第243話 ゴブリンか?
マジノのハーレムが閉じ込められている部屋は隣り。
そちらに入るとショートカットの女が早速噛みついてきた。
「ちょっと、どうしてあたしたちがこんなとこに閉じ込められないといけないの⁉︎ さっさと出しなさいよ!」
アーシェスだ。
かつてパンジャンドラムが恋をし、彼のことを殺そうとした少女。
俺は尋ねた。
「あのヤモリは誰からもらった?」
アーシェスを含めた少女たちは俺の質問には答えず、やれここから出せだの訴えてやるだのピーチクパーチク鳴きわめいた。
俺が鉄格子を蹴ったら黙ったが。
「質問に答えろ。君らが知ってるかどうかは知らないが、パンジャンドラムは無数にゴブリンを召喚するスキルを持っている」
アーシェスが言った。
「だ……だったら何よ……!」
「君たちはもう俺たちが転生者だということを知っていることだと思う。パンジャンドラムも。俺たちは全員同じ国の出身なんだ」
「それが……?」
「俺たちはな。たいへんストレスが溜まっているんだ」
「……は?」
「俺たちの国の人間はいつも人生に行き詰まってて、抑圧されている。隙あらばその鬱憤を晴らすために、少しでも落ち度のある悪人を探しているんだ。ブッ叩くためにな」
「はあ……」
「マジノに聞いたことがないか? 遠くの人間と文章を一瞬でやり取りできる機械のことを」
「えすえぬえす、だっけ?」
「そうだ。発案者はその仕組みを、新しい友だちを得られるようにと願って作った。だが実際みんなそれを使って何をしていると思う?」
「な、なにしてるんですか……」
「罵倒だ。ほんの少しであっても非人間的な行動をとった奴は、寄ってたかってボロクソにいじめられる」
アーシェスは眉間にシワを寄せて首を捻った。
「だ……だから何なの……」
「パンジャンドラム。無数のゴブリン。君たちには落ち度があって、そして……」
「……ごくり」
「……セックスが好きだったな?」
アーシェスたちの顔が青ざめた。
「パンジャンドラムはいつも朗らかだが、人間なんてひと皮剥けばどんなことを考えているかなんてわからないものだ。もしも彼が君たちに対して許せない気持ちを持っていたとしたら……」
「あの、ちょ……」
「君たちは今囚われの身……」
「あの、あの」
「アーシェス……君は特に……パンジャンドラム本人からかわいがってもらえるんじゃないのか……?」
「あっあっ……」
顔を見合わせ始めた少女たち。
アーシェスが何か言おうとした。俺はその瞬間を逃さず、
「ついでにオークも呼んでやろうかッッッ!!!」
一喝。少女たちはついにすすり泣きだした。
ちら、と横を見ると、ツェモイが俺を見ていた。
睨んでいるわけではない。彼女は自分の顔を指差して、何かをアピールしているようだったがそれは無視して牢を向き直る。
それから取り調べはスムーズに進んだが、特にこれと言って新しい話は聞けなかった。
パンジャンドラムがマジノの元を去ったあと、やはり黒い帽子をかぶった女が現れて、これを使えばより転生者と深い関係になれると説いたそうな。
ただ、すぐに姿を消した魔女風の女を、少女たちはしばらく探したという。
なぜその女が転生者を捕らえる方法を知っていたのか、それが疑問に思えたのだそうだ。
目的もだった。
転生者のハーレムの一員となる、そんな素晴らしい方法を知っていながら女は1人だった。おまけにマジノが転生者であると知っていながら自分はヌルチートを使うわけでもなく立ち去った。
彼女は何か転生者に詳しい人物なのだろうか?
ひょっとすると、マジノが追い求めた、前世に帰る方法を知っているのでは?
アーシェスたちはマジノを自分たちの物としたあと目撃者を探した。
そこで、マジノの国の東から入国し、南側から出ていったことがわかったという。
「こ……これで知ってることは全部だよ……ゆ、許して! パンジャンドラムにも謝るから……!」
俺が、順序としてはトンプソンのハーレムのあとにマジノのハーレムに接触したのだろうと考え事をしている時、アーシェスはそんなことをのたまっていた。
アールフォーさんとツェモイにうなずいてみせた。
ツェモイが牢の扉を開け、アールフォーさんが記憶消去の魔法を順番にかけていく。
「あっっっ!!!」
最後の1人、アーシェスの頭をシェイクしていた時。アールフォーさんが急に叫んだ。
「どうしたんだろう?」
「いや、あの……考え事をしてたら、ちょっと長く振りすぎちゃって……あら、どうしましょう⁉︎」
長く振りすぎるとどうなるというのだろうか。アーシェスを見やる。
「ぽへぇ〜〜〜〜………………」
アーシェスは……意思の光の見られない濁った瞳で虚空を見上げていた。
「……どうなったんだろう」
「あの、あの……だいぶ脳がやられちゃったかも……!」
呆けた顔でへたり込んだまま、斜め前方を見上げているアーシェス。周りではそんな彼女を見つめて少女たちがガタガタ震えている。
「治るのか?」
「どっ……どうでしょう……? 時間が経ったら正気にもど……るかも、しれな、い?」
首をひねったアールフォーさん。
少女たちの1人が「ひゃっ!」と声を上げた。
アーシェスの股間から液体が漏れ出しているのを見たためだろう。
俺(左腕のラリアも)、アールフォーさん、ツェモイ。3人で顔を見合わせる。
俺は言った。
「団長、あとは頼んだ」
「えっ」
「あの、ロスさんこの子……」
「団長。しばらく様子を見て、ダメだったらまた呼んでくれ。《ザ・サバイバー》で何か食べさせてみる」
「ロス殿、それでだめだったら……」
「ロスさん、私、私なんてことを……!」
俺は答えず牢の部屋を先に出た。
慌てたような足音が後ろから聞こえる。アールフォーさんが追ってきているのだろう。
アーシェスを廃人にしてしまったかも知れないことに、アールフォーさんは狼狽えているようだった。だがそれについて何か慰めとか、気休めの言葉をかけるつもりにはなれなかった。
何もロス・アラモスが冷酷で、友人を傷つけた少女がどうなろうと気にしない男だというわけじゃない。
今この場でそれを言う気になれなかったということだ。
ツェモイのいる前……いや……。
アールフォーさんを慰めるのは簡単なように思えた。
ただこう言えばいい。
アールフォーさん、聞いてくれ、ここは地球じゃない、ヴァルハライザーの中だ。俺は思うんだ。ここの人間は、実は人間じゃないのでは? 仮想の空間がでっちあげた、仮想の人間なのでは? 人間ではないものを壊したからといって気に病むことはないじゃないか。
言えなかった。
……少なくともラリアのいる前では。




