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第227話 逢魔ヶ刻


《パンジャンドラムは人力セミオートのスキルを発動しています》


《パンジャンドラムはワンホールショットのスキルを発動しています》


 スキル発動の知らせと銃声。パンジャンドラムは屋上に上がったことによって地上のヌルチートから死角に入ったようだ。


 問題はこちらだ。

 階段の周りをオニヤンマ人間が1匹飛んでいる。こいつがラリアを妨害する限り、ヌルチートを排除することができない。


 空中のオニヤンマを観察する。

 虫ではあるが、サイズがサイズだけに重い羽音をさせていた。そうやって、階段の外を左右に揺れていた。


 それ以上何かをしてくるわけではなかった。

 空中でホバリングしているだけで、あの大きな顎で俺たちに噛みつこうとしてくるわけではない。


 今床で魔力切れによって喘いでいるアールフォーさんや、階下で1人戦っているウォッチタワーを襲うわけでもない。ましてや足場をつたい逃げていって孤立したナヤートを追うこともない。


 左腕にしがみつくラリアが呟いた。


「マスター……どうしてこっちこないですか?」

「奴は俺たちが転生者だと知っている……知っているから襲ってこないんだ」

「転生者……」

「傷つけたくないんだろうよ」


 虫の部位を持つ人間。ガスンバでは見飽きるほど見てきた怪人だった。ガスンバでは奴らはこう呼ばれていた。


「魔女の子供たち……。あいつは転生者のハーレムを作ろうとする、魔女の手先だろう」


 建物の陰、やや遠くから少女の悲鳴が聞こえた。

 ナヤートだ。今は姿が見えないが、彼女の方にもヌルチート憑きの衛兵が追っていったはずだ。階下ではウォッチタワーが暴れる音がしている。俺は今すぐ何かを始めなければならなかった。


「マスター、あの……!」

「何だ」

「下に集まった人たち、少なくなってるですよ……」


 ラリアは手すり越しに地面の方を見ていた。

 俺もそちらに目をやった。

 下では階段を遠巻きに見上げることで俺たちを視界に収めようとする衛兵たちの姿。


 ……しっかりと数を思い出してみる。

 アンダードッグ区にいる賞金稼ぎは5人。これは全員倒れたはず。


 区に送られて、消息不明とされている衛兵の数は32名。

 階段にいたのは7人で、うち3人は倒れ残りが4人。ウォッチタワーが押しとどめている。


 残り25名。

 最初に区に送られた兵は何かが原因で倒れたと通報されていたが、その人数は10人。

 だが階段下に駆けつけた兵は明らかに20人以上いたので、復活したのかも知れない。


 なら25人いると仮定してしまおう。うち5人がナヤートを追って路地へ入っていくのを見た。残り20人。


 だが実際に地上にいるのは……10人。


「半分ぐらいいないです……!」


 俺は振り返った。ここは4階踊り場。建物内部への扉がある。

 思い出した。

 ウォッチタワーが1度この建物に入ってから、中の階段を上って3階まで上ってきたことを。


「ラリア、こっちだ! 半分はこの中からくる! いけ!」


《カミカゼ・ブーメラン‼︎》


 俺はラリアを、扉へ向けて投擲した。

 ブチ破って建物内へ飛び込んでいったラリア。俺は続けて中へ飛び込む。


 木のテーブルと、マットレスも置かれていないベッドの残骸が置かれてあるだけの寂れた部屋だった。扉を突き破った衝撃からか埃がかなり舞っていた。


 その埃を突き抜けて、ラリアは部屋の出口をさらに奥へ飛んでいった。階段へ向かい衛兵を迎え討つのだ。

 俺はブチ破ってきた扉をすぐさま振り返る。

 ここはヌルチートから死角。


《ハードボイルを……》


 扉の向こうに見えていたオニヤンマが素早い動きで下方へと消えた。踊り場ではまだアールフォーさんがへたばっていたが奴は無視していった。


《ウェイブスキャナーのスキルを発動しました》


《サーモ・アイのスキルを発動しました》


 念には念を。2つ発動させておこう。すぐさま床に目を向けた。


 見える。

 外への扉に向かって立った時、俺の左後ろ側にあたる建物の端に、階段があるようだ。そこをやはり10人の人物が上っている。その上ではラリアが逆に高速で下っていっている。


 そして、俺の体が向いている扉の位置。最下層。


 1番下の入り口をくぐっていく奴がいる。

 素早い、走るのではなく水平に滑っていくような動き。


 やはりだ。下へ向かったオニヤンマだ。奴はラリアを迎撃するために下から入ったのだ。


 オニヤンマの動きは速かった。2階の直前に差し掛かっていた衛兵たちの背後に迫り、追い越し、2階を抜ける。


 ラリアは4階。互いのスピードから考えるに、鉢合わせするのは3階。


 だがロス・アラモスはラリアをトンボと一騎打ちさせるつもりはなかった。


 2階から3階への階段は踊り場を経て1度折り返す形。

 オニヤンマは今まさにその踊り場を抜け、上から降りてきたラリアを視界に入れる位置に……。


《ハードボイルが発動しました》


 両拳を床へ向けて《ハードボイル》を発射。

 青白い光と床での反射が部屋を眩く照らす。

 そのため目による視界はないに等しくなったが、《ウェイブスキャナー》で階下の様子はわかっていた。


 ラリアとオニヤンマ。

 鉢合わせする寸前。


 ヒットした。

 オニヤンマを示す塊が複数の小さな破片となって散ったのがわかった。

 ラリアは止まることなくその中を突き抜け2階へ。

 ちょうどそこにいた10名の衛兵たちの周りをぐるぐると飛び回る。

 次から次へと衛兵たちが倒れていくのがわかる。何か細かい破片も飛んでいるが、たぶんラリアに切り裂かれた彼らの衣服だろう。


 ラリアが上がってくる。しばらくすると部屋の出入り口から姿を見せ、俺の左腕に収まった。


「何でトンボ爆発しちゃったですか? マスター、ここにいたですよね?」

「マイクロウェーブはたいていのものはすり抜けていくのさ」


 俺は外に出るともう1度、


《カミカゼ・ブーメラン‼︎》


 地上へ投擲。ラリアは下に待機していた10名と、階段でウォッチタワーと戦っていた4名も気絶させると、再び俺の元へ戻ってくる。

 一瞬だった。


 俺は床にうずくまっているアールフォーさんのそばへしゃがみ込んだ。


「大丈夫か?」

「え、ええ……なんだか急に楽になりました……それにしてもその子、すごいんですね……!」


 ラリアはふんす! と鼻を鳴らした。

 アールフォーさんは先ほどよりも落ち着いているようだった。顔色もいい。


《アールフォーさんのstatusが正常に戻りました》


《アールフォーさんは魔力を体力へ払い戻ししています》


 ヌルチートがいなくなったためか。

 階下から足音がして、ウォッチタワーが姿を見せた。


「今回は楽勝だったな、ロッさん」

「まだ終わりじゃない。パンジャンドラムが奴隷商人を助けにいっている。それにダークエルフの転生者、名をナヤートというそうだが、あっちへ逃げていった。ヌルチートを持った衛兵に追われている」


 アールフォーさんが立ち上がったので俺もそれにならう。


「よっしゃ、ロッさんはラリアがいるから大丈夫そうだな。ならおれはドラムさんの方を手伝ってくるぜ!」

「じゃあ私はナヤートちゃんを……」


 話はすぐにまとまった。

 ウォッチタワーがさらに階段を上ろうとし、アールフォーさんが外壁の足場へ降りるため手すりを乗り越えようとした。


 その時だった。




《ナヤートはギャラクシーグレイヴを発動しています》




 俺たちは顔を見合わせた。

 ナヤートが何かのスキルを発動させている。

 ということは今のところ、彼女はヌルチートに見られない位置にいるということ。


 ふと気になった。《スキルアナライザー》が俺や他人のスキル発動を知らせる時、『何々のスキルが発動しました』と言う。

 だが俺たち転生者が固有スキルを使う場合、『スキルが』の部分はいつも省略されていた。

 聞こえてきたナヤートのスキル発動の知らせは省略型。つまり今ナヤートは、彼女固有のスキルを発動させているということだ。


「ウォッチタワー。パンジャンドラムと商人を頼む。アールフォーさん、急ごう」

「そ、そうですね! 男の人たちに捕まったらたいへん……!」


 アールフォーさんの懸念もある。だが俺の脳裏に浮かんだのは、今ここにはいない転生者ハル・ノートの顔だった。

 以前ハルと一悶着あった時、彼のワープする固有スキルをどうするかに悩まされたことを思い出していた。もしナヤートが、俺の《ハードボイル》のような攻撃だけの能力ではなく、ハルのようにこの場から姿を消せるスキルだったとしたら。見失うのは面倒だった。


 俺は手すりに手をかけ、乗り越える手すりの先、足場に目を向け……。


 その足場が暗く見えた。

 空を見上げた。青い空が急速に暗くなっていく。

 雲で太陽が翳っているのではない。雲ひとつない快晴だ。だが暗くなっていく。

 周囲を見回した。通りも、建物も色味を失い、ぐんぐん暗くなっていく。

 まるで日が沈み、黄昏時を過ぎ、青黒い光だけが残る、俗に言う逢魔ヶ刻(おうまがとき)のような暗さ。




《大気の密度が減少しています》




 またこの声だ。

 ナヤートと商人を見つける直前にも知らせてきた声。


「何だあ? 大気の密度ってよ?」


 階段に足をかけたまま立ち止まっているウォッチタワー。


「……ロスさん、あの!」


 アールフォーさんが周囲を見回しながら叫ぶ。


「何だろう」

「風が……風が吸い込まれていきます!」

「……どこへ?」

「あの角の向こう!」


 アールフォーさんが指差した。

 ナヤートが姿を消した、建物の角。


「全ての方向から、あの向こうに吸い込まれて……」


 彼女がそこまで言った時。


 体が妙に重くなった。

 下にではない。

 前に重い。

 引っ張られていた。


「うっ……!」


 手すりに手をつき体を支えた俺に、後ろからアールフォーさんが倒れこんできた。

 ウォッチタワーもナヤートが去った方向の手すりにもたれかかっている。


「な、何だ何だっ⁉︎」


 木造の階段が軋んでいた。そればかりではない。階段のある建物も、周囲の建物も。ガタガタと揺れ、軋みの唸りをあげていた。街中がだ。




《ナヤートはギャラクシーグレイヴの出力を上げています》


《大気濃度減少中》


《光子減少中》




 街が悲鳴をあげるなか、《スキルアナライザー》はまだ何か言っていた。

 古い階段はたわみ、つなぎ目の各部位から釘が飛んで隙間が空き始める。

 そして。




《スキルアナライザー応答なし。ナヤートを観測できません》




 次の瞬間、階段が崩壊した。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  ダウンバースト感を感じる能力。 転生者の能力、女性のほうが広範囲を破壊しがちな気がする。アールフォーさんもこう広域破壊な能力なのだろうか。
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