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第225話 出現! 褐色巨乳ダークエルフJC!


 アンダードッグ区の建物は木造や石造りが混在していたが、高さが4階を超える高いものが多かった。


 それらの建物が空を遮っていたが、だんだんと崩れたものが目立つようになってきた。


「何だろうね。ボロボロじゃん」

「ここいら辺りは区の南側に近いんだろう。昔地震があったと聞いた」


 人影こそなかったが、崩れてはいながらも原型をとどめている建物の窓には、洗濯物が干されているのも見られた。騒動で逃げ出しはしたものの、まだこの辺りにも人が住んでいたのだ。


 路地を抜け、陽だまりのあるスペースに出た。




《大気の密度が減少しています》




 唐突に脳内で声がした。


「聞こえたか? みんな」

「うん。何? 大気の密度が減少って……」


 辺りを見回してみたが、ただ崩れたレンガの壁だとか、ひびの入った漆喰の壁が見えるだけで、特にこれといって異変はない。強いて言えば少し暗く見えるぐらい。


「……風が吹いてます」


 そう言ったのはアールフォーさんだった。険しい目つきで周囲を見回している。


「そうなの? オレは何も感じないけど」

「ゆっくりと……ゆっくりとですが動いてます」


 ウォッチタワーが声をかけてきたのでそちらを振り返る。彼は四方を囲む建物の1つ、穴の空いた壁の前に立っていた。


「新しいぜ、この崩れ方」


 彼の言うとおり、地震で崩れたにしては変だった。

 大の字になった人型のような穴が空いている。漫画やアニメのような穴の空き方だった。


 ウォッチタワーはその中を覗き込んでいたが、


「おっ! 誰かいる!」


 体の小さいパンジャンドラムが中へ入っていき、やがて1人の男を外へ運び出してきた。

 無精髭の生えた、革鎧の男。賞金稼ぎのようだった。


「気絶してるだけだよ。ただ背中が血まみれなんだけど」


 パンジャンドラムがその男をうつ伏せにしたが、たしかにべっとりと血だらけ。


「妙だね。傷がない」


 パンジャンドラムは男の背中をべたべた触っている。ウォッチタワーの方は壁の穴を調べて、言った。


「こっちにも血がついてる。壁の破片にも。突っ込んだみてえだが、背中から……」


 俺は言った。


「どうやらこの男もヌルチートを持っていたようだな。誰かに吹き飛ばされて壁に穴を空けたんだろう。その時挟まれたヌルチートの血だな」


 パンジャンドラムが男の頬を引っぱたくと、彼は目を覚ました。


「ねえ。ダークエルフ見た?」

「ああ、この向こう……」


 男は崩壊の激しい方の区画を指した。

 直後アールフォーさんが即座に記憶消去魔法をかけてゲロを吐かせる。

 彼女は俺を見上げて言った。


「ロスさん。風はそっちに流れていってます」

「エルフって言えばさあ」パンジャンドラムが言った。「風を操るってイメージあるけどさ。ダークエルフと何か関係あるのかな?」

「うーん……たしかにエルフ族は風魔法を得意としますけど、ダークエルフは風じゃなくて闇の魔法を使うと言われてます。関係があるかは……」

「ふうん……ハルがいれば何か知ってたかも知れないんだけどなぁ。あいつも結構魔法に詳しそうだったし」

「ハル……?」

「ああ、他の転生者を探しにいってる奴だよ。そいつも転生者」


 そんなやり取りを聞きつつ、ヌルチートは残り3匹だと考えていた。そうしながら、風が流れていく方向とやらに目をやった。

 建物と建物の間に広めの路地がある。路地というよりたまたま空いた空間のようにも見える粗雑な道で、石畳もない。奥は丁字路で、突き当たりに半分ほど倒壊した建物がある。

 気のせいだろうか。先ほど歩いてきた場所よりも暗く見える。


「マスター、誰かいるです」


 ラリアもそちらに目をやって、耳をピクピクさせているが、


「むー……よく聞こえないです……」


 風が向こうに動いているせいか。


「ケンカしてるです……!」


 俺たちは倒れた賞金稼ぎを放っておき、奥へ走った。

 丁字路までいき、ラリアの指示に従い右へ曲がる。

 左手側に並ぶ建物は一様に、上部が崩れ去っていて、青空が広がっている。


 そしてラリアは右側3件目の建物、外部に木造の外付け階段が取り付けられている、その上を指し、


「マ……マスター! 商人さんですっ‼︎」


 そう叫んだ。


 たしかにあの時の奴隷商人だった。崩れずにしっかりと形を保っている黒い壁の建物の、外付け階段の3階辺り。誰かの手を引いて走り上っている。

 下からは3人の賞金稼ぎ風の男たちと……7人の衛兵。


「クソッ、みんなヌルチートを背負ってやがる!」


 ウォッチタワーの叫び。たしかに階段を上る男たちの背には巨大ヤモリがいる。

 彼らが見上げる視線の先を追ってみれば、奴隷商人が手を引いている……黒い肌の少女。


 男たちは口々に叫んでいた。


「ウッヒョー、褐色巨乳少女ペロペロ!!!」

「待ってくれー! おじさんは怖くないよ!」

「俺、ハーレムの1員になったらたくさん働いてあの子を幸せにするんだ……!」

「ペロペロ!!!!!」


 控えめに言って大惨事のようだった。

 俺は言った。


「やれやれ……彼らは例によって例のごとくハーレムを勘違いしているようだな」

「ロス君いこう! ダークエルフの子がいる!」


 パンジャンドラムがそう言ううち。すでにアールフォーさんが走り出していた。


《アールフォーさんはウルトラスプリントのスキルを発動しています》


《アールフォーさんはコンバットサンボマスターのスキルを発動しています》


 助走をつけた彼女は階段の2階の手すりまで一気に跳躍。踊り場に躍り込むと、そこにいた衛兵3人をブン殴るわ投げ飛ばすわ、大立ち回りを始めた。グスタフ氏が評したとおりなかなかのお転婆である。中には踊り場の手すりをへし折って吹き飛ばされ落ちてくる者もあった。


「ウォッチタワー! 落ちてきた奴のヌルチートを頼む!」

「おう!」


 俺たちは階段に走り寄った。俺とパンジャンドラムはアールフォーさんと同様にスキルでもって階段の中ほどに跳び上がる。

 男たちはパンジャンドラムとアールフォーさんに任せ階段を駆け上がる。


 奴隷商人とダークエルフ。ダークエルフは、薄手のワンピースを着て、白銀の髪を持つ美しい少女だった。ついでに言うと幼い容姿の割にアールフォーさんよりも胸が発達していた。


 そんな2人は3階の踊り場からさらに上階へと向かおうとしていたが、


「おい商人! 俺だ!」

「商人さーん!」


 俺とラリアが呼びかけると立ち止まって振り向いた。


「やや⁉︎ お兄さん! きてくれたか……!」

「何をやっているんだ⁉︎ その子は……」


 久し振りに会った奴隷商人に対し、俺は何から問いただすべきか迷った。転生者。ラリア。ヌルチートに対するラリアのスキル。そのラリアを俺に押しつけたこと。ひょっとしたらあの商人は転生者が何なのか知っているのではないかという疑問。


 だが階段の下は騒がしく、何より商人はなぜか焦っている様子だった。


「ちょうどよかった! お兄さん、この子を頼む!」


 奴はダークエルフを振り返りしっかりと手を握ると、


「いいかいナヤート。あのお兄さんたちと一緒にいくんですよ! あの人たちがおまえさんを守ってくれる……!」

「え、おじさん、どこにいくの……⁉︎」

「あたしは追われてる。いかなきゃあ」


 商人はすがりつこうとした少女を、階段の俺側……、


「お兄さん頼みましたよ!」


 下の方へ押しやろうとした。

 だが。

 少女は俺を振り返ると叫んだ。


「や、やだぁ! 男の人……!」

「ナヤート違うんですよ、その人はあいつらとはちが……」

「やだぁぁ!」


 ナヤート、という名なのだろうか。年齢は女子中学生ぐらいに見えた。俺は帽子に手をやった。脱げているんじゃないかと思ったのだ。そして俺の無惨な頭皮を見て、JCが拒否反応を示したのかと。だがよく考えてみると脱げていようが俺の前髪はベストコンディションだ。理由は別にある。


 俺たちがたどり着くまでの間に彼女はヌルチートに取り憑かれた男たちに襲撃されたのだ。アレクシスの再来だった。


 だが下の方から足音が聞こえた。見れば衛兵たちをパンジャンドラムに任せ、アールフォーさんが駆け上がってくる。


「ロスさん、そのダークエルフは……」

「例の探していた子だ。ナヤートというらしい」


 その間も奴隷商人はナヤートに階段を下りるよう言いつつ、周囲を忙しなく見回している。当のナヤートはもはや泣き声すらあげつつ商人にすがりついていた。


 アールフォーさんが言った。


「ねえ、ナヤートちゃん……ですっけ? 怖がらないで。私たちはあなたを助けに……」


 その声にナヤートが振り返った。

 アールフォーさんのようなたおやかな女性が声をかけているのだ。俺と違って色よい返事が返ってくるはず……と考えたのは甘かった。

 ナヤートは血のように赤い瞳を大きく見開いて、


「ひっ……エルフ……!」


 そうしてさらに商人にすがりつきつつ、


「やだ、やだ! またエルフがあたしをいじめにきた! いやぁっ!」


 そう叫んでいた。

 俺はアールフォーさんと顔を見合わせた。


「まさかそんなことを?」

「わ、私は知りません! 別の村の人たちじゃ……ダークエルフを嫌ってる人たちがいるとは聞いたことありますけど……」


 俺は階段の下を見下ろした。俺たちがやってきた通りの反対側から、また数名の衛兵が走ってくるのが見えた。上から見下ろす形だったためわかる。全員ヌルチートを背負っている。


「ね、ねえ! 違うわ、私はあなたをいじめたりなんか……」

「こないでぇーっ!」

「大丈夫ったら! 聞いてちょうだい、私たちはあなたと同じなの!」


 ナヤートが振り向いた。

 俺はその時アールフォーさんの口をふさぐべきだったのだろう。だが予測していなかった。


「私たちもあなたと同じ! 転生者なのよ!」


 階段下の喧騒が止まった。

 通りを走っていた衛兵たちも足を止めてこちらを見上げていた。

 直後。


《不正な妨害が行なわれています。パンジャンドラムはスキルを発動できません》


《不正な妨害が行なわれています。ウォッチタワーはスキルを発動できません》


 俺とアールフォーさんの声は同時だった。


「え? え⁉︎ なに、何なの⁉︎」

「パンジャンドラム! ウォッチタワー! 逃げろ!」


 地上のウォッチタワーは階段が取り付けられている建物の扉をブチ破って中へ飛び込んでいった。パンジャンドラムはこちらへ駆け上がってくる。


 衛兵たちの一部が叫んだ。


「ウッヒョー! 貧乳エルフ!!!!!」

「貧乳美女なんという俺得! 俺はもう見てるだけで胸が苦しい!!!」

「これが恋かな!?!?!?」


 そしてわらわらと階段を駆け登り始めた。


「何ですか!!! 貧乳貧乳って人が気にしてることをあの人たち!!!」

「アールフォーさんいいから逃げろ! ヌルチートに見られるとスキルは使えないんだ! 捕まると大変なことになるぞ!」


 アールフォーさんの背中を階段上へ押す。下から上がってきたパンジャンドラムに先へいかせる。


「いくぞーラリアーッ!」

「おーっ!」


《ラリアは毒素消化(ディジェスター)を発動しています》


《ツープラトンのスキルが発動しました》


 ラリアを投擲する構え。商人の方を振り返り、


「そこにいろ! 今片付ける!」


 そう叫んだ時。


 建物の内側から何者かが、窓を突き破って飛び出してきた。


 3人。

 いや3匹と言うべきか。


 それは背中にトンボのような羽根を持ち、頭もまたオニヤンマのような姿をした……虫人間だった。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  女、転生者。それを軸として真逆の存在、ヤナートとアールフォー。この対立する真逆の存在というのは魔女の館でもいたがどちらも転生者ではなかった。今回はどちらも転生者。転生者から初の死者が出て…
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