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第二十三話 ゴブリンの杖

 

 俺とレイニーが冒険者と合流した時、彼らはすでに3人だけとなっていた。


 茶髪のイケメン、ペステロ。アンパン帽子のミラーレ。そしてなんとゴンザレスだ。


 彼らは少し開けた空間にいた。


 俺とレイニーが走ってきた細い通路から、ゴンザレスたちのいる膨らんだ空間につながり、その奥にまた通路が見える。

 何となく胃袋の形を連想した。

 胃袋は天井から、地上の植物のものだろう、何本もの太い木の根が垂れ下がっていて、その中でも特に太い数本が地面まで突き刺さっている。


 奥の通路にはゴブリンが数匹陣取り、岩陰に隠れながら魔法弾を撃っている。


 ペステロとミラーレが互いに違う岩陰や、太い木の根に隠れ交互に光る矢(航空兵団がやっていたのと同じ魔法だ)を撃ち返して、その後方でゴンザレスがまごまごしていた。


「ゴンザレス!」

「あっレイニー、無事だったか……ロス⁉︎ おまえも生きてたのか!」

「いや死んだよ。だからここにいる」


 俺とレイニーはゴンザレスの隠れる岩陰に走り込んだ。


「ゴンザレス、連れてかれちゃったかと……」

「ああ、奴らの魔法を顔面にくらって気絶してたみてーだ。気づいた時にはミラーレちゃんがいたんだ」


 ゴンザレスはそう言ってミラーレを指差す。彼の頭はモヒカンヘアーのため頭部の中心以外は地肌が露出しているが、よく見ると左のこめかみ付近がバツの形で赤くなっていた。


「ミラーレちゃん、ゴブリンに引きずられてるオレっちを見かけて、追いかけてきてくれたらしくって……で、他の仲間を探そうとして」

「このお祭り騒ぎというわけか」


 俺は岩陰から少し顔を出してゴブリンを覗く。

 小鬼は5匹。

 奴らが何かを手に持っているのに気づいた。


「あいつら、何か変な魔法の杖を持ってるんだ。無詠唱で魔法を撃ってきやがるんだよ。威力はたいしたことねーんだが……とにかく数も多いし、撃ち込みが早いんだよ。こっちの魔法がおいつかねーんだ」


 ゴブリンの杖は短いものだった。


 杖からはロープか、あるいはホースのようなもの伸びている。それがゴブリンたちの背負っている樽状の何かにつながっているのが見えた。

 杖の下には古い映画フィルムをしまっておく平べったい缶のようなものが取り付けてある。

 ゴブリンたちはその杖を両手に持ち、先端をこちらに向けて魔法を発射していた。


 先端から視認できないほどの速さで何かが飛んでくる。俺たちの岩陰や背後の壁に激突し、地に落ちる。

 十字型の物体だ。


 発射音がまた奇妙だった。

 重く、低く、くぐもった音。

 ペステロたちの魔法は派手な音をさせているが、ゴブリンのそれは図書館でやる咳払いのように抑制されていた。


 俺はゴブリンの動作が気になった。

 右手で杖の手前を持ち、左手はこちらへ向けた先端付近を握っている。そして発射の前に、左手で一度杖をしごくのだ。しごくたびに杖は短く縮み、また伸ばした直後、奴らは発射していた。


「ポンプアクション……? ショットガンか……?」

「ロスさん!」ミラーレが言った。「私、もう魔力が切れそうです! 助けてください!」


 ミラーレは胃袋の右側。ペステロは左側の岩陰で苦虫を噛み潰したような顔をして、膠着した射撃戦を展開している。

 俺は言った。


「やれやれ」


 俺は村正を抜き払い岩陰を飛び出した。


「ロ、ロス⁉︎ 危な……」


 《剣聖(ソードマスター)のスキルが発動しました》


 結論から言おう。5匹のゴブリンの死体が倒れていた。ピクリとも動かず失禁していた。奴らが発射した十字弾の切れ端も無数に転がっていた。


「す、すげえぇ……」

「はっや……」

「ええ……」


 冒険者たちも岩陰を出てくる。


 俺はゴブリンの死体のそばにしゃがんだ。

 名前は忘れたが、騎士団の親子と違い峰打ちにはしなかった。もっと心が痛むかと思ったが、スキルのせいか手応えがなく、そのためあまり罪悪感も感じない。


 ゴブリンの死体が揺らいで消えた。

 レイニーの言った通りだった。後には、ゴブリンの杖と……杖にホースでつながっている、樽状のものが落ちているだけ。


「ロス」レイニーが言った。「変な杖だね」


 杖は3つの金属製の棒がつながっているような形だった。


 パンの生地を伸ばすローリングピンのような太い棒が真ん中。

 その端に細い棒が、太い棒の中心に挿し込まれている。細い棒の端には、自転車のブレーキのようなレバーがあった。

 反対側の端には、太い棒と同じぐらいの太さの、黒い筒が取り付けられていた。


 形だけ見れば、黒い筒で延長された、竹製の古いスタイルの水鉄砲のようにも見える。


 違いは、まずこの杖は竹製ではなく金属製であること。

 そして太い棒に取り付けられた、フィルム缶のようなもの。

 それから、樽の反対側につなげられているホースだ。

 ホースは杖のそばに転がっている大きな樽までつながっている。

 樽は輪にした2本のベルトがある。ゴブリンたちはこの樽を背負っていた。


「ロスさん、これを見てください」


 ミラーレが他の杖をチェックしながら言った。そちらへ目を向けると、彼女は自分の足元の樽を指差している。

 俺が2つに切断した(たぶんしたのだろう)樽から液体が漏れている。

 赤い。血液か。


「この粘性……ファイアスライムです。生きてはいません。核が抜かれてます」


 何の話かわからないので俺が無言でいると、


「ご、ごめんなさい、Sランク冒険者ともあろう方なら見ればわかりますよね」

「レディー、意見を述べることに躊躇してはいけない。極限状況ではなにげない言葉から打開策が浮かぶこともある。君の見解を聞きたい」

「ええと……ファイアスライムは爆発的に燃える性質を持ってて、炎系魔法を使う魔法使い泣かせなんですけど、それを背負ってたっていうことは……ええと……」


 俺は杖に小さなレバーがあるのに気づいた。

 据え付けられたフィルム缶のそばだ。それを引くと、フィルム缶が外れる。


 フィルム缶がはまっていた位置には、缶の厚さのぶんだけ、長方形の穴が空いていた。

 缶の方はというと、杖にはまっていた位置が空いていて、中を覗ける。

 長い単一電池のような筒が入っている。指で前方に押すと、滑って取り出せた。


 単一電池もどきは黄色い琥珀のような色。4本の細い角材を束ねてこの形になっているのがわかった。電池もどきの片方の先端は木製の筒で覆われている。4本の角材はこれでまてめられているのか。角材はグニグニと柔らかかった。


「レディー。爆発と言ったな」

「はい。それが……?」

「ショットシェル。弾丸は、暴徒鎮圧用のゴム弾だ。この小さな樽はドラムマガジンで……」


 俺は単一電池もどきを缶に戻し、元通り杖に装着する。そして細い棒を押し込み、また引いて……壁を狙って、ブレーキレバーを引いた。

 こもった音とともにゴム弾が発射された。

 ゴム弾は壁に激突すると地面に落ちた。ゴム弾は十字型に広がっていた。


「この杖はショットガンか」


 十字型のゴムを折りたたみ、さっきの木製筒で固定してあったのだ。

 黒い筒はおそらくサイレンサーとか、サウンドサプレッサーとか呼ばれる消音器だ。洞窟でショットガンなどブッ放せば、なるほどやかましくてしょうがないだろう。


「ねえロス。この杖は何なの? それに、今の魔法……ロス詠唱してないよね?」

「大樽に入ったファイアスライムを爆発させ、その黄色いのを飛ばしていたんだ。魔法じゃない。こういう道具だ。見たことないか?」

「ううん。ゴンザレス、見たことある?」

「いやあ、オレっちもねーよ」


 ミラーレが落ちたゴム弾を手に取って、


「これはウッドスライムですね。木の樹液が魔物化したものです。核を抜いて加工すれば、色んな物に使えますけど……」

「それならオレっちも知ってる。貴族用の馬車の車輪とかに緩衝材として使われてるよな」


 レイニーがそばにしゃがみ込み、俺の手にある杖を眺めていた。


「こんな道具、タイバーンでは見たことないよ。ロス、詳しそうだけど君は見たことあるの?」


 俺は少し考えて、


「ないな」


 と答えた。

 俺がこの手の機械を見たのは前世の話であり、この地での話ではない。それに見たことがないのは本当のことだ。海外旅行をしたことのない俺は、銃器など架空の存在に近い。しょせんは暇つぶしに読んでみた書物の情報だ。


「す、すごいね。見たことないのにちょっと触っただけでどんな仕組みかわかるなんて……」


 ふと横を見ると、レイニーは杖ではなく俺の顔を見ていた。

 これ以上見られていると女の勘に暴かれる気がして、俺は立ち上がった。

 すると、さっきまでずっと黙っていたペステロが言った。


「ロスさん、あの……僕、他の冒険者を助けようと思うんです。もう生きてはいないかも知れないけど……そのためには、先へ進む必要があって……」

「はっきり言えばいい。手伝ってほしいんだろう。ところで訊きたいことがある」

「何ですか?」

「ゴブリンが生きたまま獲物を捕らえる例があるか?」


 ペステロは首を捻っていた。他のメンツを見ると、やはり同じ反応だ。


「ゴブリンは人間を食べることがあるけど、たいてい戦闘になるから殺してから引きずっていくよね。でもそれが?」

「この杖は非致死性だ。相手を殺したいなら、ただ鉄の玉を飛ばした方が効率がいい。そっちの方が安上がりだ」


 ゴム弾を包んでいた木製の筒。

 あたりには落ちていない。

 ゴンザレスは被弾したようだが、ゴムが激突しただけで、硬い木がぶつかった怪我はないようだ。


 発射の際にバラバラになって吹き飛んだのだろう。たしか映画の射撃シーンを撮影する際には、木製の弾丸を使用する場合があると聞いたことがある。発砲しても弾丸は粉々に砕けて、相手の俳優を傷つけることがないからと。


 そしてさっきのゴンザレスの言い分なら、ウッドスライムを加工したゴム製品はかなりの高級品ということになる。


 この世界に来てから俺が見た馬車の車輪はゴムタイヤではなかった。

 値が張るのかも知れない。

 王侯貴族が権威を演出するために庶民にはゴムを使わせない法律があるという可能性もある。

 だがどちらにせよ、ゴブリンがハリウッド映画ばりに気軽に乱射できるほど、弾頭として簡単に用意できるものとは思えない。


「そ、それじゃあ」ミラーレが言った。「他の人たちはまだ生きている可能性があるということですか⁉︎」

「約束はできないな。生きたまま食べたいタイプなのかも知れない」


「でも」ペステロが言った。「少しでも可能性があるなら、やるだけやってみましょう! ゴブリンはもうかなり倒しました。もう残りもそんなにいないはずですよ!」


 俺は床を見た。

 ショットガン風杖が、5つ以上転がっている。俺とレイニーがここへ辿り着くまでにも、ペステロたちがゴブリンを倒したのだろう。

 死体だけは1つもないのが気にかかったが……。

 俺はレイニーとゴンザレスを振り向いた。


「君たちはどうする? Bランク冒険者はああ言ってるが。……レイニーの話によればAランクの奴も倒されたそうだが、君たちはここで引き返すという手もある」


 2人は険しい顔で考え込んでいる。しかしペステロが言った。


「ロスさん。2人で帰すのは逆に危険です。Aランク冒険者と言えば、僕たちは気合のローブを着た男とも会ったんです。あの人もゴブリンに群がられて……。もし彼らが2人だけで戻る際にゴブリンに遭遇したら……」


 俺はペステロをちらりと見やった。


「……今、残りはそんなにいないはずだと自分で言わなかったか?」


 彼は一瞬……一瞬だけだが、呆気に取られたような顔をした。


「ねえロス。あたしも行く。捕まった人を助けるんだ」


 レイニーが言った。そちらを向くと、彼女はゴブリンが落としたショット杖をかき抱いていて立っていた。


「お、おいレイニー。あぶねーよ。オレっちたちはあまり役に立てねーかも知れねえ。それどころか足手まといになるかも……」

「ううん、ゴンザレス。この道具があれば、あたしもそれなりに戦えるかも。ゴブリン自体はそんなに強くないのに、これを上手に使ってBランク冒険者を圧倒してたんだ。それに……」


 レイニーはゴンザレスを強く見据えて、


「あたし、ここで逃げたくないよ。こんなところで逃げたら、あたし……。それに他の冒険者はほんとに生きてるかも知れない。ゴンザレス。あたし君に謝らなきゃならないことがあるの。あたしほんとはさっき、君をみす……」


「やれやれ」俺は遮った。「俺は放っておいて帰ろうと言ったんだがな。だがレイニーがゴンザレスを探すと言って聞かないものだから、余計なリスクを負うハメになってしまった。やるんなら早く終わらせよう。俺は早く帰ってコアラに餌をやらなきゃならないんだ」


 俺はショット杖を拾うと、ゴンザレスに押し付ける。


「細い棒を奥まで押し込んで、カチリと音がするまで引き戻す。そしたらよく狙ってこのレバーを引け。缶も集めて持って行こう。弾が出なくなったら、缶を交換するんだ」


 ミラーレに手伝ってもらいながら、レイニーとゴンザレスは缶、つまりドラムマガジンを集めた。

 俺は言った。


「オーケー、ガイズ。俺たちの戦いはこれからだ」







 

まだまだ続きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白っ! このクエスト序盤に何かありそうな一文あったけど、やはり黒幕がいるんですね。でもドラゴンとこのゴブリン編逆にしたのはよかったですね。ド派手な話から暗くて不気味な展開は強弱ついていい…
2020/02/25 13:29 退会済み
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