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第242話 不倫


『晴人っ! まさか本当におまえなのかっ⁉︎』


『あっあっ、えっ!?!? あの、誰ですか……』


『私だっ! 能登頼太(のとらいた)! おまえの父さんだっ!』


『父さ……えっ⁉︎』


『まったくおまえはあんな大それたことをして! いったい何を考えてたんだ! おまえなぁ、おまえ、あのあとなぁ! おまえ、大変だったんだぞ! やれマスコミの押しかけ取材やら、嫌がらせの電話とか! おまえのせいで母さんはノイローゼになってなぁ!』


『あっあっあっ』


『あの……お取り込み中失礼します……』


『アレクシスさんちょっと待ってください、今私は息子と話を……』


『いやあの……アールフォーさんが倒れたのですが……』







 中世ヨーロッパ風の街並みがゆっくりと後方へ流れていく。


 俺はゴーストバギーを走らせながら、先ほどの出来事を思い返していた。


 トンプソン元大統領がハル・ノートの父親だと名乗り出たことをだ。

 それから介抱されたアールフォーさんが意識を取り戻したが、彼女もまた言った。


 私はハルの……能登晴人(のとはると)の母。

 能登志季(のとしき)だと。


 俺は横目に助手席を見てみた。


 助手席に座っているアールフォーさんが窓の外を眺めている。

 膝にはラリアを乗せていた。

 彼女は流れていく景色を見ているようだった。しばらくそうやって、3人とも無言だった。


 俺は前方を走っている馬車のケツを見ながら運転した。前へ進む馬車の下から何か茶色い物が現れた。前の馬が落とした物が車の下をくぐり抜けてきたのだろう。近づいてきたのでわかったが、糞だった。


「あの……」


 アールフォーさんが言った。


「息子がたいへんお世話になったそうで……」


 俺は答えた。


「それほどでもない」


 それからしばらく無言。

 バギーを向かわせているのは帝国軍省。

 極力固まっているべきだと言ったそばからこうしているのは自分でもどうかとは思うが……今アリー家の邸宅にはホッグス少佐がいる。


 ヌルチートに対抗する確実な方法としてひとつあるのは、ラリアのスキルでヌルチートの呪いを無効化すること。

 そしてもうひとつ。ホッグスのスキルで無効化することだ。


 急遽邸宅に呼ばれたホッグスは、もし何かあった場合、一時的にアレクシスと奴隷の契約を結んでことに対処する手はずとなった。


 ホッグスが嫌そうな顔をしていたのを思い出す。

 それでもこうして別行動をとるはめになったのは……。


「あの子……いったいどうしてあんなことを……」


 アールフォーさんだった。彼女が、マジノとトンプソンのハーレムだった女たちの記憶を消去すべきだと主張したからだった。


 アレクシスは急ぐ必要はないと言ったが、アールフォーさんは今すぐやっておいた方がいいと譲らず。そのためこうやって俺たち3人は、ハーレムが拘束されている軍省へ向かっているというわけだった。


 俺は言った。


「知りたければ残って本人に訊けばよかったのでは?」


 あんなことというのは、ハルが前世でナヤートをいじめていた首謀者の家族を滅殺したことだろうことはわかっていた。


 殺人だ。

 異世界にきて様々なことを経験したが、殺人を犯した息子と再会した母とドライブとは、偽物のあの世とやらはなかなかヴァリエーション豊かなイベントを用意しているものだ。


 横目でアールフォーさんを見てみた。

 彼女は俺の質問には答えなかった。

 代わりなのかこう言った。


「……おかしいですよね、この世界」


 アールフォーさんは窓の外を見ながら呟いた。


「……みんながいるだなんて」


 偽物と言えどあの世のはしくれだ。そりゃあいるだろう。ハルの両親、能登夫妻……つまりアールフォーさんとトンプソン氏は、息子が起こした事件のためにいたたまれなくなり心中したと聞いている。

 それが勢ぞろいしたらしい。

 ヴァルハライザーの世界の中で。


 軍省の入り口が見えてきた。

 どうして久しぶりに会った家族と別邸で語らいでもしなかったのか、もう訊かないことにした。






 入り口で出迎えたのはホッグスの部下のロクストンだった。

 彼は魔族との決戦のためホッグス少佐が軍用召喚獣の配備やら何やらに追われていて、最近あんまり寝てないようだとか何とかそんな話をしながら、俺たちを監禁施設まで案内した。


 監禁施設には牢のある区画があり、その入り口の扉の前にツェモイ団長がいた。ロクストンはツェモイに引き継ぐと廊下を去っていった。忙しそうに見えた。


「ロス殿。今日はどうしたんだ?」


 ツェモイがそう尋ねたのへ、


「彼女たちの記憶を消しにきた」


 そう答える。


「人払いが必要かな」


 ツェモイはそう言って扉を開け、中にいた看守めいた人物に外へ出ているよう言った。これらのことは皇太子殿下から特別に許可をいただいているとの言葉を添えて。


 看守と入れ違いに中に入る。左側はただの壁。看守の作業机が寄せられている。

 右側にはふたつの扉。ツェモイはまず向かって右側の扉を開けた。


 中は今度は右が壁で、左に鉄格子がある。

 そこに6人の女がいた。

 トンプソンのハーレムだ。


 ツェモイが尋ねた。


「すぐにやるかね?」

「いや、少し訊きたいことがある」

「どうぞ」


 アールフォーさんと2人で牢の前に立つ。

 6人の女は牢の中で座り込みこちらを見ている

 その中で最も目を引いたのは紫色の長い髪の女だった。

 爆発的なサイズの乳房と急激なカーブを描くくびれた腰。尻もまた爆弾のようだった。


「あ〜ら、何の用だい、ハンサムな坊や……? お姉さんとイイコトしにきたのかい……?」


 そいつがそう言った。喋る前はなかなかの女に見えたが、喋ってみると遠くから眺めるだけに済ませるべき女だった。妖艶だが教養の気配を感じさせないしゃがれた声。田舎のスナックを連想させた。


 ツェモイが俺に囁いた。


「帝国の法に触れたわけでもない外国人だから2、3質問しただけに留めていたが……驚いたよ。この女性、サキュバスだ」

「人間じゃない?」

「ああ、淫魔だよ。魔族だ」

「スパイか……?」

「どうかな。……自白魔法も検討しているが……」


 そう言ってツェモイはサキュバス女を見下ろす。


「よしとくれよぉ……そんなよくわかんない魔法、怖いじゃあないか……あたしたちはオルタネティカの要請で馳せ参じただけで、魔族の軍隊のことなんかわかんないよ……」


 深刻な声でもなく、サキュバスはヘラヘラ笑ってもいる。


 さらにツェモイが俺に囁いたところによると、6人の中で魔族はこの女だけ。どうして魔族との戦いに参加するつもりだったのかと尋ねたら、トンプソンのカッコいいところを見たかったから、だそうだ。

 本人が主張するには、はぐれ魔族だと。魔族からは追われ、ペリノアドの悪い冒険者(悪い、というのはあくまで本人の主張らしい)に狙われたところを助けてくれたのが、トンプソンだったとのこと。


 俺はサキュバスに言った。


「訊きたいことがある」

「トンプソンに会わせてくれたら何でも答えたげる」

「あのヤモリはどこで手に入れた」

「それはそちらがこっちの要求を呑んでくれたら……」

「自白魔法で無理やり吐かせてもいいんだぞ。君たちは全員廃人になるだろう」


 ツェモイが肩をすくめていた。俺には帝国の司法関係者に私用で自白魔法を使ってもらえるよう頼める権限などない。


 だがサキュバス含め女たちの顔色が変わったのは間違いない。


「どこだ」

「んもう……ペリノアドだよ……」

「誰からだ」

「女の人。誰なのかは訊かないでちょうだいね。初対面だし、すぐどこかにいっちゃったもの」

「どんな女だった」

「あんたと同じ」

「黒い帽子」


 俺の帽子。

 お伽話の魔女が被っているような黒い三角帽子だ。

 アリスの日記にもやはり、魔女のような風体の女からヌルチートの製法を授かったとあった。


 同一人物か。


「ねえ。あたしたちはどうなるの……?」


 サキュバスがそう言った時。

 彼女の後ろの壁にもたれていた少女が立ち上がった。


「わ、わたしたちなにもわるいことしてないみょん! ただ、トンプソンさまと愛し合っただけみょん! 許してみょん!」


 瞳に涙を浮かべて言うその少女。

 ずいぶん小柄だった。と言うより子供のように見えた。


 アールフォーさんもその少女を見やっていたが……妙に表情が険しい。そして彼女は尋ねた。


「あの……いいかしら?」

「なにみょん?」

「あなた。歳は……幾つなの……?」


 みょん少女が答える瞬間、俺は同時にくしゃみに襲われた。

 ただ……未成年という言葉では表現しきれないニュアンスにあふれた、少ない数字が答えられた気がしないでもなかった。それはあるいはひょっとしたら、ナヤートよりも少ない数……。


「ツェモイさん、開けてください!!!!」


 アールフォーさんが一喝。ツェモイは慌てたように牢の鍵を開ける。同時にアールフォーさんが飛び込む。


《アールフォーさんは無詠唱(スペルレス)のスキルを発動しています。メモリーブレイカー》


 片っ端から女たちの頭を揺さぶり記憶を抹消していく。余談だが、みょん少女以外の少女も少なくとも20歳を超えているようには見えなかった。


 息を荒げて牢の入り口をくぐり戻ってくるアールフォーさん。普段は穏やかで美しいエルフである彼女の顔は、般若のようだった。ツェモイがやや後ずさりしている。


「ふー、ふー……!」

「…………」

「あの人、あんな若い子たちと……しかもあんな子供みたいな子にも手を出して……!」

「…………次へいこう」

「ふー、ふー……え、ええ。次ね。ええ……」


 俺はツェモイと視線を合わせた。向こうは何も言わなかったので、俺は牢の部屋を出た。


 次はマジノのハーレムだ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] アールフォーさん、あんたはハーレムを勘違いしているんだ、オェ いやむしろあんたの方が幼児扱いの自分に手を出してくるようなオッサンとイチャコラしてただろーが、オェ もしかして全てを見通すかも…
[良い点] 夫婦で、しかも旦那が転生先でハーレム。 奥さんぶち切れだけど、自分もエルフとちちくりあってたじゃないか…しかもヌルチートも無しで。そっちの方が罪深い気がするけど…
[良い点]  記憶の喪失。その間の事は失われ存在しない。ハーレムを築いた彼等の間には性欲や利益に基づく関係しかなかったのだろうか。他愛ない話や、小さな親切の積み重ねや小さな発見が成長を促す敬意ある瞬間…
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