第248話 海戦が開戦しました、なんちゃって
《ヤマト皇太子はバトルグラウンドミュージックのスキルを発動しています》
《パーンパーパパーン、パパパンパッパパーン! パパパンパンパンパンパンパーン、テレレッテー!》
《チャーラーラララ〜、チャーチャーラララーラ〜》
《デデデン、デデデン、デレデデッデデン……》
勇壮な音楽がどこからともなく鳴り響くと共に、ヤマト皇太子専用艦、艦名セーヴァイ号が速度を上げた。
セーヴァイ号と護衛艦の前方で、すでに帝国海軍陽動艦隊と魔族軍の戦いは始まっていた。
甲板の兵士たちは剣と魔法銃で武装、整列して臨戦態勢。このまま直進し魔族軍の側面をつくのだ。
俺たち転生者勢は、皇太子と共に艦の後方、操舵輪の近く。ブリッジ(船の左右からつながる橋。そこから指令を飛ばす)に立っていた。
そこから魔族軍の姿が見えた。
曇り空の下を飛ぶ、翼の生えた蛇。
黒いフルフェイスの兜をかぶり槍を持った人間の、上半身が生えた馬。これも翼つきで飛んでいる。
海上を見れば巨大な亀のような生き物の甲羅が水面に覗いていて、その上に弓矢を持った黒い猿のような生き物がわんさと乗っている。
そんな奴らが無数にいて、帝国艦隊と正面衝突を起こしていた。
「主砲用意!」
皇太子の声に、艦前方にいる10数名の兵士たちが慌ただしく動き始める。しばらくののち、前方の兵の1人がブリッジ方向へ何か叫んだ。甲板の者たちがそれを復唱することで中継し、ブリッジ下の兵まで伝わり、
「発射準備完了!」
「総員、耳ふさげ!」
船上の人々が耳に指を突っ込む。
俺たち転生者は、
《コンプレッサーのスキルを発動しました》
音量を調節するスキルを発動。左腕にいたラリアの耳はナヤートが手で押さえた。
「てえッ!!!」
皇太子の命令が飛んだ。それを受け前方の兵が鞭で船べりの一部を引っぱたいた。すると艦首の竜の頭が持ち上がる。
その頭が轟音と共に火球を吐いた。
衝撃波がブリッジまで伝わっていた。甲板の兵の中にはすっ転んだ者もある。特大の火球は前方へ飛び、亀の1匹に当たって巨大な水柱を立てた。
セーヴァイ号の竜は立て続けに火球を吐く。魔族軍の船らしい亀に直撃したり、あるいは外れたり。
やがて残存の亀たちが泡に包まれていくのが見えた。海中に潜り始める。
セーヴァイ号の副司令という口髭の男が言った。
「殿下! あの泡で背中の兵を守っているのです。奴らは戦闘になるとああやって姿を隠す。あれでは主砲は使えませんな」
前方を見やると、亀はほとんど潜っていなくなりつつある。
「予定どおりです。これより前方の陽動部隊が魔法機雷を撒きつつ後退します」
「うむ」
「泡のため深く潜れない欠点がありますからな。機雷でたまらず上がってきたところを一網打尽に……」
見ればたしかに陽動艦隊は後退している。
セーヴァイ号の目の前を護衛艦が一隻、横切り始めた。副司令が皇太子に、亀がこちらにきても大丈夫なよう魔法機雷を撒いていると説明。
と言うか、そういう作戦であることは事前に話されていたのか、副司令の説明に対して皇太子は特に質問をするようなこともなく相槌をうつだけ。
そうしていると、マストの上から帝国軍兵士が叫ぶのが聞こえた。
「有翼部隊が接近!」
セーヴァイ号は一応帆船のていをなしていて、太い帆柱が5本並んではいるのだが帆は張られていない。自走……と言うより艦自体が自力で泳げるからだろう。とにかく柱の上を見やった。
柱の上の兵が前方の空中を指差していて、その先には空飛ぶ蛇と空飛ぶケンタウロスが。大挙してこちらに押し寄せてきている。
「アラモスさんたち、準備はいいか!」
有翼部隊なる者たちが近づいてくるなか皇太子が叫ぶ。
俺はみんなを振り返った。
ブリッジに並ぶパンジャンドラム。ウォッチタワー。ハル。ナヤート。トンプソン。左腕にはラリアもいる。一同はうなずいた。
俺は皇太子を向き直り、
「いいそうだ」
そう答えた。
俺たちはこういう場合に備えてこの艦に乗っていた。艦に乗り込んでこようとする敵兵に対処するためだ。
パンジャンドラムが言った。
「マストが邪魔だなぁ。前いこっかな」
「俺もそうするか」
《ウルトラスプリントのスキルが発動しました》
《パンジャンドラムはウルトラスプリントのスキルを発動しています》
俺とパンジャンドラムは2人で甲板を駆け抜け、艦首までたどりついた。
《ハードボイルが発動しました》
《パンジャンドラムはピンホールショットのスキルを発動しています》
上空へ向けてマイクロウェーブを発射した。爆散していく空飛ぶ蛇。パンジャンドラムもライフルを撃ちまくり、ケンタウロスを撃墜していく。
「うわっ、結構多いなぁ……」
雲霞の如く、という表現があるが、有翼部隊はイナゴの大群とまではいかないが曇り空を覆っていた。陽動艦隊の方からも帝国のグリフォン騎士たちが飛んで空中戦を展開しているようだ。
こちらへ迫る有翼部隊も、俺たちの対空砲火を避けるように、セーヴァイ号を中心に左右から回り込見始めた。
「やべ、落としきれないわ」
パンジャンドラムが呟くと同時に、帝国の兵が怒号を飛ばし合っているのが聞こえた。
そちらを見やると、彼らはセーヴァイ号右舷の向こうにいる護衛艦の一隻を指して何か話している。
護衛艦の方に有翼部隊が向かっていたのだ。そこからもグリフォン騎士が迎撃に向かってはいるが、艦に取り付く魔物が出始めているのがここからも見えた。
《ハル・ノートはプロジェクト・フィラデルフィアを発動しています》
ブリッジを振り返るとすでにハルはいない。護衛艦に視線を戻すと、向こうの甲板にハルらしき小さな人影が見え、剣を振り回して魔物を撃退している様子だった。
《トンプソンはO・デストロイヤーを発動しています》
いつの間にかセーヴァイ号の甲板真ん中辺り、右舷にトンプソンがいた。
彼は護衛艦の方を向いて、上空に手を伸ばしている。
その手から空間の歪みのような、波紋状のものが発射されていた。それは護衛艦前方の上空へ向けられていて、波紋に飲まれた有翼兵たちがボロボロと落下していくのが見えた。
そうこうしている間にも俺のマイクロウェーブをすり抜けた奴らがセーヴァイ号後方へ飛んでいく。艦左側の護衛艦にもだ。
「オーッシャオラコイコラエー‼︎ 相手してやるぞオラエー! 退屈してたんだ、もっとおれにもかまえやオェ!!!」
ブリッジの方からはウォッチタワーの元気のいい声が聞こえた。見やってみると、彼は両腕を振り回して、むしろ魔物を呼び寄せたがっているようにも見えた。
皇太子の声も聞こえてきたが、
「3番艦がやられてる! こんなことなら別れて乗ってもらえばよかったか……あのヤモリなんぞ同性のクルーだけ集めとけば問題なかったんだよ!」
皇太子はセーヴァイ号左側の護衛艦を見ている。
たしかにもう一隻は魔物に群がられていた。
「水くせえなんでおれに頼まねえオェ! ちょっくらいってくるわおれが!」
「はあ⁉︎ どうやって……」
「泳いでくるわ!」
言うが早いかウォッチタワーは甲板から海へダイブし、
《ウォッチタワーはウルトラスイムのスキルを発動しています》
魚雷めいたスピードで3番艦へ突っ込んでいく。
こちらのブリッジの方も魔物が群がり始めたが、
《ナヤートは無詠唱のスキルを発動しています。ダークネスアロー》
ナヤートが魔法の矢で撃墜。落とし損ねて着艦した者は、
《ヤマト皇太子は剣聖のスキルを発動しています》
皇太子自ら成敗した。




