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第226話 奇襲! 怪人オニヤンマ男!


「何だありゃあっ⁉︎」


 階段上へ先行していたパンジャンドラムが叫んだ。

 窓から飛び出してきた3匹のオニヤンマ人間は、3階の踊り場からさらに上へ走ろうとする奴隷商人へ向け飛行する。


 ガチガチと顎をならすオニヤンマは明らかに商人を狙っていた。どうする?俺はラリアを投擲する姿勢に入っていた。階下には衛兵が4人。剣を片手にこちらへ駆け上ってくる。他に3人いたはずだがそいつらはもう片付いている。さらに3人いた賞金稼ぎも脱落したようだ。


「ラリア、まずは下だ!」

「はいですっ!」


 狙いは階下の衛兵。

 投擲。


《カミカゼ・ブーメラン‼︎》


 光をまとったラリアは衛兵たちに向かい飛ぶ……その時だった。


 階段の手すりの外側からオニヤンマが1匹、高速で躍り込んできた。ラリアを側面から蹴り飛ばす。反対側の、木製の手すりを砕きながらラリアは階段の外へと吹き飛ばされた。


「むむ……!」


 階段外の空中で放り出されたラリアだが、腕を交差させている。どうやら蹴りは見えていたらしい。防御したのだ。

 オニヤンマはその空中のラリアへさらへ飛行。


 邪魔するつもりだ。


「あの虫人間……ラリアのスキルが何か知っているのか⁉︎」

「ロス君、下っ!」


 パンジャンドラムの声に下を見やれば、衛兵の1人が剣を突き込んでくるところだった。

 狙いは腹。かろうじて後ろへ上って躱す。2階と3階の間の踊り場まで上がった。


「ロスさん、スキルが……スキルが使えません!」


 そこにいたアールフォーさんが叫ぶ。


「衛兵が持っているヌルチートの呪いだ! 上へ登れ!」

「待って! それなら……!」


 アールフォーさんは両手の指を5本、それぞれ先端を互いにくっつけると、その状態で中指だけを回し始める。


「何をやってるんだ、早く上へ……」

「……ロスさん、どいて!」


《アールフォーさんは魔法を使用しています。ウィンドナックル》


 険しい目つきで階下を睨んだアールフォーさん。俺はすぐに跳びのいて踊り場の手すりにもたれかかる。


 強風が、アールフォーさんから発された。風が巻き上げた埃が巨大な拳の形を取り、階段へと吹き下ろす。風の拳にブン殴られた衛兵たちは2階踊り場まで転がり落ちていった。


「わあ、すげえ……!」


 声を漏らしたパンジャンドラム。

 俺は空中に目をやった。飛び回るラリアをオニヤンマが追いかけ回している。

 ラリアの飛行エネルギーは長時間は持続しない。1度こちらへ戻ってこさせる必要がある。

 上の方を見上げれば、


《奴隷商人はオーダーウィップのスキルを発動しています》


 鞭を振り回し、手すりの向こうから入ってこようとする2匹のオニヤンマを追い払おうとしていた。

 ダークエルフのナヤートはそんな商人を追いかけようとしているのか階段の途中を這っていたが、自分の両手を震えながら見つめている。


 スキルが使えないのだ。


 地上を見れば集まってきたヌルチート憑き衛兵たちが階段を取り囲んでいた。20人以上いる。かなり遠巻きにしている者もいる。下から見上げた時に階段の陰に入られても横から見えるようにということか。


 踊り場に落ちていった4人の衛兵も立ち上がり、上ってこようとしていた。


「パンジャンドラム! アールフォーさん! 上れ! もっと上らなければ……」


 そう言って振り返った時。


「ロス君、アールフォーさんが……!」


 パンジャンドラムはくずおれたアールフォーさんを抱きかかえていた。

 アールフォーさんの顔は真っ青。脂汗が浮かび、まぶたをきつく閉じている。


《アールフォーさんの(ムゲンダイ)マジックポイントのスキルは不正な妨害を受けています。statusの魔力値は現在初期値の7に戻っています》


《アールフォーさんの魔力が枯渇。体力から変換されています》


 status。ステータス。懐かしい響きだった。以前ガスンバで、ホッグス少佐が魔力供給獣を使わず魔法銃を撃った時のことを思い出した。


 ステータスの値がどうやって計算されているのかも。

 ステータスの値は、自分が会得しているスキルを使った場合の最大出力。


「う、うぅ……な、何で……⁉︎」


 アールフォーさんの呻き。

 彼女はスキルがだめでも魔法なら使えると思ったのだ。

 だが《スキルアナライザー》によれば、アールフォーさんは魔力を増大させるスキルによって高レベルの魔力を得ていたことになる。今の彼女……いや俺たち転生者は、人並みの魔力しかないのだ。アールフォーさんはどうやら鍛え方の足りないアマチュアには荷が重い魔法を使ってしまい、魔力切れを起こしているのだ。


 階下から衛兵が殺到してくる。俺が食い止めるべきか。できるのか? そんなことが……。


 だがその時だ。

 俺たちのいる踊り場。建物に面しているわけだが、そこに内部へ入られる扉がある。


 その扉が勢いよくブチ破られた。

 中から姿を見せたのはウォッチタワー。


「ロッさん、どきな!」


 彼は建物の内部に避難していた。中の階段を上ってここまできたのか。その腕には長机が抱えられている。俺がアールフォーさんを抱えて脇へどくと、


「おりゃあああああ!!!」


 長机を突き出して階段へ突進。衛兵たちを突き飛ばす。


「ロッさん、ここは狭い! 奴らは1度には通れねえ、任せろおれに!」

「よし、パンジャンドラム、先に上がれ! アールフォーさんは俺が抱える!」


 アールフォーさんに肩を貸した。ウォッチタワーに時間を稼いでもらい、その間にラリアに戻ってきてもらおう。パンジャンドラムは階段を駆け上がっていく。彼は3階踊り場より上にいたナヤートに、


「おい君、上がって……」


 と声をかけたが……。


「きゃああっ! ゴブリン! それに、て、鉄砲……怖いっ!!!」


 ナヤートは悲鳴をあげるとバタバタと這うようにして階段を上っていく。


「……その態度はなくない? 初対面の奴はたいていそうだよ。オレもう人間不信になりそう」


 悲鳴をあげられた方のパンジャンドラムはしばし立ちすくんでいた。だがそれも少しの間のことで、肩に下げていたライフルを手に取ると再び階段を上り始める。


 俺とアールフォーさんもそれに続いた。

 上を見ると、奴隷商人は1番上の5階までたどり着こうとしていた。

 だが……。


「うわっ!」


 商人はついにオニヤンマ人間の1匹に捕まった。手すりから空中へ引きずり出され、さらに上へと持ち上げられていく。


 パンジャンドラムは階段の途中で立ち止まり、ライフルを構えた。

 オニヤンマに狙いを定めようというのだ。だが彼は舌打ちしてライフルを下ろしまた駆け上がる。彼の位置からでは商人の体が射線に入っていたのだろう。


 俺は叫んだ。


「ラリア! 戻ってこい!」

「はいです……あっ! 商人さん!」


 商人とは反対側、階段を挟んで空中戦を展開していたラリアも商人の危機に気づいたようだ。こちらへ飛んでくる。


 その商人はと言えば、オニヤンマに抱えられたまま建物の上まで上がり、屋上へ連れ去られようとしていた。

 5階踊り場にはすでにパンジャンドラムがたどり着いたようで発砲音が轟いた。だが2匹のオニヤンマが屋上へと姿を消していくのが手すりからも見える。


「パンジャンドラム! 屋上へ上がれ!」

「どうやって⁉︎ 高いよ!」


 俺の方へ突っ込んできていたラリアが急角度で上昇した。

 すると上の方でパンジャンドラムの悲鳴が聞こえ、さらに間を置かず、


「ロス君、登れた!」


 俺は今やっと4階。どうやらパンジャンドラムはラリアが飛行して運んだようだ。


「よし、商人は頼んだ! それから、ナヤート……」


 ナヤート。


 俺は階段を見上げる。


 そうだ。

 ナヤートはどこへいった?

 彼女はパンジャンドラムが追いついた時点で3階踊り場の上にいたはず。

 彼の姿を見て怯えて逃げたようだったが、パンジャンドラムが5階まで上ったということは追い越したのか? 俺とアールフォーさんはすでに4階。ここまでくるのに姿を見ていない。


 ラリアが左腕に戻ってきた。それはそれとして俺は辺りを見回した。


 4階踊り場。建物に向かって左側。

 外壁の補修でもやっていたのか、木の板でできた足場がある。


 その足場の上にナヤートの後ろ姿があった。銀髪を振り乱し走っていく。

 そうして建物の角を右へ曲がって見えなくなった。地上を見れば、ナヤートを見上げながら同じ路地に駆け込んでいく衛兵。


 俺は言った。


「やれやれ……パンジャンドラム! 商人は任せたぞ! 俺はヌルチートを片付ける!」

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] やはりニンジャドラムさんは隠行してこそ輝く 早くスナイプポジションに行くんだ [一言] スキアナ先生、何故に貧乳をさん付けなのよ 潜在的にロス・アラモスは貧乳萌えなのか
[良い点]  平時は影が薄くなりがちなパンジャンドラムとウォッチタワーあとラリアの見せ場な戦闘が始まった。戦いになると連携が抜群なロス・アラモス一行。みな存在感が増す。ロス・アラモスの独白とちょうどよ…
[良い点] みんなが連携して戦ってるの熱いぜ! パンジャンドラムかわいい。
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