無言で首をひねる。


「しかも3週間は戦闘が続いてて、たしか帝国に近づいてひとしきり暴れて、それでやられると引っ込むって話だったよね」


 俺は尋ねた。


「何か問題でも?」

「いや、よく続くよなと思って。兵の数がさ。海上の孤島みたいなもんじゃん? ここ。しかも戦列は横に長いし」

「本国からの増援があるんじゃないのか」

「……本国ってどこ?」


 俺もまた押し黙った。


 何となく、パンジャンドラムが疑問を抱く理由がわかるような気がしてきた。


 そう言えば俺は、そもそも魔族の軍勢が根本的にどこからやってきたのか聞いていなかった。

 ただ海上に展開しているとだけ。どこかに魔族という種族のコミュニティがあると聞いたわけでもない。


 帝国の人々は決戦だと言うが、魔族の国のようなところへいって完全に打倒するという話でもなかった。海上の要塞を攻略するとだけ。しかもヤマト皇太子は、ここに魔王がいるとまで言った。


 この要塞はカシアノーラ大陸とゴースラント大陸の間。

 カシアノーラの中に魔族がいるなどという話は俺は聞いたことがないし、俺が出会ってきた今までの人々も、この異世界で生活して長い他の転生者も、魔族の話などしたことがない。


 ということは魔族の本拠地はカシアノーラにはない。

 では別の大陸。


 俺は左腕のラリアに目をやった。


「ラリア、いいか?」

「なんです?」

「おまえはたしか、ゴースラント大陸で悪い人たちに襲われてさらわれた、と言っていたっけか」

「はいですよ」

「その悪い人たち、ヒューマンだったか?」


 ラリアはぎゅっと目をつぶり、首をひねって、思い出そうとするような仕草をしていたが……、


「覚えてないです……夜だから暗かったですよ」

「ゴースラント大陸には魔族が住んでいる場所があったりするのか?」

「うーん……聞いたことないです……」

「そうか」


 俺は頭の中に世界地図を思い浮かべた。


 ゴースラント大陸はたしか東西に長い大陸で、地図には西の端っこの方にしか地名がつけられていなかった。

 俺はそのため、カシアノーラのヒューマンがゴースラントに入植したのが最近のことで、西端のことしかわかっていないのかも知れないというようなことを以前考えていたのを思い出す。


 では魔族の本拠地はゴースラントの東? だが魔王がいるこの要塞は西端だ。ここが帝国人にとって重要な海路なのは、ここが1番ゴースラントにアクセスしやすい位置だからだ。

 つまり魔王はわざわざ東側から自ら最前線に出てきたことになる……。


 いや。そもそもゴースラント西端にはヒューマンが入植している。魔族が支配地域を西へ広げたなら入植地のヒューマンから知らせが入るはずだ。

 だが実際には、まったく唐突にゴースラントへの海路が遮断されたとのことだった。


 魔族はこれほどの海上要塞を用意できるような奴らだ。陸路ではなく海から先に支配したのか?


 だとしたらなぜだろう。

 カシアノーラとゴースラントを分断し、思い出したようにちょこちょことグランシの港を攻撃するだけ。ゴースラント以上の領土を求める動きには見えない。それともまだそうする準備が足りないだけか?

 いったい何が目的で魔族は……。


「何だろう、あれ」


 パンジャンドラムが呟いた。


 前方を指差している。通路の奥は暗がりでよく見えないが、妙にぽっかりと広がって見える。


 ゴブリンズチームのひと組はその闇へと入り込んでいったが、特に異変がないところを見ると安全なのだろう。


 俺たちもそこへたどり着いた。これまでよりもさらに広い空間。


《ナイトヴィジョンのスキルが発動しました》


 壁に窓はない。

 左側にはずらりと何かの機械のようなものが並んでいた。

 巨大な機械だった。どのぐらい大きいかと言えば、先ほどの戦闘で見かけた亀がすっぽり入るぐらいのサイズだ。機械は床からも天井部からも太いパイプが無数に伸びている。


 そんな機械が10台は並んでいるのだ。部屋というより施設と言った方が近い。


「んんん⁉︎ これは……?」


 パンジャンドラムが呻いた。

 そちらを見てみると、彼は壁の右側の方を見ている。

 そちらには人間が1人入られるぐらいの大きさの……ガラスケース付きの、縦長で筒状の機械が延々と並んでいた。


 列は3列。


 俺たちはそちらへ近づいてみる。

 黒い色だ。ガラスから中を覗いてみた。


 中は液体で満たされているようだ。


「うわっ……」


 ラリアが呻き声をあげた。


 液体の中に浮かんでいる物を見たためだろう。


 そこには長い牙を持つ猿がいた。

 不完全な形だ。頭と胸、右腕があるだけで、あとはゴッソリと欠損している。


 胸から下はなく、脊髄がぶら下がっていて……欠損と言うより……。


「やや、これはさっきの猿兵士……⁉︎」

「ロ、ロス君、こいつら……!」


 パンジャンドラムは続けて言った。


「兵士は合成魔獣だ……!」


 そう、欠損と言うより造りかけに見えた。


 しかもこの筒やら大きな機械、そこから生えたパイプの雰囲気。

 たしかに魔女の館や帝都の合成魔獣研究所で見覚えのある、合成魔獣のポッドのような風情だった。

 


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― 新着の感想 ―
[良い点]  悪の国感がすごい魔族軍。合成魔獣が液体に浸かり造られ大量生産されている。文明の発展具合は人間の先を行っているのか。謎の機械。謎の戦略。魔族って何なのか感が浮上する。
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